ギタリスト 三井律郎、THE YOUTH以降の出会いと歩み 『ぼっち・ざ・ろっく!』での“答え合わせ”とは
須田景凪から受けた新鮮な刺激
ーー下の世代のアーティストの中で、近年特に新鮮だった出会いはありますか?
三井:それはやっぱり須田景凪くんですかね。いわゆるDAW世代というか、自分一人でも完結できる人。でも江口くんも当時からそうだったんですよ。で、中村一義さんもそうじゃないですか。江口くんはもともと部室で自分で録って、それをそのままCDにして、流通までやってた人なので、僕が関わってきたのはもともと地力が強い方が多いんですけど、須田くんはバンドもやりつつどちらかというとDAWの人で、自分のフォーマットをちゃんと持ってる人だったので、最初にデータが送られてきたときは完成度高くてびっくりしましたね。ギターも「このままじゃダメなの?」と思ったりして。
ーー須田くんが作った音源そのままでいいじゃんと。
三井:そうなんです。でも「アコースティックギターを打ち込みでやるか生でやるか迷ってる」みたいな話があって、僕が家で弾いたんですよね。須田くんみたいなタイプって、自分の中に圧倒的なビジョンがあるから、なかなかそれを超えられないことが多くて、差し替える作業の方が主になってたりもするんですけど、こっちから提案することも大事なので。アコギを弾いて送ったら、「生にしましょう」って言ってくれて、そのレコーディングをしたところから、何作もやらせていただいてます。
ーー須田さんはもともとドラマーだそうですけど、今はバンド経験とか楽器経験もなく、最初からDTMで作る人も出てきていて。そういう人たちはこだわりもビジョンもめちゃくちゃあるんだけど、それを生でどう再現するかに関しては知識がなかったりするから、バンドをやってきた人たちが裏で支えるケースも増えてますよね。
三井:増えてますね。一括りにするのはよくないけど、自分一人で作れる方たちのバックバンドって、いぶし銀の方が結構多いですよね。すごくセンスのいい人を呼んでるなって。最近のUK.PROJECTだと、WurtSくんは城戸(紘志)くんとか雲丹くん(雲丹亀卓人)とか新井(弘毅)くんとか。Vaundyくんでもboboさんがドラムを叩いていたりとか、皆さん素晴らしいミュージシャンと一緒にやってる印象がありますね。
ーーそれこそWurtSさんは2000年くらいのアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)だったり、オルタナティブなギターロックを志向していて、時代が一周した感じがしますよね。
三井:もちろん同世代でやる良さもあるし、自分が好きだった世代の人とやるのも面白いと思うんです。ただ、例えば須田くんもライブのときは若いメンバーが多いけど、レコーディングでは雲丹くんだったり、堀(正輝)くんだったり、わりと僕と同世代の人とやっていることが多いです。でも打ち込みのことも多くて、それぐらいクオリティが高いんですよね。
「『ぼっち・ざ・ろっく!』では“下北沢のかっこいいもの”を出した」
ーー『ぼっち・ざ・ろっく!』の音楽に携わったことは、三井さんのキャリアの中でどんな出来事だったと言えますか?
三井:半分は編曲プラス想像力というか、原作があるものを具現化していくことの難しさがあって、もう半分は答え合わせというか、自分が経験してきた下北沢の、単純にかっこいいと思っているものを出しました。それが人にどう捉えられるのかは不安でしかなかったですけど、アニメを観てくれる方に「なんでここはこうなってるのか」を読み取ってもらえてる感じがありましたね。作ってるときはコロナ禍だったのもあって、時間がたくさんあったので、なんでこういう音になったかをちゃんと説明できるように、自分の中で納得できるようにしようとは思ってて、インタビューでちらほらそういうことを喋ってはいるんですけど、そこを読み解いてくれるアニメファンの方が多かったのはすごく嬉しかったです。「このギター、若い子はどう思うんだろう?」とかも思ったけど、「下北を感じる」って言ってくれるバンドマンもたくさんいたし、それは嬉しかったですね。
ーー下北沢を拠点に活動してきたこれまでのキャリアの答え合わせでもあったと。
三井:それができた作品でしたね。あとはもうご褒美みたいな感じで、リテイクとかもほぼなく、本当に好きなものを作らせてもらったので、ありがとうございます! っていう(笑)。
ーーオファーが来たのはいつで、全部仕上がったのはいつだったんですか?
三井:お話をいただいたのは、ちょうど日本でコロナがワッとなった最初ぐらいだったと記憶してます(2020年春頃)。で、アルバムのマスタリングが終わったのが、アニメが放送される2日前か3日前(2022年10月)。2年半ずっと作り続けたわけではないですけど、後半はわりと忙しくずっとそればっかりやってたようなイメージがあります。僕はプロの編曲家ではないので、どれぐらいでできるのか、自分が一番よくわかってなくて(笑)。でもやっぱりちゃんと納得するものを作りたかったので、もともと期間は長めにもらっていたんです。
ーー結果的には下北沢はもちろん、コロナ禍で大きな打撃を受けた全国のライブハウスをもう一度盛り上げる契機にもなったし、三井さんにとってもコロナ禍の中で大きな意味があったのかなと。
三井:精神的に保たれました。LOST IN TIMEもla la larksも止まっちゃったし、THE YOUTHはもともと何年かに1回しかやらないし、仕事がなかったわけではないんですけど、活動できるバンドがなくなっちゃったと思って結構精神的に参ってはいたんです。今でもたまにその感情がドカッと襲ってくるときがあったりするんですけど、やっぱりバンドをやってないと、アウトプットがない状態の自分ってどうなんだろうと思うんですよね。自分もバンドをやってるからこそ、表立ってやってる人たちがいかにすごいのかを知ってるので、昔はレコーディングをしても周りに言ってないことが多かったんです。「僕がやりました」みたいに見えちゃうと向こうも嫌かなと思って。でもそれも自分のバンドがあったからこそ成り立っていた部分で、バンドが止まってしまうと、やっぱり精神的には一回崩れそうになりましたね。それでも何かやってかなきゃいけないっていうときに、『ぼっち・ざ・ろっく!』があったことで保たれたというか、擬似的にバンドをやってる感覚、好きなものを作ってる感覚があったから、すごく助けられました。
ーー昔は一般の人が裏方を気にかけることがあまりなかったですけど、やはりSNSで個人が発信できる時代になって、多くの人が裏方にも注目をするようになりましたよね。だからこそ、『ぼっち・ざ・ろっく!』で編曲を手掛けた三井さんにもスポットライトが当たったわけで。
三井:“弾いてみた”動画みたいに、SNSとかニコ動とかで、楽器のヒーローたちが増えたことによって、「バックはこの人たちがやってるんだ」みたいなことも気にする人が増えて、楽器が弾けることがまたステータスになってる感じもありますよね。バンドにしても、メンバーそれぞれがSNSをやってるから、こんなこともやってるしあんなこともやってるんだっていうのがわかるので、バンドという大きな船のように見えて、実は一人ひとつの船を持ってるというか。データを送るだけでレコーディングに参加できる時代でもありますから。
ーーツールによって制作の自由度が上がったことも間違いなく大きな要因ですよね。それこそDTMでもクオリティの高い音楽が作れるようになって、楽器ってどうなの? みたいに言われた時期もあった気がするけど、結果的には楽器が弾けることの価値は改めて高まって。便利なツールが増えたことによって、上手いプレイヤーもどんどん増えてきました。
三井:そうですよね。ちょっと話を戻すと、オルタナティブなギターって、ある意味打ち込みのものとは一番遠いギターで、だから新鮮に受け入れられたのかなと思うところもあって。ああいうギターって、事故待ちみたいな感じなんですよ(笑)。
ーー変なエフェクトのかかり方が逆に面白かったり。
三井:そういうものを芸術化していくことが、一般的な打ち込みのものから一番遠いのかなと思うこともあって。
ーー今は逆に、若い世代で1990年代とか2000年代の初期っぽい音を出す子も増えてますよね。羊文学とかもそうだと思うし、WurtSは打ち込みとのハイブリッドな感じもします。
三井:ああいうギターかっこいいですもんね。ニコ動とかに投稿してる若い子もバンドをやりたい子が多くて、お手本がギターロックバンドだと、やっぱりギターのアプローチもそういうふうになってくる気がして。ヒトリエのシノダのギターとかもそういう感じだし。だから、そこの垣根はなくなってるかもしれないですね。バンドだからどうとか、歌い手さんだからどうとかっていうのは、ミクスチャーになってる感じはあるかもしれない。オルタナ寄りのギターが鳴ってるのに、トラックは打ち込みで、シーケンスがバキバキ鳴ってたりもするじゃないですか。昔は交わらなかったものが交わるようになった感じもしますね。
ーー三井さんが関わってるアーティストもそういう人が多いですよね。
三井:そういう意味では、自分が好きなままでいられるけど、ちゃんと新しいものになっていて。Aimerさんとかで弾いてもそれを感じます。素晴らしいクリエイターたちが作ったものだけど、わりと僕のままでいられるというか、それでちゃんと今までにないものになってるなって。なので、僕はめちゃくちゃ生かされて生きてるなと思いますね(笑)。自分が好きなギターを弾いていられるのは周りの人たちのおかげなので、そこは本当に感謝しています。
※1:https://bocchi.rocks/music/
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