三浦大知、好奇心の赴くままに見つめ直した創作の原点 自身のフィールドから飛び出すことの大切さ
いつもそこにあって、すっと心を救ってくれるもの
ーー「ERROR」は、ジャングルを取り入れた曲になっています。過去にも「飛行船」や「(RE)Play」といったドラムンベースを取り入れた曲はありましたが、この曲でジャングルを取り入れた理由は?
三浦:まず、前提として自分の場合は「今回はどうしてもこのビートでやりたい」みたいに思うことはあんまりなくて。どちらかと言えば、感覚的に「これがかっこいい、面白い」と思うかどうかで決めているので、あんまりジャンルで音楽を聴くみたいな感じがないんです。この曲に関しても、ジャングル的なビートがやりたいと思っていたというよりは、以前「Cry & Fight」を一緒に作ったSeihoさんとガッツリ彼の曲でやりたいと思ったことの方が強いというか。前回は僕らだけでなく、UTAさんにも共作者として参加いただいていたこともあって、今回はSeihoさんと一対一で向き合って曲を作ることにしました。
それで「この感じはどう?」「めっちゃかっこいいですね」みたいな感じのやりとりをしているうちに自然と曲のアイデアが固まっていき、ああいった形の曲に落ち着くことになりました。
ーー「ERROR」の歌詞はMOMO"mocha"N.さんと共作されていますが、こちらはどういったアプローチで作り上げていったのでしょうか?
三浦:この曲のトラックを最初に聴いたときにすごく刹那的なイメージが浮かんだので、歌詞に関しても、誰かを好きになるとか、何かに感動するとか、何か一瞬を切り取るような感じのテーマがいいなと思いました。それで最初に思いついたものは、もう少し恋愛寄りの内容でした。それで例えば、初めて手を繋いだ瞬間や手が触れそうになるその一瞬の高揚感とか、何とも言えない心の動きとか、その一瞬だけを切り取って歌詞を書くみたいことができたらという話をMOMO"mocha"N.さんにした上で、一度歌詞を書いてもらいました。
その書いてもらったものをより拡げて、エモーショナルなものにしたかったので、そこに自分の価値観が全部ひっくり返るような感動、本当に全てのドアが一斉に開いたような感覚をズバッと切り取ったかのようなテイストを加えることにしました。
ーー歌詞では〈極彩のモノクローム、単彩のグラデーション〉、〈初めての色彩〉など色にまつわる表現が多い印象を受けました。このような表現を選んだ理由を教えてもらえますか?
三浦:それに関しては、Seihoさんのトラックを聴いたときの本当に弾けるようなカラフルな鮮やかさみたいなイメージが頭の中にあって、そのイメージを歌詞に落とし込むときに色の要素が出てきたのかなと思います。
感動したときの感覚は、やっぱり言葉にならないというか。その感情には名前もないし、自分でもよくわからないものだと思うんです。でも、「うまく言葉にできないけど、美しい」みたいな瞬間は、きっと誰もが経験したことがあると思うので、その感覚をうまく言葉にできるといいなと思いながら歌詞を書きました。
ーー「Sheep」は、昨年11月にシングルとしてリリースされたアルバムの先行曲のひとつですが、こちらを先行曲としてリリースした理由を教えてもらえますか?
三浦:この曲は、今作を作っていく中でも最初の方に完成した曲なんです。またリリースの流れとしても「能動」の次は、この曲がすごくいいんじゃないかなということで先行配信することにしました。いつもお世話になっているプロデューサーのUTAさんと一緒に作った曲ですが、UTAさんと曲を作る時はタイアップなど、このプロジェクトに向けて曲を作りたいとか、あらかじめテーマが決まっていることがほとんどなんです。でも、これはそうではなく「別にリリースが決まっているわけではないけど、曲を作りませんか?」みたいな感じで2人で遊びながら作りました。
UTAさんは本当にものすごい音楽プロデューサーなんですけど、昔から一緒にやらせていただいているからこそ、今回は三浦大知というフィールドでUTAさんのやりたいようにしてほしいという想いがあって。逆に言えば、普段からドラマだったり、映画だったり、たくさんいろんなお仕事をされてると思うので、僕と一緒に曲を作るときは、特にテーマを設けず、「今日、何やります?」みたいな感じで作るようにしているんですよ。この曲もそういう流れで生まれた曲というか、そのときに聴いていた音楽とかの情報を交換しつつ、「こういうのがいいですよね」とか、「歌は全部ファルセットにすると面白いかもね」とか、曲のアイデアをお互いに出しながら曲を構築していきました。
ーーアンビエントR&Bやポストダブステップを思わせる曲調で、トラック自体に隙間があることで三浦さんの声の力強さやファルセットの歌声がより印象的に聴こえます。曲を作り始めた段階でそういった部分を活かすことは決まっていたのでしょうか?
三浦:そうですね。今までも何度も一緒にやっていますが、正直、UTAさんがどうやってトラックを作っているのかはよくわからないんですよ。気づいたら曲ができているというか(笑)。本当にそんな感じなので、今回も一緒に曲を作っている時に僕が考えたメロディラインを仮に入れてみたら、UTAさんのアイデア自体も膨らんで曲がどんどん発展していくことになりました。
ーー三浦さんが手がけたこの曲のタイトルは、”眠り”にかけたものですが、その歌詞にはストレスや不安からの解放がメッセージとして込められているように感じました。また、歌詞に主語がないことで、三浦さんご自身に向けての曲のようにも感じますが、一方で、リスナーが自分ごととして感情移入しやすい部分もあると思いました。この歌詞はどのようなコンセプトで書き上げたのでしょうか?
三浦:例えば、しんどいときとか、夜になるといろいろと抱え込みやすくなるのが人間だと思うんです。もちろん、寝て起きたら次の日になっているし、世界は進んでいくんですけど、なんとなくそこに取り残されている気がするというか。「この苦しみは一生終わらないのかもしれないな」とか、そういう気持ちにすごくなりやすい。でも、その夜を乗り越えたり、次の朝を迎えたりすると少し気が晴れるときもある。もちろん、憂鬱な朝もたくさんありますが、でも、みんなそういうことを繰り返して生きていくというか。
そういうことはもちろん僕にもあって、ある日ちょっと疲れていてしんどいなって思いながら、寝室に入ったときにベッドの掛け布団と枕の感じが羊のように見えたことがあって。そのときにこの羊は、毎日寝室で自分を待っているんだなと思ったんです。いつもあんまり意識せずに疲れたらベッドに倒れ込んでいますが、「こいつはいつもここにいるんだよな」と思ったら、すごく救われた気持ちになりました。
やっぱり当たり前のことはひとつもないし、ここにいてくれるこのベッドに自分はいつも包まれているという気持ちになりましたね。本当にそういうしんどい夜やつらい朝もいろいろあるけど、そんなときに何も言わずに側に行ってくれるこの羊のことを曲にできたらいいなと思いました。
きっと音楽もそういうものというか、いつもそこにあって、自分が聴きたいときに聴けて、すっと心を救ってくれるものだと思うので、みんなにとって心のよりどころになれるような曲になったらいいなということを考えながら歌詞を書きました。