Vaundyはなぜ“痛み”を歌い続ける? 「風神」「Gift」などでも提示されたポップスのあるべき姿
2024年に入って以降、次々とリリースされるVaundyの新曲を聴くなかで、それらの楽曲にひとつの共通点を見い出せることに気づく。その共通点とは、“痛み”について歌われていることである。たとえば、「タイムパラドックス」「Gift」では〈痛み〉、「ホムンクルス」「GORILLA芝居」では〈痛い〉という歌詞がそれぞれ用いられている。なお、10月12日にリリースされた新曲「風神」においても、〈痛み〉や〈痛いよ〉という歌詞が全編にわたって何度も登場する。「GORILLA芝居」を除き、ここで挙げた各曲はどれもタイアップ曲であり、タイアップ先のテーマや物語に応じて歌われるモチーフは異なってはいるが、今年リリースされた新曲をこうして並べてみると、「痛みから目を逸らさない」というVaundyの一貫した姿勢が浮き彫りになる。
そうした姿勢は近年になってから顕著になったものではなく、遡ると、Vaundyは活動初期から一貫して“痛み"と向き合っていたことが分かる。2019年に自主企画ライブ限定で発売されたCDのタイトルは『痛いいたいの飛んでいけ』であり、2020年5月24日には、Twitter(現X)で「痛みを理解できない平和な時代だから 与える前に気づけない 与えた後に気付かされる 与えた傷は相手にだけじゃなくて、自分にも残るよ」と“痛み”に関する投稿をしていた(※1)。先ほどは、2024年に入ってからリリースされた曲の歌詞を例として挙げたが、それ以前にリリースされた楽曲の中にも“痛み”について歌われているものが多く、彼の表現における根源的な要素のひとつとして意識的に取り入れられていると言える。
なぜVaundyは、“痛み”について歌うのだろうか。その答えは決してひとつではないかもしれないが、筆者は今年9月28日に放送された特番『Venue101 Presents Documentary on Vaundy』(NHK総合)のなかに、その問いに迫る手掛かりがあるように感じた。まず最初に思い出されるのが、音楽とデザインの共通点について伝える過程で語られた次の言葉だった。
「音楽でいうと、時代にある根本的な問題なのか、人が抱えている問題なのか、そういう小さな問題に対して寄り添ってあげられる。解決案っていうBGMみたいな、そういうものを作るのが僕は音楽だと思っているんで、やっぱ一緒なんですよねデザインと」
また、同番組のなかで、Vaundyはこうも語っていた。
「音楽家だし前向きな曲作ったほうがいいよなっていうのは常にあるのかも。暗い気持ちでも最後は明るく終わる。解決に向かって曲が進んでいったほうが、未来に残っていく曲としても僕はいいと思っているので」
「僕の知っているポップスというのは、儚いことがあっても、僕はこうするよ、どう? みんな、みたいなのはあるかも。提案してあげるみたいな、曲を通して。相手と自分だからポップスって」