PEDROの音楽は“ジャンルが変わった” アユニ・Dが赤裸々な感情と向き合って生まれた『意地と光』
丁寧な暮らしとの対極を描いた「アンチ生活」
ーー新作『意地と光』はどんなイメージから作っていったんでしょうか?
アユニ:実は最初は4〜5曲入りのEPを1枚出そうっていう話で作っていて。その中で決まった曲が、『意地と光』で言えば“光”の方のキャッチーでポップなサウンドのものが多かったんです。でも、もっとディープでドープな曲も作れるんじゃないかという話になって。いろんな顔の曲ができたということで、『意地と光』というタイトルでミニアルバムとして出すことになりました。
ーーということは、9月に配信リリースされたEP『光』に収録された「愛せ」「キスをしよう」「明日天気になあれ」の3曲が、“光”サイドの曲であると。
アユニ:はい。
ーーそして“意地”サイドがーー。
アユニ:「アンチ生活」と「祝祭」と「hope」です。
ーーどういう経緯でそういう両極になったんでしょう?
アユニ:キャッチーでポップな曲か、ディープな曲かという、サウンド面でわかりやすく分けている感じです。内容的にはどっちもポップでありつつ、自分の根暗な部分が出ているなっていうのは全曲通してあります。
ーー「アンチ生活」という曲は、この流れの中でも非常に飛び抜けている曲だなと思ったんですが、これはどういう風にできた曲でしょうか。
アユニ:去年、前作の『赴くままに、胃の向くままに』というアルバムを出したんですけど、それは8年間BiSHをやって、毎日ありがたいことに怒涛で幸せな日々で、それに終止符を打って自分の時間が増えた中で、もっとゆっくり、今まで走ってきた分ちょっと歩いてみてもいいのかなって、思考が変化した曲が入ったアルバムだったんです。でも、あのアルバムを経て、ずっと心に何か違和感が残ってて。「あれ? やっぱり私ってピリピリして走りながら生きてた方が性に合うのかな。もっと生きた心地を感じるのかな」って。で、また改めて自分で自分を苦しめるみたいな生き方をしたら、それが自分の情熱になるって気づいて「アンチ生活」を作ったんです。前は穏やかさ重視で、「丁寧な暮らし」みたいな歌をたくさん歌って、そういう生活をしてきたけど、やっぱり自分は生活なんか二の次で、音楽とか好きなことに没頭しまくってた方が楽しいなって。そういう思いをギュッと詰め込んだ曲になりました。
ーーこの曲は3拍子ですよね。同じく3拍子の曲では『赴くままに、胃の向くままに』のラストに収録された「余生」があります。対照的でありつつ、どこか繋がりがあるようにも思うのですが、何かしらの関係性を感じたりはしますか?
アユニ:意図的にはなかったですけど、思えば静寂なふりをしつつも内心は燃え盛っているみたいなものを前面に出したいっていう部分は「余生」と「アンチ生活」に通じていて。聴いた瞬間にグッとくるようなサウンドにしたかったというのはありますね。あと、命の短さみたいなものは、この2曲に込めてます。
ーー「余生」と「アンチ生活」は今のツアーでもポイントになっていますよね。ライブの終盤からラストにかけて「雪の街」と「魔法」と「余生」の3曲をやって、アンコールで「アンチ生活」をやる。スローテンポでゆっくりと波が押し寄せてくるような曲がライブのハイライトになっていて、そこで「なるほど、今PEDROはこういうバンドなんだ」と思ったんです。そういうことを示そうという意識はありました?
アユニ:そこはわりと狙ってやってます。重厚感増し増しの曲たちを終盤に詰め込んだので。自分が今表現したい形がまさにそうなんですけど、お客さんにとってはずっしりきすぎてるのかなって。ちょっとまだそのあたりの手応えというか、反応があまりわかってなくて。どうなんですかね……あれしんどいんですかね? わかんないですけど。
ーーこれは僕が率直に思ったことなんですけど、アユニさんが変わったことにはみんな気づいているんですけど、“音楽が変わった”ということはあまり認識されていないのかも、って思ったんです。だから、盛り上がりとか一体感を求めているお客さんにとってはずっしり重い感じに思えるかもしれない。でも今のPEDROは轟音と共に叙情が押し寄せてくるライブをするんだっていうのをあらかじめ思い描いていくと、「いいものを浴びられた」っていう感じになる気がします。そういう意味でも「オルタナフォークだな」と思いましたし、「今のPEDROがそういうライブをするバンドなんだということを記事にするのは意味があることかも」と思いました。
アユニ:ありがとうございます。
変わらない不器用さの中に見た“意地と光”
ーー今言ったような轟音が波のように押し寄せる感じって、ステージ上でもカタルシスとして感じているんじゃないかと思うんですけど、その実感はありますか?
ゆーまお:確かに、序盤の方は流れよく駆け抜けるように、3人でつなぎも一生懸命考えてやってるんですけど、後半の遅い曲が続くところは、愚直に1曲ずつやっていきますからね。個人的にも「ここはこのままいくんだ」と思ってますから。
田渕:最後の方はギターも畳み掛ける感じがしますからね。1曲ずつ、3人でゴゴゴゴーってやっていくという。「アユニさんが変わったとは思われているけど、音楽ジャンルが変わったことに気づかれていない」っていうのは「確かに!」って思いました。
アユニ:それはここから知らしめていかないといけないですね。
ーー「愛せ」とか「明日天気になあれ」とか、“光”サイドの曲はどういうイメージから作っていったんでしょうか?
アユニ:全曲その時のリアルタイムの心情があって。それをどうサウンドで表現するかということを考えながら作りました。人はどれだけ変化しても心の故郷を抱きしめていれば死なないで済むな、人に生かしてもらってるなっていうことを歌詞とサウンドで表現した曲になります。ハートフルではないですけど、誰かが聴いて安心できるような曲になればいいなっていう思いの曲です。
ーーアユニさんとしては、この7曲が仕上がって、今の自分のどういう面が曲に反映されたという感覚がありますか。
アユニ:改めて外の世界に出てみると、自分がどれだけ情緒不安定な人間かをすごく理解してきて。それがこの曲たちにも表れてるなって思います。この曲は柔らかい曲なのに、こっちの曲は“世界、殺す”みたいな曲だったり、かと思えばこっちでは“世界、抱きしめる”みたいなことを歌ってるし……自分のそういった変わらない不安定さ、不器用さみたいなものは、このミニアルバムに出てると思いますね。
ーーいい意味で、器用にはならなかったと。
アユニ:そうですね。だからずっと自分は器用な人に憧れてるんだなって、この曲たちを作っても思ったし。でも、どれだけ血の滲むような努力をしても器用には一生なれないんだろうなって思ったりもします。そこにはやっぱり悔しさとか意地とか情熱とか、それこそ憧れっていう光とかも含まれますし。そう思いました。
ーー田渕さん、ゆーまおさんとしては、新作に今のアユニさんのどういう面が出ていると思いますか?
ゆーまお:言葉がはっきりしてきた、言い切るようになったというのが一番大きい変化だと僕は思います。わかりやすい言葉自体は前から使っていたと思うんですけど、言い切ることって難しいんで。自分のことって歌詞として文字にすると隠しがちになっちゃうんですよね。そこをはっきり伝えてるところに僕は一番の変化を感じました。前のアルバムのツアーからその片鱗はあって、「余生」くらいからそう思っていたんですけど、今回の7曲はどれもはっきり言い切っているんですよね。
田渕:「愛せ」っていう曲は最初に送ってもらったデモの数曲の中にあったんですけど、去年の武道館が終わってから2日後くらいに送られてきたんです。「ヤバい、やる気だ」と思って、嬉しかったですね。しばらくお休みしたいと思いそうなくらいのツアーをやった後の武道館公演だったのに、その直後にデモが届いた。すごいなって思ったのをはっきり覚えています。歌詞に関しても、初期の頃は自分が生活の中で感じているいろんなコンプレックスだったり、うまくいかないもどかしさがあったと思うんですけど、そういうことを経験したからこそ、今はそう思っている人のことを気づいてあげられるようになってきている気がします。あったかい歌詞、染みる歌詞になってきたというか。そういう変化もあるなって思います。
■リリース情報
PEDRO
mini Album『意地と光』
発売日:2024年11月6日(水)
購入ページ:https://lnk.to/PEDRO_ith_ec
◎初回生産限定盤
価格:¥11,000-(tax in) / 品番:※UPCH-29479
形態:mini AL+Blu-ray+LIVE CD+Photobook
◎映像付通常盤
価格:¥6,600-(tax in) / 品番:※UPCH-20681
形態:mini AL+DVD
◎通常盤
価格:¥2,750-(tax in) / 品番:※UPCH-20682
形態:mini AL
<収録曲>
01 アンチ生活
02 ラブリーベイビー
03 祝祭
04 明日天気になあれ
05 hope
06 キスをしよう
07 愛せ
<映像内容>
2024.03.12 PEDRO TOUR 2024「慈」TOUR FINAL
Zepp DiverCity
グリーンハイツ
万々歳
自律神経出張中
赴くままに
清く、正しく
音楽
安眠
洗心
ナイスな方へ
感傷謳歌
吸って、吐いて
魔法
飛んでゆけ
ぶきっちょ
春夏秋冬
余生
人
雪の街