草彅剛、覚醒の40代を経て50歳へ 『ミッドナイトスワン』『ブギウギ』……新たな傑作への期待

 明日、7月9日は草彅剛の誕生日だ。今年は50歳という大きな節目を迎えることになる。バラエティやSNSなどでは共演者や番組スタッフ、ファンから「5歳児」とツッコミが入るほど、いくつになっても少年のような無邪気さとピュアさで親しまれている草彅。一方で、近年の俳優活動を見ればまさに「円熟期」と呼ぶにふさわしい活躍ぶりだ。

 もちろんこれまでも多くの作品を通じて、その演技力が高く評価されてきた。しかし、40代に入った草彅の勢いは目を見張るものがある。「覚醒」なんて言葉を使いたくなるほど、我々の想像を超えた演技で圧倒。作品のたびに「新たな代表作」と言わずにはいられなかった。

 その波の始まりを強く感じたのは、やはり「第44回日本アカデミー賞」にて最優秀主演男優賞を受賞した主演映画『ミッドナイトスワン』(2020年)だったように思う。トランスジェンダーの凪沙を演じるという新たな挑戦。スクリーンからは凪沙の母性と苦悩が痛いほど伝わり、むしろ作中で男性的な格好をした凪沙に違和感を抱いたくらいだった。

映画『ミッドナイトスワン』925秒(15分25秒)予告映像

 大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合/2021年)では徳川慶喜を好演したことでも大きな話題に。誰しもが一度は耳にしたことのある歴史上の人物である、江戸幕府最後の将軍・徳川慶喜。ともすれば“将軍”というイメージにとらわれてしまいそうになるが、草彅が扮した慶喜は生まれ持った運命に憂い、我々と同じように傷つき、ひとりの人間として生きていたことを実感させるものだった。

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 もしかしたら、草彅が40代に入り演じるキャラクターがますます魅力的に感じられるようになったのは、誰にでもある人生の影の部分が丁寧に汲み取られているからではないだろうか。望んだわけではない境遇に戸惑い、抗い、時には絶望しながらも生きていかなければならないのが人生。

 どんなに家族思いで正義感溢れる人であっても、大切な人を傷つけられては黒い感情に支配されるときもある。若い時から草彅はストイックで努力家な気質で役の特徴を掴んでいったが、それに加えて誰もが抱えがちな周囲の期待に応えたいという“いい人”の重荷を下ろす姿にゾクゾクさせられるのかもしれない。

 6年ぶりに戻ってきた“戦争シリーズ”の3作目『罠の戦争』(カンテレ・フジテレビ系/2023年)での鷲津亨の暗躍ぶりは、視聴者をも騙すほどの徹底ぶりだった。また『罠の戦争』のクランクアップ直後から撮影に入ったという主演映画『碁盤斬り』(2024年)も家族のために立ち上がる復讐劇だ。同じ“復讐”がテーマでも、またひと味もふた味も変わってくる。それは現代劇と時代劇という違いだけではなさそうだ。

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 草彅と旧知の仲である香取慎吾が、『碁盤斬り』を鑑賞後「ありきたりな言葉になっちゃうけど、見たことのない草彅剛なんだよね。ずっと(最初から最後まで)知らない草彅剛でしたね」と、また進化した草彅の演技に驚かされていたのが印象的だった。

 同時に「(演じた柳田格之進は)こうと決めたらあとに引かない男なんですよ。草彅剛もそうだからね。そこは同じだね。似てるというか、まんまかもしれない!」とも。その役柄の長所でもあり短所でもある個性を、草彅のなかにある部分とリンクさせて表現する巧さ。いわば、かっこよくないところをもさらけ出していくかっこよさがあるのではないだろうか。

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 そして40代を締めくくる作品となった連続テレビ小説『ブギウギ』(NHK総合/2023年)で演じた作曲家・羽鳥善一役もまた、草彅ならではのアプローチで注目を集めたキャラクターだった。なかでも草彅の細かな役作りというべきか役への憑依を感じたのが、『羽鳥善一作曲二千曲記念ビッグパーティー』での一幕。ラインダンスに飛び入り参加した羽鳥の足の上がらなさ、ぎこちないノリ、そして挙げ句の果てにはズッコケてしまうという展開で笑いを誘った。

 もちろん、草彅は長年アイドルとして歌い踊ってきた人。ダンスは得意なはずなのに、この“踊れない人”感は実に見事だった。ただ、踊れるかどうかは別として“楽しくなってついはしゃいでしまう”というところは、本来彼が持つ草彅らしさと感じさせなくもない。

 「そういうところもあるよね」が透けて見える。しかも、そこが飾らない彼らしさでもあるからこそ、どこまでが役として作り込んでいるのかがわからなくなってしまう。努力の人であるにもかかわらず、感覚でやってのける「天才」と称されるのも、そのあたりの肩の力が抜けた演技によるものなのではないだろうか。

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