TM NETWORK、テクノロジーの発展で実現したライブ体験 “唯一無二”を追求し続けたキャリアを振り返る

「奇跡的に音楽性の相性が三人とも似ていたので良かった」(小室)

小室哲哉

ーー木根さんは『CAROL』組曲で全編ピアノっていう。初めて弾くパートも結構多かったと思うのですが?

木根:すごく難しかったですけど、楽しかったですね。あの当時は演奏しないで後ろの方で飛んだりとか(笑)、「この扉から出てきてください」とか段取りばかりで、あまり演奏を楽しむって感じじゃなかったから。今回どっぷりとピアノを弾かせてもらったので楽しかったです。

小室:鍵盤奏者が二人いれば相当いろいろなことができますから。ただ、僕がピアノを弾いちゃったら、上に乗せることができないっていうのもありますし、木根さんはそもそもピアノの弾き語りが得意な人なんですよ。コーラスも宇都宮くんにハーモナイザーをかけたみたいな感じでやれるし、そこは助かりました。サポートメンバーの二人もしっかりやってくれましたしね。プラス最新技術のAIがあったので……とはいえ賭けは賭けだったんです。15秒、30秒で終結しないと売れない、回転数稼げないみたいなTikTokの時代に、30分の組曲っていう、もう本当に真反対のことをやっているので。そこもみんな飽きないかなっていう心配はありました。

ーーまさかこれを見せてくれるとは! と感動的でした。

小室:先ほどの話に戻りますが、ボーカリストは途中で休まないと無理なんですね。1曲1曲、ゆっくり1小節くらいずつ録ったものを、一気に30分歌い続けることは基本的に不可能なんです。なのでAIもうまく使う形で呼吸を整えてもらったっていうのはあります。でも、今の声質の方が楽器と馴染むなとは思いましたけどね。あと僕は変わっている声でなかなか馴染まないんですけど、木根さんとも大丈夫だったし、宇都宮くんとのハモリも高音域はフェイズがかかったように聴こえる感じがありましたね。

ーーコーラスも前面に出ていてカッコよかったですね。

小室:ありがとうございます。「洋楽みたいだ」と言ってくれる人もいて、それもチームテクノロジーのおかげです。みんなイヤモニで綺麗に聴こえるので。3度、4度とかちょっと難しいテンションコードみたいなコーラスもすごくよく聴こえるので。今回二人の声がここまでしっかりと聴けるとは思わなかったですね。モニターの注文はそれぞれで違うんですけど、僕の場合は左と右で振ってもらって、レコーディングの感じとほぼ変わらないレベルでできていましたね。今なら「THE FIRST TAKE」もできるんじゃないかなって思います(笑)。

ーーそれにしてもこんな早口のコーラスをやっているグループもいないですよね。

小室:木根さん、喋っていて滑舌があんまりよくないと思うときもありますけど(笑)、歌うときは大丈夫かな?

木根:どうなんだろう? まぁ、ギリ大丈夫かな。メインだったらちょっときついんですけど、コーラスだから。自分で言うのもなんだけど、ウツの上に乗っかる術はすごくあって、良いように聴こえるような技術をこの40年間で学んできました。僕だけで録っちゃうと「うん!?」ってなるけど、ウツがちゃんと出ていて、哲っちゃんがいるとなんとかなってるみたいな(笑)。

小室:今はやっぱりモニターがいいから、ちょっと走ってるかとか、もたってるとかっていうのもわかるので。途中で修正もできるぐらいにクリアな音質なんですよね。それも環境が良くなったおかげもあると思いますね。二人で歌う「Carry on the Memories」があるじゃないですか? 初めて木根さんの声をちゃんとモニターで聴いていましたからね(笑)。

一同:(笑)!

小室:聴かないと合わせられないから「もっと声聴かせて!」って。今まで木根さんの声をモニターに返すってことはなかったので。

木根:どっちに返してるの?

小室:いる方だから右。

木根:自分はどこにいるの?

小室:自分の声が真ん中にくるようにして。モニターの返し方はみんなそれぞれ違うと思います。

ーー小室さんオリジナルモデルのショルダーシンセサイザー“マインドコントロール”が再起動以後で復活しましたね。しかもバージョンアップされているという。

小室:そうですね。FANKSの中にシステムエンジニアだったり、大工さん、塗装屋さんだったり、基板屋さんがいるんですよね。実に恵まれてると思いますけど、FANKSの中で全部工房ができるぐらいなんです。あれ、全部作ってもらっているんですよ。簡単にスイッチを切り替えられる、暗かったランプもLEDでつくようにしてくれたりとか、全部有志でやってくれているんですよね。

ーークールなブラックの、今の時代ならではの小室哲哉のショルキーみたいな抜群の存在感でしたがいかがでしたか?

小室:FANKSの人たちなので、本当に操作しやすいかたちにしてくれているんですね。赤いインジケーターをすごく明るいLEDにしてくれたので、幕間でもよくわかったりするし。あと鍵盤が壊れたりもするんですけど、すぐに直してくれたり……そんなチームを作ろうとしても本来は難しいですけど、要は僕のことをよく想ってくれているから、本当にありがたいですね。

ーー木根さん、再起動以後、いろんなギターをプレイするのに驚いていました。おそらく20本以上は登場していると思うのですが……。

宇都宮:15本くらい?

木根:40本のライブで毎回曲が変わるごとに……ほぼほぼ借りものですけどね。世界広しと言えども借りているギターでツアーをやっている人は僕くらいだと思うんですけど。

ーーいえいえ、葛城哲哉さんからいろいろと調達されたそうですね。

木根:葛城さんから「俺の魂を持っていってくれ」と言われて、お借りしましたね(笑)。

宇都宮:アマチュアの時から変わらないよね。あの頃はキーボードも貸してもらって(笑)。

ーーあれだけギターを持ち替えてくれるギタリストも最近少なくなったので。

木根:そうかぁ……。

小室:木根さんは一曲ごとに替えた方がいいですね。押さえる指がすごく強いのでチューニングが……。

木根:アコギを押さえる感覚でエレキも弾いちゃうから半音くらい上がっちゃうんですよ。

小室:半音はオーバーだけど(笑)。

宇都宮:音がぶつかっちゃうなぁ(笑)。

小室:でもやっぱりピッチは狂うので、一曲ごとに替えてくれた方が助かりますね。そういうのもわかるくらいイヤモニから聴こえてるんですよ(笑)。だからステージ上でミスったらすぐ見ちゃうんですよ。

一同:(笑)!

木根:前はね、ちゃんとサポートギタリストの上に乗っかって弾いていたから、ミスってもわりと皆さん気づかない。

小室:だから今回はフレットとかちょっとずれただけでも二人がわかっちゃうので。

木根:大変でしたよ。どうやってごまかそうか(笑)。

小室:しかもミスるといよいよ落ち込んでいましたからね。

木根:落ち込みますよ(笑)。ここっていうところでバーン! ってミスったときもあったので。

ーー千秋楽の「Whatever Comes」で北島健二さんとのツインリードが聴けたっていうのは嬉しかったです!

木根:あれはその前のツアーでも演っていたことだったからできたんですよね。今回初めて演るんだったらそんな余裕なかったですね。

小室:とうとうギタリストとしての提案ですからね。いわゆるスタジオミュージシャンクラスの方に、木根さんから提案しているので。

木根:ハモッてって(笑)。

ーー今までだったらバッキングに回っちゃいそうなところ、ちゃんとリードを弾いてくれたのはファンとして嬉しいですね!

小室:成長していましたね、本当にギターに関しても。

木根:リハーサルテイクを聴いた次の日に健ちゃんが「ギター良い音だよ!」と言ってくれて、「本当!? 借り物だけどね」って(笑)。良いギターだったんですよ。

小室:チューニングもすごくしっかりしていたしね。アコギも良い音でしたね。

ーー12弦ギターも効果的でしたね。

木根:「『1974』はちゃんとフレーズを弾かなきゃいけない!」って。あそこだけ楽しめなかったんだよな(笑)。

ーーいろいろとお話聞いてきて思うのは、TM NETWORKを紹介するときにユニットとかプロジェクトとかいろんな言われ方をしてきたと思うんです。でも今回のツアーをひと通り観て思ったのは、三人のバンド感が今一番感じられて、そこがかっこいいですね。そのバンド感がまたこの先面白くなっていくような予感もあるのですが、それに関してはいかがでしょうか?

木根:バンド感ですか!? いや、それを聞いたらもう練習します(笑)。

一同:(笑)!

宇都宮:何を(笑)? 違う楽器ってこと?

ーーついにサックスに挑戦とか(笑)。

木根:新しい楽器に挑戦? ……いやいや。でも今回のツアーほどギターを弾いたことも、練習したこともなかった。ただ、僕自身も手応えがあったので、そこまで言っていただけるんであればもうちょっと頑張ろうって。

小室:ピアノも上手くなりましたね。

木根:ピアノもギターも頑張ります。僕が頑張れば、もっと良くなると思うので。

宇都宮:先ほど言われたようにユニットと勝手に見られがちなんだけど、初期の頃から、もうライブを始めたときからバンドなんですよね。もちろんサポートメンバーを入れたときも。三人がバンド出身なので、見えるかたちはユニットっぽくなっているけど、ライブというものに関して言ったらバンドだから。それが最終的に三人になっても僕はバンドだなって思うし。

木根:そこはYMOと違うところだよね。三人とも動かないでなんか機械を操作している風ではなくて、ショルキーを持って動くって感じはバンドなんだろうね。

小室:洋楽のロックに憧れもあるし、原点に一番最初に衝撃を受けた音楽がやっぱりまだ未だにどうしても残っているんですよね。だからそれが反映されてしまうところが多々あって。二人はフォークや歌謡曲、GS(グループサウンズ)だと思うんですけど、僕もフォークが好きだったし……フォークロックっていう言葉ってあったっけ?

木根:あった。ポップスになる前のね。

小室:そういうのもすごく憧れていたところがありましたし、あと僕なんかは圧倒的にプログレッシブロックがもう六割七割ぐらい占めていたんですけど、それも二人は苦手じゃないってところもあったので。そこがうまくいかないバンドは、相性が合わないんだと思います。やっぱり音楽性ですね。やっぱりやりたい音楽、自分たちで演っていて気持ちが良いような音楽……良いなと思う音楽が違っていたらどうしてもそこは合わないと思います。なので本当に奇跡的に音楽性の相性が三人とも似ていたので良かった。僕もプログレが好きですけど、好きなのはジャズの方のプログレじゃないですから。やっぱりクラシックやポップスのわかりやすいメロディがある曲が好きでした。そういう原点ってすごく大事なんじゃないですかね。ピンク・フロイドみたいにあんなすごいライトでできたらいいなとか、豚が飛んでいるのがいいなとか……。

木根:(『ザ・ウォール』で)壁が壊れるのすごいなとか(笑)。

小室:もう憧れてたことがずっとあって、それを追いかけていたわけで、今回の最後のKアリーナとかは、多分彼らが観てもすごいなと思うんじゃないかということはできたと思うので。贅沢にやればいいっていうものでもなくて、いろんな要素をうまく組み合わせるかっていう総合エンターテインメントですよね。喋らないっていうのも一つの特徴でいいと思いますし。体力とかの問題がなければ、もっとやってあげたいなとは思うんですけどね。

■番組情報
『TM NETWORK 40th Anniversary WOWOW Special Year』
TM NETWORKデビュー40周年を記念して11カ月連続の大型特集を展開。アニバーサリーライブの独占放送・配信に加え、3人のトーク集ほか特別番組がめじろ押し。

<ラインナップ>
『TM NETWORK 40th Anniversary WOWOW Special Year ~Prologue~』
6月29日(土)午後6:00
WOWOWプライムで放送/WOWOWオンデマンドで配信
※放送・配信終了後~1カ月間アーカイブ配信あり
メンバー3人が語る特集全体の予告番組を放送・配信。

『TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days ~YONMARU~ at K-Arena Yokohama』
7月27日 (土)午後8:00
WOWOWプライムで放送/WOWOWオンデマンドで配信
※放送・配信終了後~1カ月間アーカイブ配信あり
最新アリーナツアー最終地となるKアリーナ横浜公演をWOWOW独占放送・配信
収録日:2024年5月18日、19日
収録場所:神奈川 Kアリーナ横浜

※8月以降の番組内容については、決定次第、順次お知らせします。

番組サイト:https://www.wowow.co.jp/music/tmnetwork/

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