松室政哉、コラボで引き出される新たな一面 MORISAKI WIN、矢井田 瞳らとの“音楽的実験”が生んだ『LABORATORY』

 そんなシリアスなトーンから、一気に雰囲気を変える「ホットミルク feat.井上苑子」は、ほんの少しだけ切なさを醸し出しつつも、甘くて、キュートで、心温まるクリスマスソングだ。歌割りやハーモニーなど、男女コラボの旨みやメリットを存分に活かした構成も見事。幸せなクリスマスナンバーの王道ど真ん中といった感じなのだが、おそらく松室単独ではこのテーマを、ここまで振り切った形で描くことはなかったのではないかという印象も。そういう点で考えると、これぞコラボレーションの醍醐味とも言えるだろう。そんなある種のチャレンジに対し、松室は嬉々として音を積み上げていたかもしれない。

 時計の針は進み、季節は冬から春へ。「春のうちに with The Songbards」では、桜の花びらが風に舞い上がる中、〈君〉への思いを伝えようとしている〈僕〉の姿を、瑞々しいバンドアンサンブルやコーラスワークで描いている。そんな淡くて、幻想的で、甘酸っぱさのある音像は、まるで映画のワンシーンを切り取ったかのよう。ご存知の方も多いと思うが、松室は映画についてのコラム連載や解説動画を公開するだけでなく、“映像の音楽化”をテーマにした『Musicalize Project』というプロジェクトを立ち上げ、『Touch』というコンセプトミニアルバムも制作。そんな彼らしい一面が、The Songbardsの表現力や、彼らとの相乗効果によって、その景色をよりヴィヴィットなものとして描き出している。

 「Rewrite」は、浜端ヨウヘイとのコラボ曲。旧友との久々の再会をモータウン系のアレンジで仕上げた同曲と、前述の「2人のコンプライアンス」は、コラボレーションアルバム『Augusta HAND × HAND』にも収録されていたのだが、リリースされたのは2020年12月。つまりコロナ禍に発表された楽曲であり、当時はいつかまたきっと訪れるであろう〈明日〉への希望を歌った曲だった。その〈明日〉が現在は訪れたわけだが、失われてしまった、奪われてしまった時間を誰もが経験したからこそ、当たり前のようで当たり前じゃない瞬間を歌ったこの曲は、よりエモーショナルに胸に迫ってくる。

松室政哉 / 「Life is Beautiful feat.矢井田 瞳」×「お相手は、村松薫でした。」コラボMV

 「Life is Beautiful feat.矢井田 瞳」も、そんな人生の悲喜交交(ひきこもごも)を肯定するように高鳴らされている。松室が学生時代から聴いてきた憧れのアーティストのひとりでもある矢井田を招いて制作したこの曲は、キャッチーで色鮮やかな矢井田らしいギターフレーズがなんとも印象的。どこまでも遠くまで広がっている青空が、自ずと目に浮かんでくる。矢井田と松室がそれぞれ歌うパートでは少しだけメランコリーを抱えながらも、〈誰にだって 同じ朝が来る〉とオクターブユニゾンで届けられるサビメロがなんとも力強く、気持ちを晴れやかにしてくれる人生讃歌だ。

 コラボ曲のラストは、オフィスオーガスタ所属アーティストが一堂に介するプロジェクト・福耳の「イッツ・オールライト・ママ」。CMソングとしてオンエアされていた楽曲でもあるが、松室は作曲・編曲を担当。豪華メンバーのマイクリレーはもちろんのこと、ハートフルながらも躍動的でドラマティックなサウンドなど、聴きどころのオンパレードといった構成は、コラボレーションの極みとも言えるだろう。

 そんなアルバムを締め括るのは、松室がかねてよりライブで披露し、音源化を熱望されていた「フレンチブルドッグ」。自分の隣にいる人は、かつて思い描いていた理想の相手とは程遠いけれど、大切な人との幸せな生活を噛み締めている〈わたし〉の心情が綴られていて、かなりハートウォーミング。フォーキーで温かみはありつつも、骨太なバンドサウンドも心地よく、松室らしいエヴァーグリーンなポップソングでアルバムの幕が下ろされる。

 見事なまでに異なった表情を持ちながらも、それでいてどれもとてつもなくポップで、リスナーの耳と心に滑り込んでくる心地よさがある全11曲。幅広いサウンドメイクはもちろんのこと、それらをしっかりと歌い分けるボーカリゼーションも光っていて、“ポップスに選ばれた男”という彼の異名の面目躍如(めんもくやくじょ)といった感じ。松室政哉というアーティストの多彩さが、さらに輝きを放つ1枚となった。

 大充実の1枚を完成させた松室は、10月から弾き語りツアー『Matsumuro Seiya Acoustic Live "cafe de MURO”』を開催。また、10月1日からスタートする火曜プラチナイト ドラマDEEP『3年C組は不倫してます。』(日本テレビ系)の劇中音楽も担当する。コラボ曲、弾き語り、劇伴と、異なった形でアウトプットされる彼の音楽を、様々な場面で堪能してほしい。

■リリース情報
松室政哉 3rd ALBUM『LABORATORY』
発売中
CD+DVD:5,500円(税込)

<収録内容>
1.星屑箱
2.LOVEなシーン with BRADIO
3.2人のコンプライアンス(松室政哉×山崎まさよし)
4.ラ・タ・タ 〜すべてはフィーリング〜 feat.堂島孝平&岸本ゆめの
5.Breathing feat.MORISAKI WIN
6.ホットミルク feat.井上苑子
7.春のうちに with The Songbards
8.Rewrite(浜端ヨウヘイ×松室政哉)
9.Life is Beautiful feat.矢井田 瞳
10.イッツ・オールライト・ママ(福耳)
11.フレンチブルドッグ

<DVD>
Matsumuro Seiya Live 2023 "愛だけは間違いないからね" 〜Joyful! Joyful!〜 2023.3.17 東京・渋谷WWW
・モノローグ
・午前0時のヴィーナス
・今夜もHi-Fi
・いい感じ
・うつけもの
・陽だまり
・サラバ記念日
・きっと愛は不公平
・ai
・Jungle pop
・毎秒、君に恋してる
・夢煩い
・ゆけ。
・出逢いなおし
・AS ONE
・神様のいない街
・大人の階段 駆けおりない?
・dopamine
・愛だけは間違いないからね
・踊ろよ、アイロニー
・海月

『Augusta Camp 2023 〜SUKIMASWITCH 20th Anniversary〜』2023.9.23 神奈川・横浜赤レンガパーク
・LINE(オリジナル:スキマスイッチ)
・愛だけは間違いないからね

■ライブ情報
『Augusta Camp 2024』
出演:杏子 / 山崎まさよし / 岡本定義(COIL) / 元ちとせ / スキマスイッチ / 長澤知之 / 秦 基博 / さかいゆう / 竹原ピストル / 松室政哉
スペシャルゲスト:いまみちともたか
Nice Band:外園一馬(Gt) / 種子田 健(Bs) / 浦 清英(Key) / 松本智也(Key) / 村石雅行(Dr) / 坂本暁良(Dr)
日程:9月21日(土)
会場:山梨:富士急ハイランド・コニファーフォレスト
https://www.office-augusta.com/ac2024/

『Matsumuro Seiya Acoustic Live "cafe de MURO"』
10月26日 (土)@群馬:SLOW TIME cafe
10月27日 (日)@長野:ビアホールトピ
10月29日 (火)@新潟:Blue Cafe
10月31日 (木)@秋田:RIVER ROAD
11月2日 (土)@函館:あうん堂
11月4日 (月)@札幌:musica hall cafe
11月7日 (木)@宮城:SENDAI KOFFEE
11月9日 (土)@茨城:カフェミネルバ
11月13日 (水)@愛知:sunsetBLUE
11月14日 (木)@大阪:cafe Room+
11月16日 (土)@香川:SUMUS cafe
11月17日 (日)@三重:ガリバー
11月19日 (火)@石川:もっきりや
11月20日 (水)@山梨:ハーパーズミル
11月24日 (日)@京都:someno kyoto
11月30日 (土)@東京:Oji music lounge
詳細:https://eplus.jp/matsumuroseiya/

HP:http://matsumuroseiya.com/
YouTube:https://www.youtube.com/c/matsumuroseiya
X(旧・Twitter):https://twitter.com/matsumuro_seiya
Instagram:https://www.instagram.com/matsumuroseiya
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