AZKi、胸の内をさらけ出していく大切さ 5年間の変化と広がりが詰まった『Route If』を語る
ホロライブ所属のバーチャルシンガー・AZKi。彼女がメジャー1stアルバム『Route If』を完成させた。本稿では、彼女の人気曲を多数手掛けてきた瀬名航(SOVA)を筆頭に、憧れのアーティストでもあるやなぎなぎ、クラムボンのミト、毛蟹(LIVE LAB.)、ヒゲドライバー、渡辺翔など錚々たる作家陣が集結。曲ごとに多種多様なサウンドや歌の表情を通して、シンガーとしてのAZKiの魅力を余すところなく伝えるような作品になっている。アルバムの制作過程や楽曲に込めた思いをAZKiに聞いた。(杉山仁)
「いろんな声色や表情が見えるようなアルバムにしたい」
――最近のAZKiさんは音楽面ではもちろんのこと、配信活動でもますます活躍している印象があります。AZKiさんは今の活動にどんな楽しさを感じていますか?
AZKi:環境が変わったという意味では、やっぱり2年前にイノナカミュージックが終了してホロライブに移籍したことが大きくて、そのとき「周りのメンバーはどういうふうに活動しているか」を意識するようになりました。その中で、『GeoGuessr』もそうですけど、自分に合うゲームが見つかって、「ゲーム実況も楽しいな!」と思うようになってきて。それがいろいろと結びついて、ここ1年ぐらいは、「ホロライブの他のメンバーとももっとコラボしたいな」という意識になってきました。
――かなけんメンバーでの『Chained Together』などはもちろんのこと、兎田ぺこらさん主催の『ホロ鯖ハードコアマイクラ』や『ホロARK』など、箱ゲー企画にも参加していますね。
AZKi:今の活動があるのってホロライブの事務所の大きさとか、他のメンバーが頑張ってきてくれたからこそだと思っているので、メンバーの企画には積極的に参加したいですね。
――ホロライブのメンバーのみなさんに刺激を受けることも多いんでしょうか?
AZKi:それは本当に多くて、日々刺激を受けています。「みんなを楽しませよう」とする力もそうですし、日々の活動をどうやっていくかと考えたりすることもそうだと思うんですけど、それってなかなか普通じゃできないことだよなと思っていて。自分もとてもいいパワーをもらっています。
――特に刺激を受けている人はいますか?
AZKi:例えば、ぺこらさんは毎日配信をしたり、新しい企画を考えたりと第一線でずっと頑張っている姿を見ていて、自分もファンのひとりになっちゃうぐらい魅力的だなと思います。ホロライブのメンバーはみんな仲間でありライバルでもあって、だからこそ一緒に切磋琢磨できる存在だと思っています。
――今回のメジャー1stアルバム『Route If』には、全曲でAZKiさんが企画の段階から関わっているそうですね。
AZKi:やるからには自分のやりたいことを詰め込みたいと思い、「こういうテーマはどうでしょう?」「こういう作家さんとお仕事がしたいです」という希望を1枚にまとめてビクター(エンタテインメント)さんにお送りしました。今回は「声の温度」をアルバムのコンセプトにしていて、いろんな声色や声の表情が見えるような、幅広いジャンルが聴けるようなものにしたいと思っていました。初めて聴いてくれた人にも、アルバム1枚の中で「こんな表情の歌があるんだ」とわかってもらえるようなアルバムにしたいと思っていました。
――確かに、1曲目の「Lazy」から幅広い音楽性が詰まっている印象です。この曲はどんなふうにできていったんですか?
AZKi:普通の曲とは違うポエトリーリーディングの曲がやりたいと思っていたのに加えて、1曲目らしく“始まり”の雰囲気がある楽曲にしてもらえないかとお願いしたら、Akkiさんが想像を超えるものにしてくださりました。AZKiの要素も上手く歌詞に落とし込んでもらっています。Akkiさんはレコーディングにも来てディレクションしてくださったんですけど、ポエトリーリーディングって音程があるわけじゃないので、フレーズひとつとっても無限に表現の仕方があって、どういう表現が一番心に響くかを考えていくのが大変でした。でもすごくいい曲になったと思っています。
――特にこだわって歌ったパートはありますか?
AZKi:〈彼女が大事に認めた特大級のラブレター〉という部分は、あまり普段自分がしない溜めて歌うような歌い方になっていて、そこは何度も歌いました。
――〈あっ 光った流れ星〉など歌い出しのニュアンスもとても印象的でした。
AZKi:そのあたりも何テイクも録ったところですね。ポエトリーリーディングって、歌詞を伝えるだけではなくて、「行間やちょっとした間のようなものも大事なんだな」と学びました。
――2曲目の「エントロピー」はいかがですか?
AZKi:この曲はやっぱり、瀬名(航)さんってすごいなあというか。瀬名さんはこれまでも大事なタイミングでAZKiに曲を書いてくださってきた方なので、今回も1曲書いてもらうことになりました。ただ、最近は重めの曲が多かったので、今回は爽やかな、青春っぽい曲をお願いしたんです。瀬名さんの歌詞はこれまでの出来事を思い起こさせてくれるようなものも多いんですよね。サビの歌詞が響いたので、特にサビの入りの部分は大事に歌いました。
――「まいすとらてじー!」はどんな曲ですか。
AZKi:「今までにないような、キャッチーでちょっと変わった曲を作りたい」と思ってクラムボンのミトさんにお願いしました。この曲もミトさんがディレクションしてくださったんですけど、面白かったのは「ここはもっと可愛く歌った方がいいな」と私が思っていたことを、ミトさんもディレクションで言ってくれたことで。「ここはもうちょっと笑顔で歌ってほしい」とか、「ここはもうちょっとへこんで歌ってほしい」とか、曲中でころころと表情が変わる曲なので、ミトさんと同じ考えだったときはすごく嬉しかったです。
――「Operation Z」はいかがでしょう?
AZKi:この曲はZ世代が思っていることを、やしきんさんが可愛く歌詞に落とし込んでくださっていて、コール&レスポンスもできるライブ向けの曲になりました。(〈拝啓 石の上にも三年もいられない者たちへ〉という)2番の入りの部分も早口で苦労しました。
――他の曲のオマージュに思えるフレーズもありますね。
AZKi:「およげ!たいやきくん」ですよね? 私も直接やしきんさんに聞いたわけではないので、「どんなアイデアで入れてくださったんだろう?」と気になりながら歌っていました(笑)。
“憧れのアーティスト”と夢の共演も
――一方で、5曲目「Chaotic inner world」は、AZKiさんの曲では久しぶりにも感じるエッジの効いたロックナンバーです。
AZKi:そうですね。昨年のメジャーデビューEP『3枚目の地図』では出せていなかったですけど、活動初期からそういう曲も歌っていたので、改めてこのアルバムの中でやりたいなと思って書いていただきました。Q-MHzさんのロックのカラーが全面に出ていて、でもお洒落でもあって、セリフやラップも入っていて……ずっと聴いていても飽きない曲だなと思いました。この曲は、サビ前の〈正解はわかんないよ〉というセリフを何回か録って、その場にいるエンジニアさんやスタッフさんにも「どのテイクがいいですか?」と意見を聞きながら歌っていきました。
次の「明けない夜があったなら」は毛蟹さんにお願いした曲です。毛蟹さんは本当にいいメロディを書かれる方だと思っていて、歌詞も勇気づけられるというか、苦難もあるけど頑張っていこうという雰囲気にしてくださいました。美しさもすごくある曲だと思っているので、そういう部分も意識して歌っていきました。歌っていくうちに最初と最後でニュアンスが変わってきてしまったので、最初の部分をもう1回歌い直したりしましたね。
――「エトランゼ」はいかがでしょう?
AZKi:「バラード曲を歌いたい」という気持ちがありつつ、でも悲しくなりすぎないようなものになったらいいなと思っていた曲でした。
――実際、最初はバラードですけど、サビや後半に向けて盛り上がっていくタイプの楽曲になっていますね。
AZKi:そうなんです。Cメロのような途中の部分から変拍子が入ってきたりもして、ちょっとドキドキする曲になったというか。聴けば聴くほどいい曲だなと思いました。あと、この曲の歌詞は、開拓者(ファンの総称)と自分自身の視点に思えるなと思っていて、それを意識して歌っています。言葉を大切にして歌っていきました。
――ライブで観客とコーラスを合唱する姿も印象的だった「午後8時のコーラスソング」はいかがですか。
AZKi:最初はダンスミュージックっぽい曲を作りたいというアイデアで、四つ打ちっぽい曲をお願いしたら、ヒゲドライバーさんがみんなで合唱できるような、後半に向かって盛り上がる曲を書いてくださって。「これはすごくライブ映えする曲だな」と思いました。
――それはすごく面白いですね。
AZKi:私もびっくりしました。この間のライブ(『AZKi Major Debut LiVE「声音エントロピー」』)では、私が指揮をしてみんなで歌える曲にしようということで、事前にコール&レスポンスの練習動画を上げていましたけど、めちゃくちゃ楽しかったという声をたくさんいただけてよかったです。レコーディング時点では、最初はAZKiの声だけを重ねてコーラスにする予定だったものの、「いや、もっと楽しそうな歌にしたい」と思って、その場にいたスタッフさんたちにも歌ってもらいました(笑)。「えー、歌うんですか?」と半ば嫌々歌ってもらえた方もいたものの、おかげさまでいいものになって本当によかったな、と思いました。
9曲目の「夜の輪郭」は泣けるバラードも1曲入れたいと思って渡辺翔さんにお願いしました。この曲もレコーディングのときに渡辺さんから直接ディレクションしていただいたんですけど、「好きなように歌っていいですよ!」という感じで任せてくださって。私は本当に全部のメロディが好きだったので、スッと聴き入ってもらえるように意識して歌いました。この曲はサビ入りの〈笑い疲れた〉という部分など、つぶやいて歌うようなフレーズが結構多くて、それが普段のバラードとは違ったところで好きです。
――続く「map in the cup」ではAZKiさんの憧れのアーティストでもあるやなぎなぎさんの楽曲提供も実現しました。
AZKi:ずっと大好きだったので、ダメ元で「やなぎなぎさんにお願いできないですか?」とビクターさんに伝えたところ実現して、「え?! お願いできるんですね……!」とびっくりしました。やなぎなぎさんに曲を書いていただけるなら、優しくて癒されるような、ヒーリング効果もあるような曲をお願いしたいと思っていたんですけど、それ以上の曲を作っていただけました。
――ポップミュージックとしての華やかさと優しさが同居しているような、やなぎなぎさんらしい楽曲ですね。
AZKi:タイトルから大好きで、AZKiの要素も歌詞の中に込めていただけて嬉しかったです。時間が経過して夜になっていくような情景描写も上手すぎて怖いくらい(笑)。
――朝から始まって、〈おやすみ〉で終わっていくという。
AZKi:はい。1日が始まって終わっていくような雰囲気ですよね。あと、〈自然の1ページ/めくったら新しい季節かな〉のところで本をめくる音が入っていたりとか、そういう部分も素敵な曲になっています。仮歌もやなぎなぎさんが歌ってくださっていたので、それに近づけるように、大事に歌わせていただきました。