弌誠、キャラソン時代に最適化したユニークな視点 曲作りで意識する“ギリギリのライン”とは

 2024年、ゲーム『ゼンレスゾーンゼロ』(以下、『ゼンゼロ』)に登場するエレン・ジョーのキャラクターソングとして制作された「モエチャッカファイア」が、YouTube ウィークリーミュージックビデオランキングで4週連続1位を獲得し、バイラルチャートでロングヒットを記録するなど、注目のニューカマーとなったシンガーソングライター・弌誠(いっせい)。彼が再び『ゼンゼロ』の星見雅のキャラクターソング「あられやこんこん」をリリースした。さらに今年8月には恵比寿LIQUIDROOMでの初のワンマンライブ『弌誠 1st ONE MAN LIVE「チャイルドレストラン」』を開催。チケットは完売し、Zepp Shinjuku (TOKYO)での追加公演も決定している。キャラクターソングという切り口からヒットソングを生み出した、2001年生まれの弌誠の現在地を「モエチャッカファイア」と「あられやこんこん」を軸に紐解く。(伊藤亜希)

日本の童歌からの影響「シンプルなのに重力感がある」

――初めて自分で曲を作ろうと思ったきっかけは?

弌誠:高校生の時ですね。軽音楽部に入部したんですけど、「オリジナル曲を作らないとダメ」みたいな部活で。

――なかなか厳しい軽音部ですね。

弌誠:そうなんです(笑)。すごくスパルタで、1年生なんて何もわからないから、みんな無理矢理作ってましたね。作らないと怒られるから。

――軽音部に入っていなくてもオリジナル曲を作っていたと思います?

弌誠:いやぁ……絶対作ってないと思いますね。もともとコピー曲をやりたくて軽音部に入ったので、曲を作るっていう発想がなかったし。仕事にしようって考えにもそもそも至ってないと思います。今考えると、高校の部活はすごく大切な経験だったと思います。

――弌誠さんの曲って、日本の童歌(わらべうた)とか数え歌を彷彿とさせるメロディが大きな特徴だなと思うんですよ。例えば「あられやこんこん」は、それがわかりやすく出てる1曲だと思うんですね。そこは意識して取り入れているんですか?

弌誠:意識してますね。最近は特に意図して取り入れてる部分も大きいかもしれないです。歴史を感じる旋律が好きで、童歌、スパニッシュ、クラシックとかが、パッと聴いて個人的にグッとくるメロディなんですよね。

――「あられやこんこん」にはスパニッシュなギターも入ってますよね。子どもの頃と今と、童歌に対しての解釈って変わりました?

弌誠:あぁ……(考え中)……はい、変わってるかもしれないですね。子どもの頃は、童歌の絵本みたいなのを読み聞かせてもらったりしたんですけど、感動したとかじゃなくて、ただすぐ口ずさめるから印象に残っているんだと思います。童歌って、だいたい3音くらいしかないから。それはたぶん、口ずさみやすいように結果的にああなったんだと思うんですけど。それが大人になって今聴くと、グッとくるっていうか。すごい、こんなシンプルなのに重力感があって。

――重力感? 吸引力みたいなことですか?

弌誠:そうです、そうです。日常的にBGMとして聴くにはちょっと重いかなみたいな。そういう重力感もある。そう考えると、僕の作る曲は、重くなりがちだと思うんです。

――極論を言うと、日常的に聴く曲になりにくい。

弌誠:そうなんです。だから、重くなりすぎないように、日常的に気軽に聴けるようなバランスを探して作っているんですよね。「モエチャッカファイア」は、そこに辿り着くことができたというか、いい落としどころを見つけられた曲だなって思います。

“非公式感”が漂うことの面白さ

――その「モエチャッカファイア」が大ヒットしたことをご自分ではどう思われました? 

弌誠:自分が好きなキャラと一緒に、自分の声が世に放たれてるのがすごく気持ちよくて。承認欲求がすごく満たされましたね(笑)。

――もともと推しキャラだったんですか?

弌誠:そうなんです。『ゼンゼロ』のゲームリリース前からキャラクター情報が出てて、一番好きだったんですよ。なのでそのキャラクターソングを作れたことがすごく嬉しかったです。エレン・ジョーってすごく可愛いから、自分の中では可愛いを詰め込んだ曲ですね。それが、リリースされたらカッコいい曲とか言われるようになったんですよ。

――『ゼンゼロ』の魅力である、バトルシーンをイメージしながら作ったりはしました?

弌誠:そうですね。エレンちゃんが戦っている最中に流しても、いい感じになるような曲調にはしたいなと。『ゼンゼロ』がバトルゲームなんで、絶対バトルシーンで使われると思って、そこは結構イメージしました。そこに可愛さをプラスして。自分なりにですけど、いろいろなイメージを好き勝手表現した曲ですね。

モエチャッカファイア / 弌誠:MUSIC VIDEO

――「モエチャッカファイア」の歌ってみた動画の多さ、すごかったですよね。歌い手界隈でもたくさんカバーされてたし。VTuberもカバーしてましたし。

弌誠:すごく嬉しかったです。歌い手の方のサムネとかが、エレンちゃんバージョンになって、ちょっとコスプレ亜種みたいな感じもあって。二次創作の曲なのに、そのさらに二次創作みたいな感じのものがたくさんあって「これ何次創作まで行くんだろう」って、すごくワクワクしました。

――まずはエレン・ジョーありきの曲だから、ご自分の中で「モエチャッカファイア」は二次創作っていう位置づけなんですか?

弌誠:そうですね。

――オリジナル曲なのに?

弌誠:そうですね……二次創作だっていう方が強いですね。ファンの人とかも最初は二次創作だと思ってたみたいで、そういうコメントがすごく多かったです。曲とMV、両方とも非公式感があるからいいのかなと思っていたんですよ。

――確かに。特にMVは非公式感あるかも(笑)。

弌誠:これ本当に公式かみたいな(笑)。

――ありますねぇ。

弌誠:ちょっと“抜けてる感じ”が良かったんだなみたいな。自分自身もちょっと非公式な匂いの強い作品の方が好きだったりするので……怒られるような曲は作らないですけど(笑)、そのギリギリ手前の曲にしたいって思ってます。

――そのギリギリのラインが、自分がクリエイターとして作ってる時に、面白さを感じる部分?

弌誠:そうですね。「モエチャッカファイア」だったら、可愛い女の子の曲なのに、なんでこんなに低い男の声を聴かなきゃいけないんだよみたいに言われそうだけど(笑)、そう言われないギリギリのキャラクター性と、これは表現の一環として低い声なんですよっていうのが伝われば、受け入れられそうっていう。自分の中でそういうラインが何個かあるんですよ。

――そのライン、一音一音にあったりします?

弌誠:ありますね。メロディは変えられないから、バックの音色を変えようっていう感じですかね。

勝手に曲が“怖くなってしまう”要因

――「あられやこんこん」について伺っていきましょうか。

弌誠:今のサブスクでのヒットチャートとかを聴くと、生だけど打ち込みっぽい音が流行っていると思っていて。この曲も打ち込みを中心に作っています。

――生の音色だけど、残響音とかピッキングの音とかがなくてきっちりしている音ってことでしょうか?

弌誠:そうです、そうです。そういう音が求められていると思っているので、僕は全部打ち込みでやってますね。

――では、ホラー感っていうのは曲作り、歌詞を作る中で1個の大切なキーワードだったりしますか。例えば「あられやこんこん」も、〈こんこん〉が〈狐〉にかかっているんだなと思うと、ちょっと怖さを感じるんです。他の曲にも、童謡のフレーズを持って来ていたりしているし。そこに怖さを感じたので、ご自分はどう思ってるのかを伺いたいです。

弌誠:ホラー感……勝手に怖くなっちゃうんですよね。「めっちゃ明るい曲できた」って人に聴かせると「いや、もう怖いからやめた方がいいよ」みたいに。

――よく言われます?

弌誠:一度、知人の結婚式を祝うための曲を作ろうと思って作って、試しに母に「このウエディングソングどう?」って聴かせたら、「聴いててなんか死にたくなるからやめた方がいい」って(笑)。

――(笑)。自覚はないんですね。

弌誠:人から「怖い曲」って言われて怖い曲なんだと思うけど、自分では怖い曲を作ろうとは思ってないんですよ。

――では、自分は怖がりだと思います? 夜怖いですか?

弌誠:全然怖くないですね。

――ホラー映画とかも?

弌誠:普通に観れますね。スプラッター系も幽霊系も大丈夫。ホラー系は全部いけます。

――映画の中でホラー系が好きなんですか? それとも、他に好きなジャンルあります?

弌誠:恋愛の映画が好きですね。やっぱ人が一番怖い。自分の中のダークな感じは幽霊とかよりも、人間関係とか人のヤバいところ……みたいな思考から出てくる暗さかもしれないですね。

――人間が一番怖いっていうことに気がついたのはいつくらい?

弌誠:小6とか中学に入ったくらいですかね。

――すごいな。その人間が一番怖いって気持ちが、その時期からずっと続いてるってことですよね。

弌誠:そうですね。なんかもう、サンタさんが本当はいないって言われた時も、「ああ、この世界は嘘しかないんだ」と思って。それから嘘がどんどん発覚していってる感じです。大人になったら、すごく楽しいことが待ってると思ってたのに、そんなことはなかった、とかもそう。綺麗だと思ってたものが、やっぱり大人に向かっていくにつれてなくなっていくじゃないですか。

――はい。いろいろ知っていく中でね、1つずつ。

弌誠:そう、知っていく中でなくなっていく。で、僕自身が、ネガティブな部分をピックアップしちゃう癖がある。だから、重めの暗い曲になっちゃうのかなって。だからせめて歌詞は明るくしようみたいな。そうしてできたのが「モエチャッカファイア」かもしれないですね。「あられやこんこん」は、歌詞がちょっとミステリアスな感じだから、逆にサウンド面で生音を使ってちょっとライトさを出したりしています。

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