NEE、くぅを失った悲しみを受け入れて始める物語 ソールドアウトで“爆破”させた日比谷野音公演

 「おもちゃ帝国」のイントロのベースが鳴り響く中、ステージに「助けに来たぜ、マイヒーロー!」と登場したのは盟友PEOPLE 1のDeu(Vo/Ba)。さらに続く「第一次世界」ではIto(Vo/Gt)も現れる。2人のボーカルとともにくぅが遺したNEEの音楽が新しい光を放ち始めた。2曲を終えるとDeuが「ほぼ全肯定していくからさ。みんなも健やかに、楽しく、光のほうへ行きましょう」とNEEの3人にメッセージを送る。そしてPEOPLE 1の残るひとり、Takeuchi(Dr)も登場して「ボキは最強」を披露。くぅよろしく変身ポーズを決め、NEEとファンを奮い立たせるIto。同志であるPEOPLE 1が、ステージ上でくぅの曲を鳴らし続ける3人が、そしてそれを盛り上げるオーディエンスが、全員でよってたかってNEEを生かそうとしている。そのことが何よりも感動的で、悲しみともまた少し違う涙が溢れてきた。

 「こんなにお客さんが来てくれてさ。これが全部を証明してると思うんだよ」と夕日。かほも「こんなに多くの人に優しくしてもらえて、私たちの今を見てもらえて。もう信じられないです」と言葉を詰まらせる。そして「結局はくぅのことが大好きなんです。だから……愛は苦しいっていう曲を歌います」と言うと、自らボーカルをとり「なんで」を歌い始めた。くぅが歌詞やメロディにこめたものに、彼女の思いが乗り、NEEの音楽がさらに生まれ変わっていく。さらに夕日が「歩く花」を、そして再びかほが「スカートの中を覗く」を歌う。亡くなったボーカリストの代わりに歌うという決断は簡単ではなかったはずだが、彼ら自身の声で、3人だけでNEEをやることがこれからの彼らにとって必要だった。「勝手に言ってるだけだけど、僕たち3人でがんばります。本当に心細いけど、このバンドで死ぬまでがんばります」。そんな夕日の言葉が、彼らの決意を物語る。そしてその夕日が歌う「夜中の風船 Mark II」、そして夕日、かほに加えて大樹もボーカルをとった「万事思通」を経て、夕日がギターをかき鳴らして歌い始めた「DINDON」の力強い演奏が夜が近づいてきた野音にパッと光を灯すように鳴り響く。その途中で突然夕日のギターがトラブルを起こしたのだが、そこで彼はステージの真ん中にあったくぅのギターを手に取り演奏を続けた。そんなできすぎた偶然に、「結局いいやつだよな、あいつ」と夕日。その瞬間に、3人のNEEの物語が始まった気がした。

 いつの間にかライブが始まる前とはまったく違う気持ちでステージ上の3人を見ている自分がいることに気づく。きっと当の3人も、このライブを経て何かを変えることができたのではないかと思う。「あいつは俺の一生の憧れです。俺は一生かけて、あいつみたいに音楽に魂売るって決めました。また会えたときには全力で恩返ししようと思います」と夕日。大樹はくぅと出会った頃のことを思い起こして、「あいつからしたら俺は弟だったらしくて。4つも歳上なんだけど。でも本当にあいつは男らしくて、あいつの背中にずっと付いていってました。本当はずっと4人でやりたかったけど、それは心の中に入れといて、俺はこの3人でNEEがやりたいです」と力強く口にした。そしてかほ。「この最後の曲で、4人でNEEのライブをやるのは最後になります。でも、私たちは3人でも十分かっこいいです。NEEが続く限りくぅの人生はずっと続きます。くぅの人生は終わらせません!」と叫ぶと、彼らは最後の曲「不革命前夜」を鳴らし始めた。曲の終わり、ドーンと特効の爆発音が鳴り響く。「爆破大成功だぞ! 届いてるか!」。夕日の叫びが空に広がる。くぅはこの野音がソールドアウトしたときに「野音ソールドアウトしたから爆破する」とXにポストしていたのだ。最後の最後にその約束を果たし、くぅと夕日、かほ、大樹の4人によるライブは終わりのときを迎えた。本当に不思議なことに、ライブが始まる直前に降り出した雨はライブが終わると同時にやんだ。見上げると、厚くかかっていた雲が晴れていくのが見えた。

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