ハナレグミ、“夢中”に身を委ねる大切さ 新たな煌めきを掴んだ2023年のライブも振り返る
「今はハナレグミの両面性を打ち出したい」
――そして11月にリリースされたニューシングル「MY夢中」ですが、歌詞に宇宙という言葉があったり、浮遊感のある楽曲であったりと、どこかフィッシュマンズを思い出したりしました。
永積:へぇ~おもしろいね! ドラマ(NHK夜ドラ『ミワさんなりすます』)主題歌の話をいただいて、ドラマに向けて作って生まれたフレーズというか、とにかく良いテーマだなと。
――主人公のミワさんは大好きなものに夢中になって生きている人ですよね。
永積:原作漫画を読ませてもらって、自分にも当てはまるし、夢中になって生きていくというのは、それさえあれば十分というか、色んなことに変換できるというか。今は予期していないことがどんどん起きるけど、自分の中でどう変換するかにかかっている。ひとつでもいいし、一旦でもいいから、夢中になることこそが自分が持っている強み。そしたらネガティブなことも裏返せる。だから(自分は)歌うんだよなって。ミワさんという人は肩の力が入っていないし、だから「夢中にならなきゃ」ではなくて、当たり前に夢中になれている。自分がここまでやれているのも、まさにそうだし。
――アルバム『発光帯』(2021年3月)の頃に、曲を作るというよりも歌っていたいと話されていたのが印象的だったんです。でも今は、その時よりも、よりシンプルに音楽に、歌に夢中になられているのかなと感じました。
永積:曲を作るのも楽しいよね。でも、あまりそこにこだわらないところもあって、まぁ自分で作る時は作ると思うし、そういう時間も含めてライブだなと。身を委ねて歌っていくというか。(楽曲)制作もライブだし、そこは顕著になってきている。
――制作自体をライブとして捉えるという考えは初めて聞いて驚いています。
永積:元々そう思ってたけど、本当にそうじゃないかな。厳密に言うとライブではないんだけど、ライブに向かう過程としてレコーディングがあるんだろうね。
――そして来年3月には『THE MOMENT 2024』というライブが東京と大阪で開催されます。『THE MOMENT』は2020年2月にも東京と大阪で開催されましたよね。ストリングスと一緒に大阪で、ホーンと一緒に東京で、スカパラとライブをされていました。
永積:あの時の『THE MOMENT』はとても大きくて、去年スカパラと一緒にやった『フジロック(FUJI ROCK FESTIVAL)』もそうだったけど、自分のやるべき音楽の方向と姿勢が明確になった。その明確になったものを止めずに打ち出していきたい。大人数編成をバックに歌うと、より何と言うのかな……最高なんですよね(笑)。単純になるけど自分は、ナット・キング・コール、サミー・デイヴィスJr.といったストリングスをバックに歌っている人に影響を受けてきたから。その夢が叶っていることに、自分自身がぶち上がれる。
あと『THE MOMENT』はショーとしても作れるんですよ。年に1回、近藤良平さん(コンドルズ)と『great journey』という舞台寄りのことをやっていて、そこでの経験を発揮しやすい。今回の『THE MOMENT』も前回みたいにテーマを作って、色々な曲のカバーを盛り込んでいって、自分の曲と人の曲の境界線がない感じにしたいですね。『THE MOMENT』は、ボーカリストとしてソウルショーみたいに全身を使って音楽をやれてる歓びを出したい。バンドや弾き語りって塊みたいに一丸となって撃ち抜く作用だけど、『THE MOMENT』ではもっとショーとして魅せる、華やぐステージを作れる。まだ曲は決まっていないけど、また違った魅力を出せると思っているし、今から体を作っていかないとね。
――前回はストリングスとホーンで分けていましたが、今回は分けずにストリングスもホーンも一緒に入っていますよね。
永積:そうだね。ストリングスとホーンの音でのアンサンブルって至福というか、ジャンルを飛び越えて圧倒されるというか。こないだの服部もストリングスのカルテットが入るだけで、弾き語りの画角を飛び越えて高みに連れて行かれた。声とストリングスやホーンのハーモニーはすごく相性が良い。ストリングスは記憶とか感情に響いてきて、ホーンはビートみたいに肉体的に響いてくる。ハナレグミは、その両面を持っていて、例えば「独自のLIFE」みたいな肉体的なビートがある曲から、「深呼吸」みたいな記憶とか感情に届く曲まである。両方の彩りに大きなエンジンを授かって思いきり歌いたいね。『THE MOMENT』は小さく収めるライブじゃないから、自分にとっても何ができるのかなという挑戦で、もっともっといける可能性を感じてもらえるライブにしていきたい。
――でも、その両面性ってSUPER BUTTER DOGの頃から持っていましたよね。
永積:その両面の間で引き裂かれそうになってたから本人は(笑)。自分って何だろう!? どっちかじゃダメなの!? ボブ・マーリーの「ジャー・ラスタファーライ」みたいな、どっちかじゃいられない自分がいる。欲張りなのか、両方じゃないと自分じゃない。だから「コミュニケーション・ブレイクダウン」じゃなくて、「コミュニケーション・ブレイクダンス」(SUPER BUTTER DOGが2000年に発表したシングル曲)になる。今は、世の中を見ていてもわかりやすくて、当たり前に(両面を)表現している人が多いよね。
でも、BUTTERの頃は、本当の自分を隠したい気持ちもあった。今は自分を打ち出していいというか、やっぱり両方あって自分なんだって実感して。『THE MOMENT』は両サイドを感じてもらえるライブになるなと。スカパラのメキシコでのライブを観て、とにかく徹底的に突き抜けてやることの大切さを改めて感じて。インタビューを受けていて言うのもあれだけど、自分のやりたいこと、やるべきことは、言葉のいらないところまで行くことだなって。とにかく体で歌っていく。自分が信じたものを、この先のステージで出すというシンプルなことを授かった1年だったね。自分が自分に集中する、それこそ「MY夢中」になる。そういう人を見るのが好きだし、そういう人になるのがより大事になってくるね。
――なるほど。
永積:写真家の幡野広志さんも同じようなことを話されていたし、夢中になれることをひとりで探すのは大変だけど、夢中になっている人の横にいると、それが伝播するから。ただただ頭で考えているだけでは大変で、それならば夢中になっている人の側にいるのが一番良い入り口になる。夢中になっている人と大至急友達になって、その引力を感じて、そしたら、そこに突破する力が生まれる気がする。絶対みんな夢中の引力を持っているから、もう一度その引力を呼び覚ますというか、まずは目を閉じて自分の引力を集めることだね。だから、頑張って自分の言葉を書きます。そっちに行かないともったいないし、考える前に飛び込め、みたいな。それこそが生き抜く術だし。夢中を手離すな! こっからどんどんやっていくんで、よろしくお願いします!
■プレイリスト企画情報
『ハナレグミのMY夢中MUSIC』
#1「ギターソロに夢中」:https://jvcmusic.lnk.to/muchu_playlist_guitar
シェアキャンペーン応募フォーム:https://form.run/@muchu-playlist
■リリース情報
ハナレグミ 配信シングル『MY夢中』
<収録曲>
M1.MY夢中
M2. MY夢中(歌とピアノ)
配信リンク:https://jvcmusic.lnk.to/mymuchu
■番組情報
NHK夜ドラ『ミワさんなりすます』(総合テレビ)
2023年12月7日(木)22:45~23:00(最終回)
原作:青木U平
脚本:徳尾浩司
出演:松本穂香 恒松祐里 山口紗弥加 片桐はいり 小泉もえこ 伊藤万理華 高岡早紀 堤真一
制作統括:渡辺悟
プロデューサー:上田明子 大久保篤
演出:新田真三 寺﨑英貴 田中正 保坂慶太