澤田 空海理×脚本家・大野大輔、短編映画『紅茶と味噌汁』特別対談! 映像で拡張させる音楽世界

澤田 空海理×脚本家 大野大輔、特別対談

“音楽”と“映画/脚本”への向き合い方と諦めること

『紅茶と味噌汁』オフショット
『紅茶と味噌汁』オフショット

――澤田さんもメジャーで活動していくなかで、それ以前とは違う制約や条件のもとで創作をするということはあったと思いますが、そことの向き合い方は今どういうふうに考えていますか?

澤田:本当に好き勝手やらせてもらっているので、実はそんなに洗礼みたいなものは受けてないんですよ(笑)。でも、いろいろやらせてもらってるなという実感はあります。そのうえでやっぱり人と作っていく難しさというか、「ひとつフィルターを挟むとこうもコミュニケーションでうまくいかないのか」と思うことはちょこちょこあって。作るものに関しては僕からしか出ない、ほぼ一方通行みたいな感じではあるから仕方ないけれど、やっぱりどうやったらその創作のフィールドに入ってきてもらえるのか、フィードバックにどう取り合ったらいいのか……「最終的には音楽の話じゃなくて人間の話なんだな」と思い始めました。その難しさだけですね。そこが統一できたら歩幅が揃って、みんなで本当に一枚岩になると思うんですけど、現状は人間のズレみたいなものをどうするか悩んでいます。

大野:それはすごく共感します。僕は、最近そういうものに諦念を抱いているというか、どうしようもならないようなことが多くて。業界自体も改善する兆しが見られないので、半ば感情を殺した状態のような気持ちで取り組んでいることもあるんです。だから、澤田さんのその考えにすごく共感しますね。

澤田 空海理「告白」Lyric Video

――たとえば『辻占恋慕』の時はどうだったんですか?

大野:あの作品は、「そもそも音楽映画を作りたい」という要望があって書いたものなんです。出演してくださった方がギターの練習であったり、すごく誠実に向き合ってくださったから、そういう方々の努力を無駄にしちゃいけないという思いでやっていました。僕としては全力で作った感覚があるんですけど、それがあまり大きな結果を残せなかったというのはすごく残念ですし、今も悔しさや後悔みたいなものを感じてはいます。

澤田:そうなんですね。僕は、最近は結果については「作って全力出したらそれでOK」と思える側面も少し出てきてはいて。その先のことを僕が考えても仕方がないっていう。たとえば、売れることだけを完全に狙いに行ったものが売れなければ、それはすごく落ち込むと思うんです。それは単純に、実力が足りてないということだから。でも、そうではない部分として「音楽的に愛されるか否か」という面においては、それはもう僕のコントロールできるものではないと思うので、そこはある種割り切っている――こう言うとかっこよく聞こえちゃうんですけど、普通に諦めているのかもしれないです。人間がコントロールできるものではないから、「あとはよろしく!」っていう感じです。

――「諦め」というのは大野さんもおっしゃっていましたね。

澤田:お互いの都合は見えないし、見えていても無視したふりをしちゃうっていう。こっちも相手の言ってることは理解できて、それが正論に近いものだとわかっていても、通さないといけない言葉があるから、屁理屈でどうにかしようとお互いが思ってしまう。そうなっちゃうと、相手を人間として信頼できなくなっていくんですよね。その歯止めが効かなくなりかけるのが『辻占恋慕』という作品だと思っています。だから、もしかすると今の僕の話としてちょっと近いのは『辻占恋慕』なのかも。僕、音楽はビジネスにしないほうがいいんじゃないかなと、最近思ってるんですよね。

――なるほど。

澤田:お互いが裸でぶつかれるんだったら、それが唯一成立する方法だなと思うんです。でも、それは無理じゃないですか。お互い人間だし、社会性があればあるほど難しい。ミュージシャンって、僕を筆頭に社会性がない人もいたりするから、社会性がないゆえに社会性のない発言をしがちなんですけど、それは社会性がある方からすると「そんなこと言って何になるの?」って感じるんですよ。だけど、最終的には、「今は社会性のある私たちが飲み込みます」という形になるんですよね。そうなるともうお先真っ暗だな、って。だから、社会性がある側はもう少し傲慢になってほしいし、ない側ももう少し社会性を持ったほうがいい。そういう意味でも、今タイムリーに刺さっていますね。

――だから、それこそまさにこの短編映画のシンジとミカじゃないですか?

澤田:そうですね。シンジもある程度お金稼ぐだろうけど幸せにはならないでしょうし、ミカもやりたいことはやれるだろうけど幸せになるのかなあ、って。

『紅茶と味噌汁』オフショット
『紅茶と味噌汁』オフショット

――大野さんのなかでは、あのふたりってあのあと、どうなっていくイメージがあります?

大野:やっぱりふたりとも現状維持なんじゃないですかね。ずるずるとあの状態が続くような気がしています。ミカはミカで今の生活を変えたいというわけでもなさそうだし。シンジはシンジでああいう感じなので、ドカンとヒットするような曲を作るようには思えない(笑)。

澤田:あのふたり、お互いがお互いを何かの発生装置だと思っているというのが、僕は結構いいなと思ってました(笑)。よろしくはないし、倫理的に正しくはないけども、お互いに(同じところの)ネジがちょっと外れていて。

――そもそもアルバムのプロモーションというところから始まったこの短編映画ですけど、短編映画の形で作品になったことによって、澤田さん自身の今回のアルバムとの結びつきだったりだとか、アルバムを理解するうえでどういうふうにこの短編映画があると思いますか?

澤田:「いい思い出になったな」って思います。もちろんこれがプロモーションにつながればいいし、今後の僕自身の糧には絶対なるんですけど、何よりも「僕は大満足です」って、今にっこりしていて。「楽しませてもらったぶん、いい曲を書くから!」と思いながら。でも、そんなもんだと思うんです。みんなワクワクしなきゃやってられないと思う。僕は大野さんに脚本を書いていただいたことも、ハレラマさんに監督していただいたことも、すべてひっくるめて本当に大満足です。

大野:僕もすごく自由に書かせていただいたので、本当に久しぶりに初心に戻れたといいますか。ワンルーム、ワンシチュエーションでどうやってお話を面白くするのかを考えながら作ったから、自主映画作っていた頃の感覚を久しぶりにちょっと味わえました。すごく貴重な経験をさせていただいて、とても嬉しかったです。

■リリース情報
メジャー1stアルバム『ひかり』
2024年12月11日(水)配信リリース

配信URL:https://sorisawada.lnk.to/hikari

<収録曲>
01. 東京
02. すなおになれたら
03. 告白(配信中:https://sorisawada.lnk.to/hikari
04. かみさま
05. 仮題
06. 遺書
07. ひかり

■公演情報
『澤田 空海理 単独公演「冬瓜と春菊」』
2024年12月15日(日)開場 17:15/開演 18:00
代官山UNIT

<チケット>
イープラス:https://eplus.jp/sorisawada/
チケットぴあ:https://w.pia.jp/t/sorisawada-t/
ローチケ:https://l-tike.com/sorisawada/(Lコード:70059)

問:HANDS ON ENTERTAINMAINT
(MAIL:info@handson.gr.jp/TEL:03-6812-9539<平日12:00〜18:00>)

澤田 空海理 オフィシャルサイト:https://sorisawada.com
X(旧Twitter):https://x.com/No_More_Cat
Instagram:https://www.instagram.com/sorisawada/
YouTube:https://www.youtube.com/SoriSawada

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