go!go!vanillas 牧達弥ソロ&メンバー全員インタビュー:新曲「来来来」、バニラズ史上最大規模ツアーに向けて
go!go!vanillasが新曲「来来来」をリリースした。
ロンドンの名門スタジオ・Metroplis Studiosでレコーディングされた「SHAKE」「平安」に続く今年3曲目の配信シングル「来来来」は2000年代のギターロック〜エレクトロなどの要素を奔放に取り入れたロックチューン。現代の社会に対する風刺をポップに表現した歌詞を含めて、今のバニラズのモードが端的に反映された楽曲に仕上がっている。
10月にニューアルバムを発表し、11月から全国ツアー『Lab.』を開催するなど、今年から来年にかけてさらなる飛躍が期待されるgo!go!vanillas。「来来来」の制作を中心にした牧達弥(Vo)のソロインタビュー、そして現在のバンドの状況と全国ツアーの展望を軸にしたメンバー全員インタビューをお届けする。(森朋之)【記事最後にプレゼント情報あり】
<牧達弥インタビュー>
うわべだけで音楽をやりたくない 渡英の影響が詰まった「来来来」
——新曲「来来来」、すごい曲ですね。Arctic Monkeysを想起させるギターフレーズから始まり、その後、全く予想できない展開へと突き進んで。今年リリースされた「SHAKE」「平安」ともまったく違う曲だと思いました。
牧達弥(以下、牧):そうですね、テンポ感を含めて。「来来来」の根幹的な部分について言えば、「SHAKE」「平安」のレコーディングでイギリスに行ったことの影響がすごく強くて。渡英する前に「イギリスの気分を高めておきたいな」と思って、いろんな映画やドラマを観てたんですよ。そのなかに『ピーキー・ブラインダーズ』という第1次世界大戦後のイギリスを舞台にしたドラマがあって。労働者階級のギャングたちがのし上がっていくストーリーなんですけど、イギリスの歴史や国民性、階級、文化、宗教なんかのことも描かれているんですね。「俺達はこんなに苦しい思いをしているのに、上の人間は肥えていく」という状況に反旗を翻すっていう。最近の日本にも、そういう気配がどんどん出てきていると思うんですよ。政治のことを気にする若い人も増えているし、それを行動に移す人も増えていて。70年代にイギリスの労働者階級からパンクが生まれたときのようなエネルギーをすごく感じているし、それも「来来来」のインスピレーションの一つだったと思います。
——なるほど。イギリスもそうですが、日本でも格差の固定化や価値観・政治的信条による断絶が進んでいますからね。
牧:そうですよね。僕は平成元年生まれなんですけど、子どもの頃に比べると、如実にシリアスな社会になっている感じがある。そういう状況のなかで、どれだけ豊かにいられるか? ということも考えるし、幸せは自分で決めなくちゃいけないという強い思いもあって。それもこの曲のなかでしっかり表現できたらなと思っていましたね。思想的なことというより、直感、肌感で感じているところもあるんですけど、でもそれを言葉にしようとすると、丸くしちゃいがちな気がして。自分の普段の生活での言動はけっこう気にしているんですけど、作品や音楽においてはしっかり出したいんですよね。昔から言っていることですけど、戦争や人種差別などを無視して歌詞を書いていると、自分の人生や生活を否定しているような気がするんです。うわべだけではやりたくないと思っているし、音楽として表現することでエンタメになるというか、いろんな人に届きやすくなる。自分の人生と地続きでもあるし、アートでもある音楽で自分たちのワールドを作って、聴いてくれる人にも知ってもらいたいなと思っています。
——素晴らしい態度だと思います。「来来来」の歌詞は強いメッセージを反映していますが、同時にめちゃくちゃポップですよね。さらにシニカルなジョークも効いていて。
牧:イギリス人は皮肉っぽいというか、ブラックジョークが好きな国民性でもあるので、そういう要素も入っていますね。歌詞の内容としては、物足りなさや飢えを感じているところに新しい時代の波が来るというか。そういうマインドを忘れないでいたいという自分自身への戒めみたいなところもあります。ここ最近、若い世代のカッコいいバンドがどんどん出てきているんですよ、海外も含めて。新しい時代の第一波みたいなものは当然若い人たちが起こすものだけど、その波をより良い音楽シーンにつなげたいし、波紋を作るような立場ではいたいなと思っているんですよね。
——アレンジやサウンドメイクについてはどうですか?
牧:そこに関してもUKロックのテイストをあえてわかりやすく入れ込んでいますね。さっき話に出てたアクモンもそうだし、2000年代〜2010年代くらいに聴いていたバンド、たとえばKlaxonsだったり。ベースを歪んだゴリッとした音にしたり、弦楽器(ギター、ベース)はかなり強調してますね。あとは自然に身体が沸き立つような展開を作りたくて、サビを4ビートにして。ライブで聴いても楽しいんじゃないかな。
——00年代〜10年代のUKロックは牧さんのルーツの一つでもあると思いますが、その時代の音楽に改めて注目しているんでしょうか?
牧:そういうところもありますね。『FUJI ROCK FESTIVAL '24』の初日にThe Killersが出たじゃないですか。まさにその世代のバンドなんですけど、すごくエンタメだったし、沸き立つものもあって。インディーズの頃もこの時代のUKロックの要素を取り入れようとしていたけど、今の自分たちは技術や情報のストック量もぜんぜん違うし、当時よりも解像度高めでやれるようになって。思春期に経験した感動や衝動みたいなものはずっと残っているので、ここでもう1回やってみたかったんだと思います。
——それこそロンドンでスタジオワークを経験したことも大きいのでは?
牧:特にビートの効かせ方は、今までのバニラズとはだいぶ変わってきていますね。ボトムが下がって、聴いたときに自然と身体が動くというか。そこはちょっと矛盾してるんですけど、10年代のUKのギターロックはミッド(中音域)が強いんですよ。今の世界的なトレンドはそうじゃなくて、R&Bやソウルの影響もあって、ボトム(低音域)がめちゃくちゃ強く出ていて。向こうのエンジニアって、「その音域、聴こえる?」ってくらいのスーパーロー(超低音)を出そうとするんですよ。自分たちとしても昔のインディーロックをそのままやりたいわけではなくて、今のサウンドのなかで、ロックバンドがどうアプローチできるか? というのを考えているし、それは「来来来」にも出ていると思います。
——そういう楽曲を現在の邦ロックシーンにぶつけるのも面白いですね。
牧:そうですね。IRORI Recordsに来てから、自分たちが磨いてきたものをよりソリッドに表現することを意識していて。同期くらいのバンドとも、そういう話をよくするんです。僕らがメジャーデビューした2014年はフェスバンドブームみたいな時期でしたけど、コロナ禍を経て、同期のバンドもマイウェイを突き進み始めているんですよね。自分たちとしては、音楽的な遊び心だったり、いろんなものを取り入れて突き詰めていきたくて。The Beatlesもそうじゃないですか。もともとアメリカから来たロックンロールやブルースをやるところから始まって、いろんな要素を取り入れて、ビートルズ・サウンドを作り上げた。僕らもカントリーやアイリッシュにファンクの要素を入れてみたり、いろんなジャンルを混ぜているんですよ。「来来来」もバンドサウンドだけじゃなくて、シーケンサー的なものも使っていて。そうやって自分たちのカラーを出していきたいし、「この曲、面白くない?」みたいな感じでどんどん見せていきたいですね。
——海外のリスナーにも届く曲だと思います。「来来来」というタイトルを見ると、どこの国のバンドかわからないかもしれないけど。
牧:(笑)。ちょっと中国語的ですからね。The Libertinesも好きなんですけど、ロンドンのチャイナタウンで撮影しているアーティスト写真があって。イギリスはアジアやインドの文化もすごく混ざって、そこからいろんなカルチャーが生まれてきた。その数奇な感じにも興味があって、「来来来」というタイトルにしました。響きの面白さもありますね。
——「SHAKE」「平安」「来来来」を聴くと、バニラズの創造性がさらに自由に発揮されていることが伝わってきます。この3曲を踏まえ、次のアルバムはどうなりそうですか?
牧:最近、タイトル(『Lab.』)を決めたんですよ。“Laboratory”(実験室、研究室)から来てるんですけど、自分のなかではだいぶイメージが見えてきてますね。「面白いことをやりたい」という気持ちも強いし、最初にも言いましたけど、やっぱりイギリスに行ったことが大きいです。IRORI Recordsの守谷さん(レーベル長の守谷和真氏)とは昔から仲がいいんですけど、守谷さんも00年代のUKロックが好きで。いろいろ話をするなかで、「やっぱり自分のアイデンティティなんだな」というのを改めて感じたというか。ポップスとしての主流はアメリカの音楽だと思うし、日本もその傾向が強いですけど、そこに迎合するのではなくて、むしろUKの音楽を取り入れながら自分たちの個性を磨いたほうがより光って見えるんじゃないかなと。IRORIに移籍してから、そういう感覚がさらに強くなってますね。……といいつつ、今日はThe DoorsのTシャツを着てるんですけど(笑)。