宗像明将『BiS研究員 IDOLファンたちの狂騒録』刊行記念 ちょい読み第3弾:BiS研究員  ごっちん

 音楽評論家・宗像明将による書籍『BiS研究員 IDOLファンたちの狂騒録』が、2025年1月7日に株式会社blueprintより刊行される。

宗像明将『BiS研究員 IDOLファンたちの狂騒録』

 2010年に結成、2011年からライヴ活動を開始し、それまでの「清純派」のアイドルとは異なるラディカルなスタイルを打ち出した、アイドルグループ「BiS」。アイドル業界に一石を投じる存在として、現在でも大きな影響を与えている。特に2024年7月8日に再結成ライブを行った、プー・ルイ、ヒラノノゾミ、カミヤサキ、テンテンコ、ファーストサマーウイカ、コショージメグミなどが在籍した第1期BiSは、これまでのアイドルのイメージを覆すアイドルとして、今でも語り継がれるようなさまざまな過激な伝説を残した。

 そのBiSのファンである通称「BiS研究員」たちは、圧倒的な熱量でBiSに人生をささげるようなファンが多くいるほど、明らかに他のアイドルファンとの特異性が見られる存在であった。中には若くして亡くなってしまった研究員や、BiS研究員として生きた証を墓石に刻んだファンもいる。ただ、BiS研究員のそういった記録は時代とともに風化をしており、ほとんど残ってない状況にある。本書では自身も研究員として当時の熱狂を体験していた著者が、元メンバーのプー・ルイやミチバヤシリオをはじめBiS研究員と関係者のギュウゾウ(電撃ネットワーク)などの取材を重ねた渾身のルポルタージュ作品である。

 リアルサウンドでは本書の刊行を記念し、内容から一部抜粋してお届けする「ちょい読み」企画を連続展開。第3弾となる今回は、BiS研究員  ごっちんを紹介する。

<BiS研究員  ごっちんより一部抜粋>

 掛川駅には雨の記憶しかなかった。ごっちんが2018年1月26日に39歳の若さで亡くなり、2018年1月28日に通夜を訪れるため新幹線の掛川駅を降りると、冷たい雨が降っていた。それ以外の記憶がない。

 ごっちんは、ご両親にも恋人にもアイドルが好きだったことは隠しており、葬儀を訪れた研究員や、おやすみホログラムのファンは、全員が大森靖子ファンだという設定になった。そして、スケジュール的に来られないはずだった大森靖子も通夜を訪れた。研究員としてBiSを解散まで見届けたごっちんは、以降は大森靖子を本現場として、最後の最後までライヴに足を運び続けた。

 あれから6年以上。2024年10月に掛川駅を降り、ごっちんのお母様である伸江さんの自動車に乗せてもらった。車窓の向こうは澄みきった秋晴れ。静岡県掛川市の空はこんなに青かったのかと驚いた。

 ごっちんの実家は電器店。伸江さん、そしてごっちんのお父様である信夫さんに会うのは、通夜以来だった。私は2024年4月に著書『大森靖子ライブクロニクル』を上梓し、ごっちんとのエピソードを記した。その『大森靖子ライブクロニクル』をごっちんの仏壇に供えたとき、ようやくこの書籍が完結したかのような感覚になった。

 私が通されたのは、ごっちんが実家にいた頃に使っていた部屋。BiS階段や大森靖子のレコード、ごっちんのギターなどが飾られ、ごっちんが学生時代に使っていた勉強机には、BiSのタオルが何枚もかけられていた。

 ごっちんこと信介は、両親が営む電器店の一人息子として生まれ、18歳で東京へ進学するまでをこの部屋で過ごした。

 「一人っ子として育ててはいけないということで、小学生の頃はスイミングスクールに入れたり、その後はボーイスカウトに入れたり。ただ、一人っ子なりに自分の殻がしっかりあるっていうのかな。親の言うことは非常に聞くけど、他の人にとってみれば、なかなかそこら辺が難しいところだったかもしれない。あるとき『お母さんは女だから弱い、おまえは男だから守らにゃいかん』って言っちゃったんだよね。そうしたら、僕が遅くまで出かけていると、帰ってくるまで起きてるんですよ」(信夫さん)

 ごっちんの部屋には、何枚もの賞状が額に入れて飾られていた。ごっちんの賞状もあれば、信夫さんの賞状もある。ふたりでどちらが多くの賞状をもらえるか競っていたという。

 「スイミングスクールの新記録とか、学校の勉強で賞状を取ったりね」(伸江さん)

 中学生になると、バスケット部に入る。ごっちんの部屋に飾られている「SLAM DUNK」の絵を見て、私は商品かと思ったものの、ごっちんが描いたものだという。漫画から漢詩や韓国史の書籍までを読んでいた。高校では普通科に進学する。

 「信介に『おまえは何か特技あるのか』と言ったら、『僕は運動能力がないので勉強をしたい』と。電器屋を継ぐにしろ何にせよ、一人っ子として甘やかしてはいかん、外に出さなきゃダメだっていう気持ちがあったんです。ただ、学校では友達から『おまえは電器屋の息子だから継げばいい』と言われたのが非常に嫌だったみたい。『僕には僕の人生がある』っていう考え方だから、好きなことをすればいいと思ってました」(信夫さん)

続きは書籍にて

■書籍情報
『BiS研究員 IDOLファンたちの狂騒録』
著者:宗像明将
amazon予約:https://www.amazon.co.jp/dp/4909852476
四六判/268ページ(口絵20ページ)
ISBN:978-4-909852-58-8 C0073
定価:2,750円(本体2,500円+税)
発売日:2025年1月7日(火)

■目次
はじめに
BiS研究員  ごっちん
BiS研究員  越田修
2011年のBiSと研究員
BiS研究員  みぎちゃん
BiS研究員  Kん
2012年のBiSと研究員
BiS関係者  高橋正樹
便器の男
BiS研究員  Kたそ
2013年のBiSと研究員
BiS研究員  がすぴ〜
BiS研究員  Tumapai、あるいは田中友二へ
Tumapaiの母
2014年のBiSと研究員
BiS関係者 ギュウゾウ(電撃ネットワーク)
BiS元メンバー  ミチバヤシリオ
2014年7月8日の横浜アリーナ
BiS解散後の研究員
BiS元メンバー  プー・ルイ
2024年7月8日の歌舞伎町シネシティ広場
BiS年表2010-2024
あとがき
BiSオフィシャル&ブートTシャツとBiS研究員

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