ヒゲダンが手に入れた“宝物” 今伝えたいことを伝えきった『Official髭男dism Arena Tour 2024 -Rejoice-』
11月13日、Kアリーナ横浜で『Official髭男dism Arena Tour 2024 -Rejoice-』を観た。コロナ禍と藤原聡(Vo/Pf)の声帯ポリープ治療を経て、観客の「声出し」が解禁されてから初めてのツアーだ。オープニングを飾る、ニューアルバム『Rejoice』の1曲目「Finder」の映像がビジョンに流れている間から、大歓声が止まらない。溜めに溜めたパワーを爆発させる準備は万端だ。全員に配布された「光るリストバンド」が突然輝く。IT’S TIME TO REJOICE。
ピアノを弾いて歌いだした藤原の力強い声が、広い空間いっぱいに広がる。メンバー4人の演奏でじっくり聴かせる、1曲目は「Sharon」だ。「アーユーレディ、横浜!」、藤原が叫ぶ。空気が一気に熱を帯び、「Get Back To 人生」はコーラス、キーボード、パーカッションが加わって音の厚みがぐっと増す。さらにホーンセクションが加わり、総勢13名で奏でる「宿命」。小笹大輔(Gt)がパーカッションを叩き、楢﨑誠(Ba/Sax)がシンセベースでリズムを強化する。そこに2万人の手拍子が加わり、包み込まれるような音圧が凄い。
「今年一番大きな声で、歌える準備はできてますか!」(藤原)
藤原がマイクをつかんでステージを走る。それを客席に向けて歌唱を促す。曲は「Stand By You」。振り向けば3階席のてっぺんまで、♪ウォウォウの大合唱と、盛大なクラップが壮観だ。
「昨日もすごかったですが、今日も何ですか、その声量は。素晴らしい歌声を聴かせてくれてありがとうございます」(藤原)
ここから4曲、ゆったりと体が揺れる「キャッチボール」、小笹のギターがいかしたリフを刻む「日常」、しっとりと心が揺れるスローナンバー「濁点」、ドラマチックなピアノロックのミドルバラード「Subtitle」。藤原の歌声の温かさを、たっぷり聴かせる楽曲が並んだ。1曲ごとにキーボードやパーカッションが入れ替わり、編成が変わるのが面白い。曲に合わせた最適な衣装(アレンジ)を選ぶ、バンドのこだわりがしっかりと見える。
「4年ぶりの声出しライブ、だいぶ時間がかかりました。でもその先に今日みたいな景色があるのなら、待った甲斐がありました」(藤原)
わずか数年前なのに、懐かしさと愛しさを感じさせる「115万キロのフィルム」。人生をかけたラブソングが、年を経るごとにバンドとファンとの関係に重なって聴こえてくる。「ここから後半戦!」、藤原が叫ぶ。小笹のハードロックギターが轟き、まばゆい光の渦がビジョンを埋め尽くす「ホワイトノイズ」。バリトンサックスに持ち替えた楢﨑が、ホーンセクションと共にステージ中央で大暴れする「ノーダウト」。フィナーレのような盛り上がりだが、ライブはまだ半分だ。
ここでちょっと一息。松浦匡希(Dr)、楢﨑誠、小笹大輔のゆったりトークタイムもまた、ヒゲダンのライブの大事な要素。そして次の曲のコード、「C on D!」を全員でコールして、「うらみつらみきわみ」から後半戦のスタートだ。松浦をフィーチャーしたカラフルでポップな映像が可愛い。「ミックスナッツ」で、エディ・ヴァン・ヘイレン・モデルの赤いギターを弾く小笹が凛々しい。バンドのダークな面を荒々しく響かせる「Anarchy (Rejoice ver.)」がかっこいい。そしてアルバム屈指のロックバラード、地球、自然、人間を描く壮大な映像とともに聴かせる「Chessboard」。美しい緑色、こちらには見えているよーー。藤原がそう歌った瞬間、2万人のリストバンドが一斉に輝き、会場が緑色の星空になった。絵にも描けない美しさ。素晴らしい演出だ。
「ここにいる2万人と、チームは、僕を救ってくれた人たちです。みんなの人生の中で、不安を感じたり、ピンチを迎えた時に、音楽で手を差し伸べられるようなバンドでありたいなと思います。みんながそう思わせてくれました。その思いは、僕たちの宝物です」(藤原)
藤原の、歌えない時期の悔しさと不安を吐露した後の「B-Side Blues」は、ひときわ胸に沁みる。神々しいゴスペルとソウルの響きを帯びたピアノと歌。荘厳な白いバックライト。困難な時期を乗り越え、続けることの素晴らしさを歌い上げる人生賛歌。メジャーデビュー6年、ヒゲダンはこんな歌が一番ハマる大きなバンドになった。