櫻坂46&乃木坂46「僕は僕を好きになれない/なる」 “正反対のタイトル”から読み解くグループの方向性
両グループによるスタンスの違いはいくつかの楽曲からも見て取れる。もっともわかりやすい例は、乃木坂46の代表曲「君の名は希望」(2013年)だろう。同曲では、孤独の中にいた主人公である〈僕〉が、〈君〉と出会い、恋する気持ちや世界の美しさを知っていくというのが大まかな物語であるが、〈未来はいつだって/新たなときめきと出会いの場/君の名前は“希望”と今 知った〉〈どんな時も君がいることを/信じて まっすぐ歩いて行こう〉と希望のある未来を歌っている。
また、「いつかできるから今日できる」(2017年)も「君の名は希望」と近い希望の歌だ。部活動を描いた青春映画『あさひなぐ』の主題歌ということを抜きにしても、ここまでポジティブなメッセージを届けるのは乃木坂46というアイドルのスタンスが表れていると言っていいだろう。特に印象的なサビでは〈いつかできる(できなかったら)/そのうちに(今日だめでも)/もしも失敗したって/何度だって立ち上がればいい〉と失敗を恐れることなく、前へ進もうという力強いメッセージが歌われている。もちろん、一概に乃木坂46の楽曲はこうであると結論付けることはできないが、傾向としては“希望”がグループのひとつのテーマであることは間違いないだろう。
「僕は僕を好きになれない」をはじめ、櫻坂46は聴き手に対して安易に希望を提示しない。「隙間風よ」(2023年)では〈「でも 本当はそんな/ちゃんとできるような僕じゃないんだ/もっと僕らしく好きにやりたい/どうすりゃ許して貰えるんだろう?」〉という自分と他者の評価の狭間での葛藤や〈大した夢じゃないのに/見てなきゃいけないのかな/そういうフリするだけでも/自分が嫌になる〉と自己嫌悪の感情が綴られている。同じように「半信半疑」(2020年)では、恋愛における苦悩が描かれており、曲の主人公は誰にも干渉されたくないと言いながらも、心の内では誰かの存在を求めている。だが、恋愛の駆け引きにうんざりし、最終的には〈ああ 恋愛をするって 面倒〉と言い放つ。一般的なアイドルの楽曲であれば、「恋愛は楽しいものである」「恋愛は心を豊かにするものである」というテーマが歌われることも少なくないが、櫻坂46は恋愛のネガティブな側面にフォーカスするのだ。世のなかには必ずしも恋愛で幸福を感じている人ばかりではない。櫻坂46が歌う“苦悩”は、そういった人たちの希望になっている。
乃木坂46も櫻坂46もアイドルシーンを牽引するグループであることは言うまでもないが、「僕は僕を好きになる」と「僕は僕を好きになれない」を聴き比べてみると、“希望”を歌う乃木坂46、“苦悩”を歌う櫻坂46と改めてグループの特徴を理解することができるのではないだろうか。
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