リアルサウンド連載「From Editors」第81回:『ロボット・ドリームズ』は大人にこそ刺さるアニメ映画

 「From Editors」はリアルサウンド音楽の編集部員が、“最近心を動かされたもの”を取り上げる企画。音楽に限らず、幅広いカルチャーをピックアップしていく。

『ロボット・ドリームズ』を観て

 映画『ロボット・ドリームズ』を観ました。映画部の人と話している時に「最近よかった映画」として名前があがった作品です。犬とロボットの友情物語で、街並みのアニメーションの描写が美しく、アニメーションだけど、観客はほぼ大人で後半その大人たちのすすり泣く声が場内に響き渡っていた、と。なんだか気になる。話を聞いた翌日映画館のチケットを予約したところ、大きなスクリーンではないけれど早朝の回から満席。アカデミー賞ノミネートはじめ数々の賞を総なめにしているという話題性はもちろん、口コミでも広がりを見せているようです。この状況には期待が高まります。

11月8日(金)公開『ロボット・ドリームズ』|本予告

 舞台は80年代後半のニューヨーク。この街で孤独に生活する犬=ドッグが、深夜の通販で友達ロボットを購入するところから始まります。まず驚いたのは、全編通してセリフが一切出てこないこと。擬人化されたキャラクターたちの表情や仕草、音楽を含む音だけですべてを物語っていくのです。ドッグがワクワクしているときは尻尾を激しく振っていたり、ドッグとロボットの心の距離を手のつなぎ方の変化で表現したり、アイコンタクトをするところではキャラクターたちの会話が聞こえてくるような感覚すらありました。

 音楽もこの作品の重要な要素の一つ。ドッグが暮らす家のテレビ、ストリートミュージシャンの演奏、公園に持ち込まれたカセットデッキのスピーカー……至るところから聴こえてくる当時流行していた音楽、効果音的に使われるジャズの劇伴も効いています。なかでもドッグとロボットの思い出の一曲となるEarth, Wind & Fire「September」、場面によって楽しくも切なくも響くこの選曲が絶妙でした。個人的には、不器用で寂しがり屋のドッグと社交的で健気なロボットの関係を恋愛に置き換えて見ることもできたのですが、どうでしょうか。かわいいキャラクターだからと油断は禁物。誰かを想うこと、そして幸せを願うこと。大人にこそ刺さるものが間違いなくある作品だと思いました。

映画館でもらったポストカード

 それにしても、海を越えたところで生まれた作品にしては共感できる部分が多いなと不思議に思っていたのですが、エンドロールで目に入ってきたミュージックエディターの原見夕子さんという方がパブロ・ベルヘル監督の公私にわたるパートナーであり、監督自身も日本文化に影響を受けてきたと後から知って納得。高畑勲さんや宮崎駿さんをストーリーテラーとしてリスペクトしていて、制作時には日本のアニメも参考にしていたそう。端々にそうした影響も滲み出ているのかもしれません。

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