ハンブレッダーズの音楽に反映されるムツムロ アキラの思想 “本音”を曝け出すことの大切さ
ハンブレッダーズが2月21日に4thフルアルバム『はじめから自由だった』をリリースした。
バンドにとって初の両A面シングル『またね / THE SONG』(2023年2月発表3rdシングル)の時は、楽曲制作を手がけるムツムロ アキラ(Vo/Gt)からのメールインタビューの回答を軸に歌詞の魅力について紐解いていった。
今回は念願の対面インタビューということで、アルバム収録11曲を歌詞中心に1曲ごとにピックアップして色々と聞いていこうと思っていたのだが、いざインタビューが始まると良い意味で違う方向に転がっていった。
インタビュー後のムツムロいわく「内省的な話になりましたね」という内容になっているが、これを読んでいただくと、ムツムロの人間性からハンブレッダーズの音楽が生まれていることが何よりもわかると思う。(鈴木淳史)
ライブ終わりにデモCDを買ってくれた人がいた その温度感や感動を忘れたくない
ムツムロ アキラ(以下、ムツムロ):カセットでインタビューを録音されるんですね?
――そうなんですよ。カセットにご興味ありますか?
ムツムロ:MD世代なんですけど、今はカセットプレイヤーで音楽を聴いたりもしますね。これでしか聴けないというのが好きで。サブスクは便利ですけど、そこにアクセスしている感覚なんですよね。カセットは、ちゃんとサンクチュアリになっている。だから、それに近い感覚で自分にとってのターニングポイントになったアルバムは、フィジカルでも持っておこうと思っています。
――アルバムを通して聴かない人も多くなってきていますが、僕もアルバムという文化が好きですし、ハンブレッダーズはアルバムを大切にしているイメージがあるんですよ。今回のアルバムは、いつぐらいから構想がありましたか?
ムツムロ:『ヤバすぎるスピード』(2022年11月発表3rdアルバム)を制作して空っぽになった直後に、『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』(テレビ東京系アニメ)のエンディングテーマの話をいただいて、わりと空っぽな状態から「またね」を作らなくてはいけなくて。でも、(ダブルA面の)「THE SONG」は、パッとできましたね。
――『またね / THE SONG』をリリースして、1年後にはアルバムをという構想だったのですか?
ムツムロ:その頃は次のアルバムは考えられていなかったですね。でも、こうしてアルバムを作らせてもらえることはありがたいです。インディーズで自分たちでバンドを進めてきた時期もあったので、レコーディングやパッケージングに予算がいくらくらいかかるのかも、なんとなくわかるんですよ。出してもいいよと言ってもらえているうちは、出せるだけアルバムを出したいです。ツアーも周りたいので。
――自分たちですべてやっていたインディーズ時代があるからこそ、メジャーリリースへの感謝があるのは素敵ですよね。
ムツムロ:業界にいると“演者様”扱いを受けることがあるんですが、僕らはスタッフとの隔たりをなるべく作りたくなくて。みんな一緒に仕事をしているわけじゃないですか。メンバーだけ偉そうにするなんて……と思いますし、そもそも偉いとも思っていない。だからインディーズ時代の経験はめちゃくちゃ大きいです。その経験がないまま大きな会社と仕事をすると、きっとまた違ってました。あと、初めて友達以外でハンブレッダーズのライブに遊びにきてくれたお客さんのことを、未だにずっと覚えていて。ライブ終わりに「ライブ良かったです!」と言ってデモCDを買ってくれたんです。そういう温度感というか、その感動は忘れたくないですね。そうは言いつつも、どこか自分のことを“忘れがちな人間”だとも思っているので、気をつけて、なるべく忘れないようにしないとな、と。
――ムツムロくんがそういうしっかりとした芯を持っているからこそ、ハンブレッダーズがメジャーで活動することに対して、誰も何も違和感を覚えないんですよ。
ムツムロ:「メジャーに行って変わる」とか傍からは言いやすいですけど、本当に何も変わらなかったなと思っていて。僕らはメジャーでDIYができたらいいなと思っているんです。「わかる人にだけわかればいい」と言って地方にライブハウスを作るのももちろんかっこいいけど、みんながそれをするとムラ社会化してしまう場合もある。ロックンロールの歴史の枝葉に自分達がいるからこそ、ちゃんと次の世代に繋げていくために数字は見ないといけない。別に大金持ちになりたいのではなくて、文化を続けるためには最低限の数字。コロナ禍をきっかけに少しそう思うようになりましたね。「ライブハウスって、お金がないとなくなるんだ……」って。東日本大震災の時は高校生で、まだその残酷さを理解できていなくて、想像ができなかった。きっとフェスもライブハウスも、盆踊りとかと変わらない文化なんですよね。地元の祭って毎年赤字のところも多いらしいですけど、その文化を未来に繋げるためにやっている。昔、自分達が赤字でもリリースパーティーを組んでいた感覚と似ているなと。
「良さ」よりも「ぽさ」を重視するということ
――アルバムに話を戻すと、シングル曲をあえて入れない人もいるじゃないですか。でも、今回、「またね」「THE SONG」が入っているのも嬉しくて。
ムツムロ:シングルでアルバムに入れなかったのは、「銀河高速」(2019年6月発表)だけですね。なるべく入れたくて。最初からコンセプトアルバムを作ろうとしているわけではなくて、そこまでの間にリリースした曲を後からパッケージングしようという考え方というか。だから「アルバム」という言葉って面白いなーって最近よく思います。フォトアルバムも、開いて見返すとテーマが一貫してなくて雑多だったりしますよね。「何これ……?」と思うような写真も紛れていたり。その時期をただ切り取る言葉としてアルバムと呼ぶと、しっくりくるというか。
――曲順の感覚はバランスとストーリーでいうと、どちらを重要視しますか?
ムツムロ:ぶっきらぼうですけど、終わり良ければ全て良しですね。頭と締め方はみんなですごくちゃんと考えます。1曲目から3曲目の流れはこうして、最後の10曲目、11曲目はこれかなみたいな。あと今作に関して言うと、全部いい曲なのが逆にバランス悪いかもなと思っていて。語弊があるかもしれないですけど、今後はアルバムに振れ幅や強度を持たせるためには、あまり良くない曲も作らないと……と最近思っていますね。バンドというフォーマットで「良い」ことにこだわりすぎると、何か他の大事なものを見落としているような気がするというか。
たとえばここ3年で一番聴いているOrigami Angelのアルバムは、曲間が全部0秒未満でクロスフェードしてるんです。単曲で聴くと前の曲の残響があって違和感を生むのかもしれないけど、アルバムは一度再生したら最後まで1つの映画みたいに聴けてしまう。1曲1曲の良さよりもアルバムの良さを突き詰めてるよなと思いました。あとはメジャーデビューしたバンドがよく音源にピアノやヴァイオリンを入れるじゃないですか。音源の「良さ」にこだわるなら確実にそれらを入れたほうが聴き手の幸福度は上がる、絶対に正しい方法だと思うんです。だけどバンドの良さって、ギターベースドラムで一音を鳴らした瞬間にあると思っていて。「良さ」よりも「ぽさ」を重視しなきゃな、と常に思っています。