ジャズやヒップホップを超えて凝縮された6人の個性 S.A.R.、1stアルバムでのクールな化学反応
S.A.R.は、santa(Vo)、Attie(Gt)、Imu Sam(Gt/MC)、Eno(Ba)、may_chang(Dr)、Taro(Key)から成るクルーで、ソウル、ファンク、R&B、ヒップホップ、ジャズなどをベースにしながらも、各々のルーツを投影した幅広い音楽を鳴らしている。1stアルバム『Verse of the Kool』を3月27日にリリースし、4月27日には1stワンマンライブ『S.A.R. presents: “Kool Theory”』をTOKIO TOKYOで控える彼らに初インタビュー。結成の経緯や曲作りのスタンス、ミュージシャンとして目指す像まで、6人のメンバーと語り合った。(編集部)
専門学校や音大で繋がった気の合う仲間たち
――結成のきっかけから伺えますか?
santa:もともと、僕とAttieと、もう辞めちゃったんですがAlexというヤツがいて、3人でやってました。専門学校が一緒で、「バンドっていうか、何かプロジェクトをやりたいね」という話になって組んだのが始まりです。Alexが専門学校を卒業してから音大に入って、そこで他のメンバーと出会いました。だから、僕とAttie以外の4人は音大出身ですね。
――配信されている楽曲のうち、一番古い曲は2018年の「CRIMINAL」という曲ですよね。
santa:その時はまだ3人体制でしたね。そこからしばらく活動してなかったんですが、Alexの家で久しぶりに集まって制作しているときに、Enoから電話が掛かってきて。EnoのことはずっとAlexが「良いヤツがいる!」と言っていて、「メンバーに入れたいけど、どうしよう?」と思っていたときだったんです。その時にEnoから電話があったので「じゃあ、やってほしい!」と返事をしたらImu Samもついてきた。Alex自身はキーボードをやっていたんですけど、「ちょっと俺、違うかも。誰かいないかな」と言っていたら、Imu SamとEnoがTaroを連れてきた。最後にみんながmay_changを紹介してくれて、現在に至ります。Alexは脱退してしまったんですが、それでこの6人体制になりましたね。
――santaさんのリリックはほぼ全て英詞ですよね。海外にルーツがあるのかなと思っていました。
santa:いや、そうではないです。音楽自体は、小6のときに兄貴から色々教えてもらってそれがきっかけだったんですけど、リリックを作ってる段階では、宇宙語みたいな不明瞭な言葉で作ってるんですよね。それを日本語に直すのは、自分の中でもちょっと不自然というか気持ち悪い感じがあって。だったら母音の響きとかを崩さずに自然な歌詞にしよう、と思っているうちに英語の詞になっていったという感じです。
――この先、日本語でリリックを書く可能性も?
santa:全然あると思います。
――Imu Samさんはギターと同時にラップも担当していますよね?
Imu Sam:はい。僕もラップは英語のみを使っていますね。カナダのモントリオールにいた時期があるんですけど、そこでおっかない目に遭って、そのときに「英語が喋れないとこんな怖い目に遭ってしまうのか」と思って、一生懸命勉強したんです。
――ラップとギターの両方をやろう、というのは自然な流れだったんですか?
Imu Sam:そうですね。最初はずっとギターだけをやっていて、ブルースとかファンク、ソウルが好きでずっと弾いていたんですけど、そこからヒップホップにハマったんです。丁度そのとき、フィーチャリングって形でS.A.R.のメンバーと「Skate」を一緒に作って。そのときに「ラップやってみない?」って感じになったのが始まりです。それまでラップをやったことはなかったけど、やってみたいなとは思っていたので「できるかも」と。それがきっかけでした。
――S.A.R.というバンド名の由来は?
santa:結成当初の3人の頭文字を取りました。santaの“S”、Alexの“A”、Attieの本名の頭文字“R”を取ってS.A.R.にしたんです。変えたいんですけどね(笑)。
Attie:タイミングを失ってしまって。他にかっこいい名前があるといいけどね。
ALタイトルのリファレンスは“マイルス・デイヴィスとA Tribe Called Quest”
――そして今年3月、ついに1stアルバム『Verse of the Kool』がリリースされました。アルバムの制作に至った経緯はどんなものだったのでしょうか?
Eno:僕たちが好きな60年代や70年代の音楽みたいに、ちゃんとアルバムの良さを表現したいと思って作り始めたんです。だから、意識的に「アルバムを作ろう」と思って作り始めましたね。コンセプトや「こういうものを作ろう」っていうアイデアを最初に膨らませていって。
santa:実際に制作に着手したのは去年の頭くらいですかね。
Eno:最初の工程に時間をかけて、実際に曲を作る作業はそんなに時間がかかっていないかと思いますね。最初の思想みたいなところが肝でした。メンバーで「なんとなく、こういう感じをやりたいよね?」って話し合って。
――普段はどうやって制作しているんですか?
Eno:曲ごとに完成までのプロセスが違うんです。誰かがデモのトラックを作ってきて、santaがそこにメロディを乗っけて膨らませつつ。結局、最後はジャムセッションになっちゃうみたいな。「You be Kool」はレーベルの会議室で、空き時間で作った曲で、トラックは3分くらいででき上がったんです。最終的な作業はめっちゃ時間がかかるんですけど、曲自体は全部さらっと作ったかもしれない。
――ヒップホップ的なグルーヴがありつつ、ジャズだったりファンクだったり、個々の好きなエッセンスが凝縮したような眩しさを感じました。「Kaminari」の最後の方はダブっぽいアレンジもあって。
Eno:音楽を作り始めたきっかけがリー・ペリーなんです。『Super Ape』みたいなアルバムを作りたい、というのが僕の夢で。
santa:あのアレンジ部分はEnoがいきなり「ジャズかダブ、どっち?」って聞いてきて。俺が「ダブ」と答えたらああいう風になっていました。
may_chang:大学の頃から一緒にふざけて遊んでいたので、割とメンバー間の注文も通りやすいんじゃないですかね。演奏中に「○○みたいに」って言われてもすんなりわかるというか。そういうお互いの呼吸があるので、ジャムの内容で行き詰まるということはなかったですね。
Taro:レコーディング中、俺が沼にハマってしまってなかなかいいテイクが録れなかったときがあるんですけど、EnoがレコーディングブースからFunkadelicのレコードを流して「これだよ、これ!」って。
――アルバムのタイトルは誰のアイデアから?
Imu Sam:マイルス・デイヴィスの『Birth of the Cool』の話をしていたんです。
Eno:あと、トライブ(A Tribe Called Quest)の『The Low End Theory』というアルバムタイトルはダブルミーニングだっていう話もしていて、「そういう感じのタイトルにしたいよね」っていう流れになっていたんです。それと、もともと「You be Kool」って曲ができていたから「“Kool”がCじゃなくてKで始まるのもいいよね」っていう話になって。
Imu Sam:そこで、『Birth of the Cool』の「Birth」をラップの「Verse」にして完成したタイトルです。
――santaさんが担当しているリリックやメロディに関しては?
santa: 今回のアルバムでは、自然に出てくる自分の感覚を大事にしていたので、全体を通してそこまでコンセプトを決めずに作っていきました。「POOL」や「Kaminari」なんかはリリックやメロディ先行で作った曲ですし、ジャムの音源やトラックを聴きながらイメージを膨らませて作った曲もあって。リリックやメロディに対しても曲を作るプロセスに合わせて、その時の雰囲気や自分の感覚を落とし込めたらと思って作っていました。
Eno:そういう制作の順番もあまり決まってないよね。
Taro:レコーディング当日にいきなり変わることもあるしね。