SHISHAMOのラブソングに夢中になる若者続出 恋愛の幻想も現実も鋭く描写する“少女漫画”的センス

 「僕に彼女ができたんだ」は、例外的にドラムの吉川美冴貴が作詞をしているが、主人公の“僕”は、初めての彼女ができたことに浮かれている。 “彼女”である“かわいいあの子”からは「ふたりだけの秘密だから」と口止めされているが、「今すぐ誰かに自慢したいよ」と爆発寸前だ。手を繋いだだけで、ここまでテンションが上がる“僕”はまだ中学生くらいだろうか。“彼女”の方は“ふたりだけの秘密”を楽しんでるようにも感じるし、親にも友達にも言いたくない事情があるのかもしれない。

 これは偶然なのか必然なのかわからないが、同時にバイラルヒットしている「君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!」は真逆の展開となっている。主人公は〈つまらない平凡な女〉を自称する“私”が、〈どうぞ皆さん見てください/この人が私の恋人です〉と“君”を自慢に思い、そんな素敵な“君”に恋人として選ばれたことを誇りにさえ感じている。街を歩いても、テレビを見ていても、〈君がナンバーワン〉というほどの恋の熱に浮かされているが、サビの最後の1行だけ〈私のものじゃなくなるその日のために〉といういつか訪れる別れを予感させるフレーズが入っている。「僕に彼女ができたんだ」の“僕”では思いもつかない、いくつかの終わりを知っている“私”だからこその言葉だろう。

SHISHAMO「恋する -10YEARS THANK YOU-」

 そして、2023年1月に3回目の日本武道館で開催された十周年記念ライブ『SHISHAMO NO BUDOKAN!!!~10YEARS THANK YOU~』の1曲目に演奏し、同年10月にぴあアリーナで行われたアニバーサリーイヤーの締め括りとなるファイナルライブ『FINALE!!! -10YEARS THANK YOU-』のアンコールの最後に歌った「恋する」は、ずっと友達で恋愛対象としてみていなかった相手のことをふとした瞬間に「あれ……?」と思い始める気持ちの変化と恋の芽生え、〈君を好きになるかもとか考えずに/なんであんなこと言っちゃったんだろう?〉という後悔が描かれた片想いソングだ。

SHISHAMO「君の大事にしてるもの」

 恋のワクワクやドキドキだけでなく、“私”を大事にしてくれない“君”の大事なもの(レスポールからGTO全25巻まで!)を窓から投げ捨てて壊す「君の大事にしてるもの」や、〈女の子を大切にできない男なんて全員漏れなく死ねばいいのに〉と言い放つ「忘れてやるもんか」のように、怒りや憎しみ、悲しさや苦しさといった恋愛におけるネガティブな感情に焦点を絞った恋愛ソングもある。幸せな瞬間もあれば、壊れそうな瞬間もあり、多種多様で複雑で微妙なグラデーションが綴られているが、楽曲ごとに主人公もストーリーも違うからこそ、その主人公のどれかに自分とよく似た“私”や“僕”を見つけることができるのではないだろうか。

 曲によっては「私と似ている。この気持ちわかる」とどっぷりと感情移入することもできるし、恋愛映画のように「こんな恋がしたいな」と憧れる、ロマンチックな夢の物語としても楽しむこともできる。はたまた、ときめきの対象が身近な人でなく、推しだったり、二次元だったり、動物やモノになってもいいくらい、バラエティに富んだストーリーが用意されている。

 また、宮崎が手がけるジャケットの人物像があえて顔の詳細までは描かれていないところにも、リスナーである“あなた”が自由に楽曲の主人公や登場人物を思い描いてほしいという願いが込められているように思う。リアリティのある情景や感情を描きながらも、主人公は限定しすぎずに、聴き手が自分を重ねられるくらいの適度な隙間を持たせている。

 だからこそ、SHSHAMOの恋愛ソングは年齢や性別に関わらず、いつの時代でも聴き手が自分の姿を投影できるスタンダード性を湛えているのではないかと思う。

■リリース情報
最新曲「最高速度」
2024年1月10日(水)配信リリース
ボートレース2024年CMシリーズ『ボートレース だれもが躍動するスポーツ』TVCMタイアップソング

SHSHAMO 公式サイト
https://shishamo.biz/

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