秦 基博、『おちょやん』主題歌含むシングル『泣き笑いのエピソード』全曲解説 時代を映し出す“カップリングでの新たな挑戦”
いまやすっかり1日の始まりを彩るテーマソングになっている人も多いだろう、NHK連続テレビ小説『おちょやん』の主題歌である、秦 基博「泣き笑いのエピソード」。すでに昨年末から先行配信は始まっているが、1月27日にはCDシングルとしてリリースされる。その発売を記念して、CDに収められた全4曲を解説しよう(CDにはこの4曲に加え「泣き笑いのエピソード」のインストゥルメンタルも収録)。
1. 泣き笑いのエピソード
もはやおなじみのイントローーというか、よく考えてみたらこのローズピアノの音色とコード感一発で「泣き笑い~」だとわからせてしまうのはすごいことである。15分ドラマの主題歌という限られた尺の中で、パッと視聴者の耳を惹きながら、さりげなく楽曲にサインを刻むこの技術。まずはこの“超一瞬イントロ”のアイデアに秦のサウンドデザイナーとしての卓越を実感する。
さらにこの曲のテーマは人生の“泣き笑い”であるが、歌詞の面ではいきなり歌い出しで〈オレンジのクレヨンで描いた太陽〉〈涙色したブルー〉という言葉を置いて、視覚的に“悲喜こもごも”のコントラストを伝えてみせる。しかし秦の泣き笑い表現はこれだけではない。この曲のアレンジにはフルートやピッコロといった木管楽器、ピアノ、コーラス等が用いられているが、おそらくこの鳥のさえずりのような朗らかな木管サウンドが陽のイメージで、心を鎮める清冽なピアノが陰のメタファーになっている(2番のアタマなど)。となると多様なコーラスは、その苦楽の重なり合いの中で主人公が自分自身に語り掛ける心の声だったり、苦境を支えてくれる周囲の人々のやさしさだったりするのではないか。
まさに物語に寄り添う主題歌マスターとしての真骨頂。しかしそんな分析は脇に置いても、世情が不安定な今、この曲に心癒されている人はきっと多いはず。僕もそのひとりです。
2. LOVE LETTER(コペルニクス AT HOME)
2曲目に収録されたのは、2019年12月発売の最新アルバム『コペルニクス』から「LOVE LETTER」。しかしこの“コペルニクスAT HOME”バージョンにはいわくがある。昨年、秦はアルバムの世界観を表現する全国ツアーを計画し、最終リハーサルまで終わっていたものの、新型コロナウイルスの影響でいつ開催できるのかわからない状態に置かれてしまった。そんなステイホームの最中、リモートでツアーのバンドメンバーと音を合わせたのがこのバージョンになる。
曲は秦の弾き語りから始まり、そこにピアノ、コーラス、バイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、カホン……と各楽器が重なっていく。実際は、秦が最初に録った弾き語りテイクに合わせて各プレイヤーが個別に演奏していったらしい。特筆すべきはここで演奏されているアレンジは、アルバムのものともツアーのものとも違うということである。すべて生楽器で、手探りするように合わせられた慎重なアンサンブル。離れ離れの状況で紡がれた音と音。それが「LOVE LETTER」という曲であるという意味深さにも驚かされる。ある意味、2020年にしか起こりえなかったライブバージョン(=くらしの断片)と言っていい。