向井秀徳はなぜ少女を歌い続けるのか ZAZEN BOYS『らんど』が夕暮れ時の人間物語たる理由

 そして触れずにはいられない「永遠少女」。“戦争”がテーマという、非常に悲しくも現代とリンクしてしまう歌詞が突き刺さるリード曲だ。2コードの美しさと力強さに負けないように乗せたという歌詞は(※3)、戦争の悲惨さは物語るが、決して戦禍の美徳を述べるものではない。悲痛な死を背景に、少女が食欲に負けた此畜生(こんちくしょう)に食われることに対する怒り、それごと喰らい、生を繋ぐ本能的行動。恋人との思い出は瓦礫に埋もれ、悲しみよりも優先されたのは生きるためにもがく行為。一瞬で命が途絶えてしまう人の脆さの傍にひしめき合う、怒り、憎しみ、恐怖、生への渇望、本能。ここには生々しい“人間臭さ”が充満している。そしてその“人間臭い”を愛する男が向井秀徳であると思うのだ。〈人間なんてそんなもんだ〉という歌詞は諦めの一言のようであり、そんな人間が好きだという裏返しのメッセージでもあるのだと。

ZAZEN BOYS - 永遠少女

 〈赤いキセツ〉に抱いた恋心を描く「透明少女」(NUMBER GIRL)、性に正直な姿と虚しさが募る「性的少女」(NUMBER GIRL)、肉体関係で人との繋がりを求める少女たちを傍観する「半透明少女関係」、そして「永遠少女」へ。そのストーリーに共通項はないと思っていたが、こうして並べてみると、少女に根づくピュアなイメージが剥がれるように“性”や“生”への欲求を描いたり、人と人は繋がっていたいという本能的欲求を分析したりと、少女に備わる人間臭い一面に焦点を当ててきたようにも思える。もはや性癖とも言えるが、尊重だの思いやりだのを語る中途半端な偽善の愛よりも、こちらの方が清々しいほど真っ直ぐな人間愛だ。

NUMBER GIRL - 透明少女

 「夕焼けにとり憑かれ続けている」ーーその言葉通りに、かつてないほどの夕暮れ物語が詰め込まれた本作。かつてクロード・モネが水面の揺れと光の差し方で姿を変える睡蓮に魅了され、死ぬ間際まで描き続けたように、一期一会で成り立つ夕暮れ時間の人間模様に、向井秀徳はこれからもとらわれ続けるのだろう。歴史に残るアートとは、そういった力強い焦がれや性癖があるものだ。そして揺るぎない人生のテーマを持つ者は強く、永遠となる。

 冷凍都市から乱土世界を舞台に、現代の夕暮れから見えるもの。大人だから共感することも、痛々しいほど伝わるものもある。いつかの少年の初期衝動は成熟し、大人の本能的欲動へ移り変わり、今日に鳴る。向井秀徳の本能が鳴る『らんど』は、キャリア史上最高傑作と言っても過言ではない。

※1:https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/36545
※2:https://realsound.jp/2023/11/post-1481483.html
※3:https://natalie.mu/music/pp/zazenboys

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