Tomoko Nia、ソロとして探求した音楽 orange pekoe ナガシマトモコが語る表現の変遷
人間の行動の原点に、愛への渇望がある
――今回の『UCHI』を一曲ずつ解説してもらいたいのですが。導入の「Where Is Your Destination? (Introduction)」に続く「Our Destination」はピアノで始まりますが、ピアノを習った成果が出ていますね(笑)。しかもベヒシュタインのピアノを買ったそうですが。
Tomoko Nia:ピアノは当初は適当な中古を買おうと思っていたんですけれど、その時にいろいろ試弾しに行ってみたんですよ。そうしたらかなり個体差があることに気づいたんですね。それで、たまたま行ったお店にベヒシュタインが置いてあって、弾いてみたら、自分の心の機微が全部音に出るような感覚があって、「これだ!」って。――じゃあこの曲はピアノで作っていったということなんですか。
Tomoko Nia:まずピアノでコード進行を作って、このコードで言いたいことは何かなと考えていたら〈Our destination is love〉というフレーズが自然に出てきたんです。コロナ禍前は社会的な風潮として、「山の頂上を目指すべき」というような成果主義のもとにみんな急かされて生きていたような気がするんです。でも、コロナ禍の後はそういった山が崩れて「幻想だったんじゃないの?」っていう空気感になっていったと思うんです。そうなったときに、「本来、人間はどこを目指すべきなんだろう」みたいなことを考えたら、最終的には“愛”なんじゃないかと行き着いたんです。いろんな意味を含む言葉ですが、ここではロマンティックなことではなく、つながっていくエネルギーみたいなイメージです。人間の行動の原点に、愛への渇望がある気がしていて、お互いに大切にしたいしされたいという思いをもっとダイレクトに大事にしていけばいいのでは、と。愛が必要なのだから、みんなが愛を感じられるように、そういう世界を目指せばいいのではないかと考えました。
――他の曲にも言えるんですが、コーラスを含めた声が響くように作り込まれているという印象を受けました。
Tomoko Nia:やっぱりシンガーなので声が一番表現しやすいし、声を聴いてほしいというところはありますね。コーラスを重ねると奥行きが出るし、あとは、R&Bマナーというのもありますね。メインのメロディがコーラスになっているという手法はやってみたかったんです。
――続く「Come Closer」はもうちょっとリズムが際立っていて、でもシンセサイザーの浮遊感が独特な感覚のサウンドですね。そして歌詞がセクシーな感じで。
Tomoko Nia:これはいろいろな愛にまつわる歌なんです。セクシャルな意味だけじゃなくて、人と人とが出会ったときって近づきたいと思いますよね。それが叶わないと、傷つくわけで。そういう近づきたいという気持ちを全肯定したかった。「みんな近づきたいし、それが自然、いいんだよ」という思いを込めています。
――聴いていてすごく気持ちいいし、個人的にはこの曲が一番好みでした。
Tomoko Nia:嬉しいです。気持ちよく踊りながら聴いてほしいなっていう曲ですね。
――ラストの「Love Rain」はディープな感じというか、この中ではいちばんじっくり聴きたい一曲ですね。とくに後半で聴こえてくるコーラスに圧倒されます。
Tomoko Nia:トラック自体がループなので、声をたくさん重ねたら面白いし、盛り上がりを作れるんじゃないかなって。
――これは讃美歌的な雰囲気もあったりとかして、あのコーラスから醸し出される雰囲気は何なんだろうなと思いながら聴いていたんですけれど、どういうイメージだったのでしょうか。例えば実験的なことをしてみよう、とか。
Tomoko Nia:ゴスペルの影響ももちろんありますし、でも直接何かを狙っているわけではなく、声によって色々な音の色彩を出していった感じです。ポエトリーというか、ラップのようなものも重ねて、奥行きが出せればいいなというアイデアも入れてみました。
――これも歌詞のテーマは“愛”なんですよね。
Tomoko Nia:これは、愛がなくなって砂漠にいるような感じですね。“Love Rainを注いでほしい”と歌っていて、愛に溢れているのではなく、愛がない状態を表現してみました。
――結局、“愛”になるというか、orange pekoeも“愛”は重要なテーマのひとつだったと思います。
Tomoko Nia:歌っているテーマは、orange pekoeでもソロでもずっと同じなんですね。先ほどもお話したみたいに、みんなの行動のモチベーションとなってるものは、愛を感じたいってことだと思うんです。逆に辛さ、痛みとかもそうで、いろいろな感情、ポジティブなものもネガティブなものも、その元になっているものは、やっぱり“愛”か“分離”で、今ある問題はすべてそこから起こっていると思うんです。自分に対して、そして自分以外の他者に対して、どっちの種類のエネルギーを選ぶのかっていう。「Love Rain」では、その“愛”がうまくいってないことを表現したかったんです。
――EPのタイトルの『UCHI』というのは、どういう意味が込められているんですか。
Tomoko Nia:まずは、自分自身がなにをやりたいのか、やるべきなのかをずっと探求していたというところで、“内”というキーワードがあったのと、基本的にすべて家の中で作ったという“家”という意味。あとは、関西では自分のことを“ウチ”って言うじゃないですか。全部“UCHI”なんだって思ったのと、海外の人にも聴いてもらいたいと思っているんですが、英語で“UCHI”っていうのも面白いし、「なんだろう?」って思ってくれるかなって。
――ひとまず、Tomoko Niaという名義でひとつの形になったんですが、振り返ってみてこの『UCHI』はどういう作品に仕上がったと感じていますか。
Tomoko Nia:もっと上手くなりたい。それしかないですね。今までずっとそうで。出来上がって、もっとよくできたんじゃないかと。今回こそは言わないでおきたいと思ったけれど、結局同じことを思っていますね(笑)。でもそれは、次に作るモチベーションになるのかなと。もっといい歌詞を書きたい、もっといい曲を書きたい、もっといい歌を歌いたい。でも現状、名刺代わりじゃないですけれど、ここでいったんみんなに聴いてもらって、また次に進みたいですね。
――全編英語詞なので、海外にも何かアクションを起こせるといいですよね。
Tomoko Nia:今はSpotifyやApple Musicなどで世界中の人が聴ける環境ですからね。『NIA』の時はまだギリギリCDの時代でしたけれど、すっかり音楽を聴くスタイルが変わったので必要な人のところに届いてくれればいいなあと思っています。
――orange pekoeを休むとかそういうことではないんですよね。
Tomoko Nia:はい。むしろ、Tomoko Niaをやることで、ようやくorange pekoeとしても前に進めるなと。orange pekoeでは見せていなかった私を表現できたことで、あらためてorange pekoeにも向き合えると思っています。
――今回のソロでライブは考えているのでしょうか。
Tomoko Nia:まだ特に予定はありませんが、でも徐々に「ライブやるならドラム叩かせて」とか「コーラスさせて!」と言ってくれる仲間が集まってきているんです。漫画の世界みたいだけど(笑)、そうやっていいメンバーに出会っていって、聴きたいというお客さんもいてくれるなら、やってみようかなと考えています。
――ソロとして新たな一歩を踏み出しましたが、今後どういう風に歩んでいきたいとか、展望があれば教えてください。
Tomoko Nia:前作から10年も経ってしまっているので、未来のことは極力言わないでおこうと思っています(笑)。でも、ソロもorange pekoeも引き続き作品を残していきたいし、ライブの機会も引き続き、もらえるならやっていきたい。私の音楽を必要としてくれている人がいる限り、私の役割として、届けるべきところに届けていきたいですね。
■リリース情報
『UCHI』(初回限定盤・紙ジャケット仕様)
発売:2024年5月23日(木)
※orange pekoeオフィシャル・ウェブショップで限定発売(予約受付中)。予約者のみスペシャル特典ステッカー付
https://opo.lnk.to/shop
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Nia「NIA」(US限定盤・紙ジャケット仕様)
※orange pekoeオフィシャル・ウェブショップで販売中
Tomoko Nia オフィシャルサイト
https://www.tomokonia.com/