松室政哉、コラボで引き出される新たな一面 MORISAKI WIN、矢井田 瞳らとの“音楽的実験”が生んだ『LABORATORY』

 常に話題と注目を集めるアーティスト同士によるコラボレーション楽曲。そのリリース数は年々増加傾向にあるのは言わずもがな、今年に入ってからは、キタニタツヤと中島健人によるGEMN「ファタール」や、なとり & imaseの「メロドラマ」、レディー・ガガ&ブルーノ・マーズ「Die With a Smile」など、国内外問わず魅力的な共演が次々に行なわれている。予想だにしなかった意外性のあるものから、これまでの関係性から必然的に生み出されたものまで、その経緯や形も様々だが、本稿の主役である松室政哉も、近年はコラボレーションを意欲的に行なっているシンガーソングライターだ。

 松室が所属しているオフィスオーガスタは、『Augusta Camp』をはじめ、所属アーティスト同士のコラボレーションを積極的に行なっている音楽プロダクションでもある。松室はそこで受けた刺激をさらに求めるように、自身がリスペクトしているアーティストを招いた対バンライブ『Matsumuro Seiya presents “LABORATORY”』を、2019年から定期的に開催。過去の出演者はwacci、矢井田 瞳、The Songbards、堂島孝平、GLIM SPANKY、BRADIO、清 竜人、井上苑子etc……。「LABORATORY=実験室」というタイトルの通り、ソロアーティストからバンドまで形態問わず、様々な面々と化学反応を生み出しながら、交流の場を自ら作り上げてきた。そんなライブイベントから派生して、2023年11月からコラボレーション楽曲を続々と発表。その楽曲達を中心に収録した3rdアルバム『LABORATORY』が、このたびリリースされることとなった。

松室政哉 / 「LOVEなシーン with BRADIO」メイキングMV

 『LABORATORY』は、オープニングとエンディングに松室単独の楽曲がセットされていて、それ以外はすべてコラボ曲という構成になっている。収録曲を1曲ずつ見ていこう。まず、ピアノをメインにしたスロウナンバー「星屑箱」の柔らかなサウンドで厳かに幕を開けると、〈さわごうぜ Candy night〉とBRADIOを迎えた「LOVEなシーン with BRADIO」が、華やかなパーティーに誘なっていく。圧倒的にファンキーで、静止しながら聴くのが難しいほどにグルーヴィーなところは、なんともBRADIOらしいところ。夜の匂いを感じさせるサウンド感も心地よく、松室と真行寺貴秋が楽しそうに歌を掛け合い、ハーモニーを重ねていく姿がありありと目に浮かんでくるライブチューンだ。

 3曲目は、山崎まさよしとの「2人のコンプライアンス」。オフィスオーガスタの先輩・後輩という関係性の2人が作ったのは、軽やかに舞うフィドルが耳を惹くカントリーテイストなアップテンポナンバー。となると、山崎による作曲かと思いきや、松室が作曲しているのが興味深い(編曲は共同で行なっている)。また、異なる価値観を持った2人が手を取り合って暮らしていくという歌詞は、山崎の代表曲「セロリ」を彷彿とさせるところも。そんな推測を見計らってか、〈セロリ食べて頑張ってるんだけれど〉という一節を織り込んでくるところに、やられた! と思わされてしまう人はかなり多いだろう。

 続く「ラ・タ・タ ~すべてはフィーリング~ feat.堂島孝平&岸本ゆめの」は、シンセウェイブな趣きのテクノポップ。20代(岸本)、30代(松室)、40代(堂島)と、世代の異なる3者が集まって歌うテーマは、〈Z ゆとり 団塊 バブル〉という歌い出しの通り、ずばり“世代”だ。サウンドの質感こそクールなものの、世代間対立を煽ったり、ギャップを腐したりするのではなく、〈No Generation〉と声高に叫ぶ、ピースフルなダンスナンバーになっている。また、作詞・作曲は堂島と松室が共同で行なっているが、編曲は松室単独。普段の彼とはまったく違う表情を見せている。各世代に刺さる様々なオマージュが盛り込まれたコミカルなMVも必見だ。

松室政哉 / 「Breathing feat.MORISAKI WIN」MV

 ここまで賑やかな楽曲が続いてきたが、MORISAKI WIN(森崎ウィン)を招いた「Breathing feat.MORISAKI WIN」は、儚げなピアノの音色と、憂いのある松室の歌声から始まるスロウナンバーだ。音数を絞った静謐なサウンドが、曲が進んでいくにしたがって力強く、壮大なものになっていく同曲は、松室が作曲・編曲を担当。そんなオケにMORISAKIは、いま目の前にあることをこなすことで精一杯な日常の中で、ふと頭によぎったり、つい心に芽生えてしまったりするネガティブな感情を露わにしながらも、顔をあげて前へ歩いていこうとする、優しくて温かなメッセージを綴った。誰もが胸に秘めている失意や孤独に寄り添うように紡がれる2人の歌声もとにかく美麗で、心を震わせる。

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