キタニタツヤ、躍進を後押しする多面的な表現力 熱狂の中で心を重ね合った『ROUNDABOUT』ファイナル

 10月31日、『キタニタツヤ One Man Tour “ROUNDABOUT”』の最終公演が、Zepp Haneda(TOKYO)にて開催された。1月にリリースしたアルバム『ROUNDABOUT』と同名のタイトルを冠した今回のライブハウスツアーでは、アルバムの楽曲を軸としつつ、今年に入ってから発表された新曲群や他のアーティストへの提供曲のセルフカバーなどが次々と披露された。本稿では、目覚ましい勢いで躍進を続けるキタニの最新の表現が凝縮された同ツアー最終公演の模様を振り返っていく。

 まず、オープニングから一気に引き込まれた。1曲目は、アルバムの構成と同じく「私が明日死ぬなら」。ステージを薄い幕が覆っているためキタニの姿をはっきりと観ることはできないものの、その幕の奥から、ステージ後方のスクリーンに映し出される一つひとつの歌詞が視界に入ってくる。キタニの歌声の力、言葉の力がダイレクトに伝わってきて、さらに、ドラマチックに高揚する歌のメロディとエモーショナルに昂るバンドサウンドと相まって、ライブ冒頭から強く心を震わせられた。何より、観客が“約束”を結ぶために、小指を立てた手を高く掲げ、その影が薄い幕に映る光景がとても感動的だった。続く「聖者の行進」では、キタニの熱烈な歌声に呼応するように観客が力強く拳を突き上げ、「トリガーハッピー」では、キタニの「歌えー!」という高らかな呼びかけと共にステージを覆っていた薄い幕が降り、観客が懸命に歌声を重ねて彼の想いに応えていく。圧巻のオープニングパートだった。

 最初のMCでキタニは、1月にリリースしたアルバム『ROUNDABOUT』のタイトルには、「回りくどい」「遠回り」という意味が込められていることを説明した上で、続けて同作の制作について振り返った。このアルバムの前までは、自分自身の視点で考えたことや思ったことを歌詞にして綴っていた。ただ、次第にタイアップ曲を担当するようになってからは、他者の視点を持ちながら曲作りをすることが増えた。そして、そのように他者の視点や他者の物語を経由することで、初めて見えてくる自己像があり、遠回りに新しい自分が浮かび上がってくる面白さを感じている。そのようにアルバムの制作過程を振り返ったキタニは、続けて、同じ人間が綴った曲とは思えなかったり、曲同士が矛盾していることもあるけれど、そうした錯綜した中から皆さんの手でキタニタツヤ像を結んでほしい、とメッセージを伝えた。そして、過去曲や、suis from ヨルシカとのコラボ曲「ナイトルーティーン」、Eveとのコラボ曲「ラブソング」のセルフカバーを織り交ぜつつ、『ROUNDABOUT』の楽曲を次々と披露。中盤のハイライトを担った、月の映像演出と共にキタニがベースを奏でながら披露した「君が夜の海に還るまで」や、「月光」、「Moonthief」の3連打へと繋げていく。

 続くMCパートでは、キタニが音楽を作る理由について語った。自分で自分を救うために音楽を作り続けている。ただ、その音楽が、自分のためだけではなく、他の誰かのためになっていったら嬉しいし、だからこそ、基本的には前向きなメッセージを音楽を通して伝えていきたい。そのように自身の音楽観、創作観を語ったキタニは、続けて、そうは言っても自分の中には多様な自我があって、時には、大きな声では言えないような想いや感情を出力せずにいられなくなる時もあると語った。そして、そうした側面を代表する1曲として、「キュートアグレッション」を披露する。最初のMCパートでも語られていたように、キタニの各楽曲に込められた彼の自己像は様々で、かつ、「化け猫」などが象徴的なようにテーマやモチーフは非常に多彩である。ポジティブなメッセージをストレートに送り届ける曲があれば、その一方で、ネガティブな心情を容赦なく吐露する曲もある。アルバムの後にリリースされた「ずうっといっしょ!」を含む新旧の楽曲を立て続けに聴きながら、改めて、キタニの多面性に強く驚かされた。

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