松下優也、時代を射抜くメッセージ “日本語”を大事にする理由と新曲「Ride It」を語る
日本語で歌うことを大切にしていきたい
ーー歌唱についてはいかがでしょうか。松下さんは楽曲ごとに声色を絶妙に使い分けている印象があって、「Ride It」からもそれを感じました。
松下:使い分けはすごく意識しています。前提の部分で言うと、レコーディングした時期がミュージカル(への出演時期)と被っていて、チューニングを変えなければいけなかったんですよね。ミュージカルはハンドマイクで歌うわけではないですし、マイクの音量がすごく上がっているわけでもない。しかも、何千人という人がいる劇場で歌うわけですから、いつもよりも下に重心を置いて歌わないといけないんです。でも、レコーディングは目と鼻の先にマイクがあるので、ミュージカルの感覚で歌うとトゥーマッチというか、暑苦しすぎるというか。そのチューニングはしましたね。でも、ライブとレコーディングでもチューニングを変えなきゃいけないんですけどね。ライブでレコーディングと同じように歌うと、お客さんを感動させられないと思います。
ーー難しい……!
松下:あとは、これまでの楽曲は英語、「Ride It」は日本語なのでアプローチが違いました。日本語はパキッとしすぎてしまうので発音を崩しつつも、ちゃんと歌詞が聴こえるように、という工夫はしています。これは舞台ではよくあることなのですが、たとえばブロードウェイの作品を日本で上演する時ってメロディは一緒でも、歌詞を日本語に変えますよね。それを披露した時に「日本語だから意味はわかるけど、音楽として聴くとブロードウェイのほうがかっこいい」と言われてしまうのが嫌なんです。なので、英語の発音を取り入れながら日本語として成立させていく、みたいな。ミュージカルで培ったその感覚はアーティスト活動にも取り入れています。
ーーなんとスキルフルな……。職人ですね。
松下:気がついたらそうなっていました(笑)。僕は日本語でもかっこよく表現する方法があると思っているので、「日本語だとかっこいい音楽ができない」と思われたくないんですよ。日本語って一文字と一文字のあいだに発音が存在しないじゃないですか。でも、英語や韓国語は存在するんです。それがリズムになっているので、その部分を意識して日本語を歌っていますね。
ーー今まで英語の曲も歌われてきたからこそ、だと感じました。
松下:そうなのかも。僕、日本語で歌うことを大切にしていきたいんですよね。SNSを見ていても、歌の上手い人が最近はめちゃくちゃ多いじゃないですか。じゃあ僕は何を表現するか、僕の個性は何か……となったら日本語だなと思ったんです。たとえば、アメリカ人の上手なシンガーがいたとしても、日本語で完璧に表現するのって難しいと思うんです。でも僕になら日本で表現することができるし、音楽として成立させられる。だったら、母国語である日本語、アイデンティティである日本語を大切にしたいと思うようになりました。なので、「Ride It」も英語をほぼ使っていません。タイトルを英語にしたのは、海外の方が(タイトルを)見た時にわかりやすくするため。僕は韓国語がまったくわからないので、ハングルのタイトルを見ても理解できないんです。同じ現象が日本語でも起こる可能性があると思ったので、タイトルだけ英語にしました。
ーー戦略家ですね。
松下:それで言ったら名義もそう。日本からは“松下優也”で表示されるようになっていて、海外からだと“YOUYA”で表示されるようになっています。“松下優也”って日本語圏でない人にとってはわかりづらいと思うんです。僕たちも外国の方のお名前でも覚えられないことってありませんか? きっとそうなるだろうなって。
ーー反響の広がり方にも注目ですね。そして、振付はGANMIのSotaさんが手掛けています。
松下:はい。ダンスは僕にとって音楽と歌と同列のもの。だから今回も大切にしていきたいと思っています。GANMIさんとは昔イベントでご一緒したことがありますが、タッグを組むのは初めてだったので、僕のスタイルを事前にお伝えしてコレオを作っていただきました。
ーー具体的にどんなことをお伝えしたのですか?
松下:僕はそれなりに身長もありますし、やってきたジャンルがオールドスクールなんですね。振りが詰まっているものよりも、空白があるほうが得意というか。たとえば、TWICEさんのダンスは振りがめっちゃ細かいけれど、一方でBLACKPINKさんのダンスは実はそこまで振りが詰まっていないと個人的に思うんです。フリーな間も結構ありますし。僕が映えるスタイルは、BLACKPINKさんタイプだと思っています。なので、あまり詰め込みすぎないコレオでお願いしますとお伝えしました。
ーーなるほど。
松下:もちろん、細かな振りをうまく見せることも才能なのですが、僕の場合は余白がほしいと言いますか。僕はクリス・ブラウンが好きで、彼も振りがそんなに細かくないんです。昔からそういうスタイルが好きで、アーティストやダンサーだけではなく、俳優でも余白に溢れ出ているものがある人を魅力的だと思って見てきましたし、そうなりたいと思ってきました。ダンサーもいろんな方を見てきましたが、ダラダラとステージに出てきて、ダラダラ踊って、ダラダラ帰っていく人が好きだったんですよね(笑)。それができる人って、あまりいないじゃないですか。
ーーいませんし、本当にうまくないとできないと思います。
松下:そう! ランニングマンという誰もが知っている簡単なステップでも「なんでこの人はこんなにかっこいいんだ?」みたいな。玄人的な見方なのかもしれませんけどね。
ーーMVやパフォーマンスを拝見するのも楽しみです。そんな「Ride It」も披露されるであろうワンマンライブ『松下優也 LIVE 2024“Mirror Maze”』が6月28日に開催されます。どんな姿が見られそうですか?
松下:編成としてはバンドとダンサーを背負おうと思っています。YOUYA時代はバンドとダンサーの両方をひとつのライブで披露したことがなかったので、すごく楽しみ。僕、バンドでライブをするのが好きなんです。パフォーマンスの幅が広がるし、ダンスだけだとある程度決めごとを守らなければいけなくなってしまって幅を見せられないと感じていた部分もあったので。そういう意味では、立体感のあるライブになると思います。YOUYAの曲もやろうと思っていますが、セットリストは考えている最中です。
ーー久しぶりにガッツリ踊ったりも?
松下:歌とダンス、全部を見せられるショーにはなると思いますよ。ただ詳細は未定です(笑)。
ーーミュージカルとライブのステージは違うと思いますが、それぞれどういう気持ちで向き合っているのでしょうか。
松下:役を表現することと、自分を表現することはまったく違うので、気持ちも自然と切り替わっているかもしれない。でも、ライブのほうがその日ごとに見えるものが変わりやすいかもしれないですね。あくまでも舞台には役があって、ある程度守らなければいけないことがあると思いますが、ライブは一期一会。緻密にリハを重ねて、本番は手放しでやれることがいちばんの理想ですね。今回のライブもそこまで持っていけたらいいな。あとは、オーディエンスの違いも大きいと思います。日本におけるミュージカルはみんな座って観劇して、動きがあっても拍手くらいですよね。もちろん、それはそれでいいんです。ただ、ライブはオーディエンスも一緒に盛り上がることができる。この違いは大きいと思っていて、ライブはお客さんと一緒に作るものだと僕は思っているんですね。自分が観に行くとしても、お客さんのほうが盛り上がっているくらいのライブが好きですし。
以前、ニューヨークでブルーノ・マーズのライブに行ったのですが、すごかったんですよ。みんなめちゃくちゃ歌っていて、本人そっちのけで盛り上がっていて。そういうのがいいなあ、って。僕はやらせてもらっているミュージカルの本数を考えると、ミュージカルを観に行くことは極端に少ないんです。ミュージカルにおいても、基本的に僕のスタンスとしては「好きに観て」と思っているのですが、日本だとなかなかそうできる環境はないですよね。それは理解しているので、自分の身を置くことはしないという。なので、僕のワンマンでは、ぜひ自由に盛り上がってほしいですね。