香取慎吾だけのエンタメマジック=“慎吾ママ” 『ワルイコあつまれ』ゲストの自由を引き出すパワー

 「香取慎吾がやること」となると、私たちはいつもいい意味で感覚がバグってしまう。これまで非日常だったことも、香取には「それもアリ」と、新しい普通に塗り替えてしまう力があるように思うのだ。

 SMAPがアイドルでありながら本格的にコントに参入した先駆者だと言われてきたが、その先陣を切っていたのは間違いなく香取だった。

 香取は他のメンバーとともに『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)で数々の名物キャラクターを演じたことに加えて、「BISTRO SMAP」のコーナーではゲストにちなんだショートコント「おいしいリアクション」を披露するのが日常的な風景になっていた。

 いつもの番組の、いつもの流れ。当時はそんなふうに眺めていたが、よくよく考えるとこれは簡単なことではない。大物ゲストを前に大胆なパロディネタをぶつけ、ヒヤヒヤしたことも数知れず。しかし、不思議とその場が笑いに包まれる。メンバーさえ「何が飛び出すのか?」といった表情で口角を上げていたことを思い出すと、香取に絶大な信頼が寄せられていたことが窺える。

 その集大成とも言えるキャラクターが、慎吾ママだ。1998年から2002年にかけて放送されていたバラエティ番組『サタ☆スマ』(フジテレビ系)の「慎吾ママのこっそり朝御飯」コーナーから生まれた慎吾ママ。早朝に一般家庭へ訪問して、お母さんに代わって朝の家事を代行するという取り組みは、それこそ誰にでもできることではない。

 だが、そんな先鋭的な企画にもかかわらず、慎吾ママはあっという間にお茶の間の人気者となる。2000年には主題歌の「慎吾ママのおはロック」をリリースして、ミリオンセラーを達成。決めセリフの「おっはー」は「新語・流行語大賞」を受賞。

 番組内でのキャラクターが、『うたばん』(TBS系)や『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)と、いわゆる“他局の壁”を飛び越えて出演していたのも、非常に稀なことだった。2000年といえば、SMAPとして「らいおんハート」をリリースしていた時期だと考えれば、どれほど彼が器用に動いていたのかと感服する。そんな活躍の仕方は、ほかに類を見ない。

 そして、それから20年以上の時を経て、NHKでレギュラーコーナーを持っているというのも前代未聞だ。稲垣吾郎、草彅剛とともに出演している教育バラエティ番組『ワルイコあつまれ』(NHK総合)内で、香取が慎吾ママとしてMCを務めてゲストとのトークを展開する「タイムスリップトーク 慎吾ママの部屋」。ゲストも、香取だからこそと出演を決めてくれたのではないかと思われる、豪華な名前が連なる。

 初回は竹中直人が豊臣秀吉に扮して登場するなど、大御所のゲストを招きながら、本人ではなく歴史上の人物としてトークするという贅沢さ。かと思えば、デヴィ・スカルノがスカルノ大統領夫人時代の本人役として出演する変化球も。さらには、里見浩太朗がTBSのドラマ『水戸黄門』から抜け出して水戸光圀として出演するという、またもや“他局の壁”を越えてくる。

 また、香取と旧友の仲である観月ありさ(フローレンス・ナイチンゲール役)が出演したり、山本耕史が香取と共演したNHK大河ドラマ『新選組!』の土方歳三役で駆けつけたりと、歴史上の人物を学びながらも、香取自身の歩みを知っているとさらに味わい深くなる仕掛けも嬉しい。

 今年4月には、番組が放送枠を引っ越したことで、さらに注目度がアップ。大地真央(マリー・アントワネット役)、木村多江(推古天皇役)、真琴つばさ(ヴィクトリア女王役)、近藤春菜(津田梅子役)、満島真之介(ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト役)……と、ゲストの贅沢づかいは加速する一方だ。

 本人のトークだって十分貴重なのにもかかわらず、歴史上の人物になりきってバラエティ出演するなんて、普通ならば「ありえない」。しかし、なぜかそこに香取が慎吾ママとしていると、「ありえる」景色になってしまうから不思議だ。それは何よりゲスト自身が、慎吾ママの作り出す非日常空間を楽しんでいるからかもしれない。

 NHK大河ドラマ『どうする家康』で茶々役を演じた北川景子は、「茶々で〜す。いつもはこんな感じ!」とフランクなノリで登場して、慎吾ママの笑いを誘った。稀代の悪女として知られる茶々がこんなにも身近に感じられるのも「慎吾ママの部屋」ならでは。

 そして、満島真之介はモーツァルトとして登場するやいなやノリノリで生演奏して慎吾ママを圧倒。さらに「モーツァルト〜! イエーイ!」とグータッチで挨拶して、その場の空気をさらっていく。まさに「こんなモーツァルト見たことない」と抱腹絶倒な時間になった。

 さらに、八嶋智人はサルバドール・ダリ役として「はい、どーもー! 天才でーす!」とハイテンションで登場。そんな八嶋を香取が慎吾ママとして「いや、もうフルパワー……」と冷静にツッコむことで緩急がついて笑いが倍増する。

 ともすればポップな出で立ちから、慎吾ママのほうがゲストを盛り上げていくのかと思われるが、回を重ねるごとにゲストがここぞと爆発しているように感じる。その熱量を時にはいなし、ときにはさらに燃料を投下して火力を上げて、番組を成立させていくのが香取の腕の見せどころなのだとわかる。

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