『ONE PIECE』最後の主題歌を歌う夢 きただにひろしが語る――BUMP OF CHICKEN、AAA、Adoら珠玉のカバー

AAA「Wake up!」、Folder 5「Believe」……挑戦尽くしのカバー

――挑戦が多かった曲という点では、AAAの「Wake up!」もそうでしょうね。原曲は男女ボーカルですし、ラップも入っていますから。
きただに:ラップに挑戦したのも楽しかったです。ノリとかが難しかったんですけど、「なるほど!」という発見がいろいろとありました。
――ライブで歌う際はダンスもすることになるんでしょうか?
きただに:ダンスは苦手ですから歌に徹します(笑)。
――(笑)。若さあふれた仕上がりですね。
きただに:ありがとうございます。「ココロのちず」(BOYSTYLE)も若い感じだと思います。56歳のわりには声が若くて爽やかでしょ? 自分で言うのもなんだけど(笑)。こういう声のトーンを出させてくれたのは楽曲の力です。大海原のキラキラした感じが見えるような仕上がりになりました。
――「ココロのちず」を歌ったBOYSTYLEのメンバーのみなさんは、その後も活躍していらっしゃいますよね。すごい人たちが集まっていたんだなと思いました。
きただに:活躍していらっしゃるといえば、Folder 5もそうですよね。
――満島ひかりさんがメンバーで。Folder 5の「Believe」、懐かしいです。
きただに:「Believe」はユーロビートだから、あの頃の感じもありますよね。いい曲ですし、「ウィーアー!」の次のオープニングだったのも印象に残っています。ずっと「ウィーアー!」がオープニングだと思ってたのに、一年足らずで「Believe」になったから「ええーっ!?」って(笑)。
――そんな思い出もあるとは(笑)。「ココロのちず」は、5代目のオープニングテーマでしたね。このカバーは、心地好い力強さがあります。
きただに:ちょっとロック寄りにもなっていると思います。アレンジャーのみなさんのなかには「きただにひろし=ツーバス」というイメージがあるみたいで(笑)。BUMP OF CHICKENさんの「sailing day」も、ツーバスでドコドコ言わせてますからね。いいヘッドフォンやスピーカーで(原曲とカバーを)聴き比べてみるのも面白いと思います。D-51さんの「BRAND NEW WORLD」も難しかったですね。キーを下げたものの、それでも高くて「すごいなあ」と思いました。
BUMP OF CHICKEN「sailing day」で思い出した名シーン

――5050の「Jungle P」は、いかがでした?
きただに:ラテンの感じの曲はあんまり歌ったことがなかったんですけど、楽しかったです。日本人はやっぱりラテン調が好きなんじゃないかな。
――昭和の頃の歌謡曲も結構ラテン調が多いです。
きただに:そうなんですよね。「マツケンサンバ」とかもそうですけど、ああいうノリはウキウキしますし。
――ザ・ベイビースターズの「ヒカリへ」もいい曲だなとあらためて感じました。「Believe」の次のオープニングテーマです。リリースは2002年3月ですね。
きただに:そんなに前なんだ。どの曲もそうなんですけど、アニメの記憶も蘇りますよね。名シーン、名場面、名言を思い浮かべたりもしながらレコーディングに臨みました。
――どのようなシーンを思い浮かべました?
きただに:たとえば、「sailing day」の〈当たり前だ〉はルフィがナミを助ける名シーンを思い出しますね。あのシーンでルフィが叫んでるような感じを曲でも出したかったので、がなって歌っています。どの曲も『ONE PIECE』のためにみなさんが書き上げた曲だと思うので、歌詞の言葉が持ってる熱、色、形のニュアンスを大事にして表現しました。
最近のアニメの曲は作品に沿って作られていますから、すごくいいなあと思っています。タイアップということに対する考え方も変わってきているんでしょうね。チャートの上位がほぼアニソンになったりすることもありますし、海外のチャートに食い込む日本人アーティストの楽曲もアニソンが多かったりしますし、この現状ってすごいことですよ。
――The ROOTLESSの「One day」も『ONE PIECE』の世界にぴったりでしたよね。
きただに:ロック兄ちゃんにしか出せないいい意味での野暮ったさ、かっこいい声みたいなものを自分も出したくて。苦戦したところがあったんですけど、自分なりに歌えたと思います。
――「memories」は、きただにさんの思い入れの強さを感じました。アニメ『ONE PIECE』の最初のエンディングテーマですから、同期、同志みたいな感覚もあるんじゃないですか?
きただに:おっしゃる通り思い入れが強いです。マキちゃんは、僕にとって戦友ですから。「memories」をレコーディングする時には、マキちゃんをお呼びして。歌った本人がいるってプレッシャーがあるので、呼んでおきながら「なんで呼んだんやろ?」って(笑)。レコーディングにはハラミちゃんにお願いしたので、結構なプレシャーでしたね。
――ピアノを弾いているのは、ハラミちゃんなんですね。
きただに:そうなんです。絶対に「memories」ではハラミちゃんにピアノを弾いてもらおうというのは、企画の最初の段階から自分のなかで決まっていて、お願いしたら弾いてもらえることになりました。
ハラミちゃんのピアノのレコーディングの時にスタジオにお邪魔して、「ここはこうやって……」というような話し合いをして、そこから生まれたフレーズもあったりします。一発録りではないんですが、ふたりで一緒にやった感じのノリでレコーディングできました。レコーディングの時にはクリックを使うことが多いですけど、クラシックの世界は、結構自由なんですよね。彼女が弾いたオブリ(ガード)のフレーズは、「きただにさん、こういうふうに歌ってくださいね!」というのが聞こえてくる感じがありました。それに乗っかって歌ってるのを、聴いていただければ伝わると思います。
――とても臨場感があります。
きただに:歌は1本なんです。原曲に入っているコーラスをあえて入れず、ハラミちゃんがメロディを弾いています。ライブで歌う時は「ラララ」の大合唱になったらいいですね。
――「memories」は、今回の11曲のなかで最もアレンジを変えていますね。
きただに:はい。シンプルにしてみました。こういうのはバラードになってしまうことがよくありますけど、テンポは変えずにロックっぽい感じも出したかったんです。だから「原曲にもあったリフをピアノで残したいです」とハラミちゃんに伝えていました。