YUKI、アルバム『SLITS』レビュー:ジャケットから収録内容まで正真正銘の“名盤”、心と体を軽やかにする12曲
7. 金色の船(作詞:YUKI 作曲:安良岡 修 編曲:トオミヨウ)
トオミヨウが編曲を手掛けた、マンドリンの繊細な調べとストリングスの音色が美しい一曲。筆者は「金色の船」という一枚の絵画のような情景が浮かび上がるように聴こえたが、あなたはどのようなシーンを思い浮かべるだろうか。丁寧なサウンドメイクと琴線にふれるメロディが、過去に何かを手放したことのあるすべての人たちを優しく包み込む。
8. One, One, One(作詞:YUKI 作曲:YUKI, 前田 佑 編曲:前田 佑)
アルバムツアーでは、雨の降る電話ボックスで受話器越しに歌う演出が好評だった同曲。オートチューンや三連リズムの導入などトラップR&Bのニュアンスも含まれた洗練されたナンバーだ。後半には神聖かつパワフルなハイトーンが響くパートもあり、YUKIのディーヴァとしての一面を楽しむことができる。
9. 友達(作詞:YUKI 作曲:小椋健司 編曲:名越由貴夫)
メロディを聴いて浮かんだというYUKIの学生時代の“やわらかい傷跡”を歌に落とし込んだノスタルジックな一曲。渡り廊下、校舎の裏、グラウンド、朱色の指定ジャージ……聴く人たちの記憶の扉をそっと開けるようなワード、また親しい友人と語り合うかのような身近さのある歌声が、温かい気持ちを運んでくる。
10. パ・ラ・サイト(作詞:YUKI 作曲:New K & OHTORA 編曲:皆川真人)
ファンクラブ会員限定ライブでの初披露を経ての音源化。男性との奔放な関係を重ねる度に〈ああ またやらかした〉と嘆いてみては、観ているドラマの続きが気になったり、今はもういない〈あの人〉への思いがふとよぎったり、後悔して涙したり……自分で自分をうまくコントロールできない、どこか憎めない主人公像が〈カラダ・ココロ・チグハグ〉に描かれている。過去の傷を癒そうとするも、また新たな傷を増やしてしまうのは、若さゆえの過ちなのか。エモーショナルなロックナンバーに乗せた気だるげな歌声が、この曲に充満する怠惰なムードにマッチしている。終盤混乱したようにシャウトしながら歌うパートの迫力は満点。
11. こぼれてしまうよ(作詞:YUKI 作曲:キクイケタロウ 編曲:皆川真人)
YUKIが、これほどまでにシンプルな言葉で、ストレートに自分のことを歌った歌がこれまであっただろうか。メロディはありながらも終始モノローグのように、次々と溢れ出る言葉を歌っていく様子に強く胸を打たれる。皆川真人のピアノをはじめ、切なさが込み上げてくる演奏とあいまって、まさにYUKIのこぼれる思いが痛いほど伝わってくる渾身の一曲だ。なにかに悩んだり、迷ったりしている人にとってもきっと支えとなるだろう。ドキュメンタリータッチで描かれた本作のMVでは、さまざまな感情を抱えながら歌うことと向き合っているYUKIのリアルな表情が映し出されており、映像でもぜひ体感してほしい楽曲である。
12. 風になれ(作詞:YUKI 作曲:小椋健司 編曲:鈴木正人)
「風になれ」は、2024年のNHK『みんなのうた』6~7月度放送曲として制作された楽曲。鈴木正人(LITTLE CREATURES)がアレンジを手掛けたオルガンやホーンの音色とともに、YUKIの歌声が開放的に響くナンバーだ。この曲も日常がテーマになっているが、より広く大きなマインドを持つことが歌われている。風通しをよくするどころか、風になっていろんなところへ飛んでいくような、身軽さや柔軟さ。〈未来は見えないから 不安ではなくて/どんとこい!と 準備をするだけだ〉ーー予測不能な人生をどのように生きていくのかは、常に自分次第。しかし、同じ時間を過ごすなら、楽しもうじゃないか。ラストを飾るに相応しいメッセージでアルバムは幕を閉じる。
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「私にとってスリットは“自由”」。YUKIは自身がパーソナリティを務めたラジオ番組で、ニューアルバムのタイトルが示す意味について…※1:https://www.yukiweb.net/slits/
■リリース情報
YUKI『SLITS』
完全生産限定盤(アナログ盤/LP2枚組)ESJL 3163-3164 ¥4,500+税
【収録楽曲】
<Side A>
Now Here
雨宿り
流星slits
<Side B>
Hello, it’s me(FANCL 新スキンケア「toiro」CMソング)
ユニヴァース
追いかけたいの
<Side C>
金色の船
One, One, One
友達
<Side D>
パ・ラ・サイト
こぼれてしまうよ
風になれ(NHK「みんなのうた」2024年6〜7月放送)