Chevon、自身の弱さも苦い人生経験も音楽で肯定する 「“一人じゃないんだ”と思ってもらえたら」

Chevon、自身の人生を肯定する音楽

誰かに踊ってもらえたら、自分のキモい部分も救われる(谷絹)

谷絹茉優
谷絹茉優

ーー何かインスパイアされた作品、リファレンスにした作品などありましたか?

谷絹:私、最近映画化が発表された浅野いにお先生の『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』が好きで、これがまるっきり同じ設定なんですよ。でっかいUFOが飛来し、長い間駐留したことによって人々の日常に溶け込んでしまう。でも、それがいつ地球に災いをもたらすのか現時点では全くわからないという。そんな『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』の設定からかなりインスピレーションをもらって完成させたのが「ですとらくしょん!」です。

ーー未曾有の危機、大きな脅威というのは、私たち現実世界に生きる人々にはコロナウイルスを彷彿とさせますよね。

谷絹:あ、それもあったと思います。そういう事態に瀕した時、人がどう動くのか。その本性が垣間見える瞬間を自分は面白いと感じているんでしょうね。 

ーー〈共存を謳って安寧なんて本能も腐って甘えた愛を連ねて〉や、〈競争を奪って廃れてしまった嘗ての大帝国〉と言ったフレーズは、多様性や共存社会といった現代の価値観に疑問を投げかける、非常に挑発的な内容ですね。

谷絹:思想が強いですよね(笑)。「ですとらくしょん!」や「大行侵」はかなりドキドキしながら書いていました。今って多様性を履き違えている人が結構多い気がするんですよ。自分たちのことを、「いい人間」や「いい企業」だとアピールするためのコンテンツに利用されているというか。本当は全く関心を持っていない人たちによる表現や、消費のされ方が目に余るんですよね。もちろん多様性も、共存社会もジェンダーフリーも大事な理念だと私も思うのですが、昨今の動きを見ているとモヤることが多くて。

ーーとてもよくわかります。ただのエクスキューズとして用いられている言葉が多く、ますます本来の意味から離れて形骸化しているなと感じることが多い。

谷絹:わかってもらえてめちゃくちゃ嬉しいです(笑)。ほんとそうなんですよ。「この人は、悪く報道されているから悪い人に違いない」みたいな。同じ行動をしていても、めちゃくちゃ好感度を上げる人もいれば、逆に好感度を落とす人もいる。そこにすごく違和感を抱いていて。

 自分はミュージシャンなのだから、そういうメッセージをSNSに長文で投稿するよりは、こうやって音楽の中に自分なりの答えとして入れることで、聴いてくれた人が少しでも関心を持ってくれたらいいなと思って始めました。

ーー〈とうにメッキの剥がれた教祖〉〈盲信に身を任せて、君は何度裏切られた〉といったフレーズにはどんな思いを込めましたか?

谷絹:例えばアーティストに対して盲信的というか、崇拝に近い思いを抱く人っているじゃないですか。いわゆる「推し」や、恋愛対象でもなんでもいいんですけど、そういうものを「教祖」という比喩で表しているのであって、決して宗教そのものだけを批判したつもりはないんですよね。自分が信じているものを、時には疑ってみることも必要なのではないか、何の疑いもなく信じてしまうのは、ちょっと気持ち悪いよね? と言いたかったんです。

 学生の頃、学校にスマホを持ち込むことが禁止されていたんですけど、今の時代は緊急の連絡が必要な場合もあるし、ルールとしてはあまりにも時代遅れなんじゃないかと思って先生にそう言ったことがあるんですよ。そしたら「先生もそう思う。でも、学校で決められたルールだから」って。「おかしい」と思いつつ、「決まってることだから」と言ってルールを変えようとしない、そればかりか反省文も書かせようとする態度を「気持ち悪いな」と思ったことがあって(笑)。そういうことの積み重ねが、日本を俯瞰で見たときに「なんか遅れているな」と思ってしまうことにつながるんじゃないかなと思うんですよね。

ーー「スピンアウト」はどのように作ったのでしょうか。

谷絹:この曲は、翌日がレコーディングなのに何もできていなくて「やばい!」ってなって(笑)。

ktjm:ずっと頑張ってはいたんだよね。でも、なかなか納得のいく形にならなかった。

谷絹:とりあえず時間を区切って、夜の10時までに何も思い浮かばなかったらこれまでのストックから選ぼうという話になって。そこから私がひたすらメンバーと共有しているクラウドに、メロと歌詞をガンガン入れていき、その中から2人が「いいね」と言ってくれたアイデアを広げていきました。

 アレンジを詰める時間もないから、あとは各自持ち帰ってフレーズを考えてスタジオに持ち寄ろうと。なので、完成形がどうなるのか誰も分からないまま進めていって、ミックスダウンの段階で「あ、こうなったのか。いい曲になってよかったね」みたいな感じでした(笑)。出来上がってみたら、私たち自身でもかなり上位のお気に入り曲になりましたね。こんなふうに、ほとんど衝動のまま作る楽曲も大事なんだなと改めて思いました。

ktjm:追い詰められた時にしか出ない曲の良さがありますよね、僕たちの曲は。

オオノ:この曲は、歌詞カードを見て聴くのと、何も見ないで聴くのとでは聴こえ方が全然違うよね。最初、英語で歌っているのかと思ったところが実は日本語だったりして。

谷絹:サウンド的にはマルーン5みたいなテイストを入れて、あの頃の洋楽が好きな人には刺さる感じに仕上げています。構成も不思議なんですよ。〈いっそ、アイキルユウ〉(※正式表記は“ユウ”が小文字)から〈ウケるよな〉までがCメロで、そのあとさらに展開メロが続いていて。きっとこれ、普段の作り方だったら途中でボツになっていたかもしれない。あるいは、じっくり練り上げる時間があったらもっと整理されていたと思うんですよね。

ktjm:ギターのフレーズも、いつもなら「手ぐせにならないようにしよう」「今までとは違うフレーズにしよう」「同じフレーズを出さないよう」と思いながら組み立てていくのですが、この時ばかりは考える時間もなくて(笑)。自分から出てきたものをそのまま録音していったので、そういう意味では一番「自分らしい」プレイというか。複雑なこととか、手の込んだことをしていない分、シンプルで覚えやすく印象的なフレーズになったかなと。

 複雑で難解なプレイって、覚えにくいから人って聴き流しちゃうと思うんです。だからこそ、歌の後ろではかなり複雑なことをあえてやっていることが多いんですけど、この曲は最初から最後までずっとシンプルなので、ボーカルとせめぎ合いになっていると思います。

ーー歌詞ではどんなことを歌おうと思いましたか?

谷絹:私は結構、ウジウジしただらしない人間だし(笑)、落ち込むことがあるとすぐ悲劇のヒロインぶったりするところがあって。特にバンドを始める前、高校生の頃とか本当にどん底で。あとから考えれば全然そんな深刻でもなかったんだけど、別に考えなくてもいいようなことをいろいろ考え、「消えたい」とかすぐ思うような人間でした。ただ、そういう悲しい曲を悲しいまま歌うのではなく、ダンサブルな曲に乗せたいんです。それで誰かに踊ってもらえたら、自分のキモい部分も救われるなと。それに、当時の私みたいな気持ちを今、抱えている人たちに「一人じゃないんだ」と思ってもらえたら何より嬉しいです。

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