SG、どん底を抜け出し新たな人生観へ メジャーデビューで確信したプロセスを分かち合う大切さ

SG、どん底を抜け出し新たな人生観へ

 日韓ミックスのシンガーソングライター・SG。今年の3月、彼はLDH Recordsとタッグを組み、自主レーベル SUPERGENIUS Entertainmentを設立することを発表した。そして約半年を経て、11月13日、配信シングル「Palette」をリリースしメジャーデビュー。〈人生はなから退屈さ/それでも愛を歌うんだ〉と高らかに宣誓する同曲は、SGの活動における新章の幕開けを告げる楽曲であり、また、今回のインタビューを通して、この曲は彼の新しい人生観を映し出したような非常に重要な一曲であることが明らかになった。この約半年の間に起きた出来事を一つずつ辿っていくことで、SGが「Palette」に込めた想い、また、今後の活動へ向けた深い決意を感じ取ってもらえるのではないかと思う。(松本侃士)

情熱を失って気持ちが落ちていた半年間

――「Palette」について深くお話を聞いていく前に、3月のメジャーデビュー発表以降の動きについて聞かせてください。

SG:3月にSpotify O-EASTでやった初ライブ『SG 1st Concert “FINALE”』の後にメジャーに行くっていうことを発表したんですけど、それまでの間すごい突っ走ってきて、そのライブが終わった時にいったん全てが燃え尽きちゃったんですよね。それに、自分の中で、ライブの出来についてやっぱり納得いかない部分もあったりして、すごく自責をして、自信を失くしてしまって。

 その立ち止まってしまった時に、ライブのことだけではなく、それまでの音楽活動全体についても振り返ったんです。はじめは音楽で食べていけない時期、本当に誰にも知られていない時期もあったけど、次第にちょっとずつ知られるようになって……僕って、もともとそんなに夢が大きいほうじゃなかったんですよ。「有名になりたい」「音楽で飯を食いたい」ぐらいだったんです。それができるようになって、去年の夏に親父が還暦になった記念に、車をプレゼントして。そういうやりたいことを全部やってしまうと、本当にこれが自分の人生のフィナーレなんじゃないかって、それぐらい満足しちゃって。食べたいものを食べられるし、欲しいものを買えるし、じゃあもう人生終わりでいいなっていうぐらい、もうおもしろくないなって。今だから言えるんですけど、本当に人生のどん底のどん底まで気持ちが落ちてたんですよ。

 ちょうど同じ時期に、ずっとニコイチで音楽を作ってきたトラックメーカーのJUGEMが僕のチームを離れて独立することになって。それも重なって、「じゃあもうやめたい」ってなって。LDHの皆さんも本当に心配してくださって、マネジメントのスタッフとかも「大丈夫か?」って声をかけてくれて。でも「うるせえ」「俺はもういいんだよ」っていうモードで、もう何が楽しくて音楽をやっているのか分からなくなっていました。

――その期間は、ほとんど制作活動はストップしていたのですか?

SG:LDHの皆さんと、メジャーデビュー曲をどんな曲にするか決める会議が走っていました。僕が今まで作ってきたデモがいくつか候補曲としてあって、ただ僕的には「まあこれ、メロディいいっすよね」ぐらいの感じで。スタッフの皆さんは「すごくいいね」って言ってくれてたんですけど、そもそも、その時期はメジャーデビューをすることにすら情熱がなくなっちゃっていて、全然手をつけられなくて。もともと、メジャーデビューのタイミングは夏を予定していて、それにLDHの皆さんに準備を進めてもらっていたんですけど、結果として、それを全部僕がズラしちゃう形になったんですよね。めちゃくちゃ迷惑をかけたんですけど、その時は、俺は何も悪くないと思えてしまうぐらいに落ちこんでいました。

“自由”は目標ではなく、プロセスのこと

――そうしたどん底のどん底から、気持ちが好転するきっかけは何かあったのでしょうか?

SG:それこそ、JUGEMが夏ぐらいに戻ってきたんです。数カ月間一人でやってみた上で、改めて「俺、ソギョンさん(SG)とやりたいんだ」って言ってくれて。めっちゃ嬉しかったんですけど、ただその時にはすでにLDHと制作を進めているメジャーデビュー候補曲があって。

 ちょうどその時、スタッフの方とご飯に行って。僕は、つまんなくて何も面白くなくて、どうしていけばいいのか分からないと正直に伝えたら、彼が「今やっていることが、たぶん君にとっては宿題になっちゃってるんだと思う」「俺たちは、お前がマストとして作ったものじゃなくて、ウォント、つまりお前が心から作りたいと思ったものを売りたいんだよ」「俺らが必死で売るから、お前のウォントを作ってくれ」って言ってくれて。そこから「だったら今進んでいる候補曲をいったん止めさせてください」「俺、一発目こういう曲をやりたいんですよね」って伝えたら、「じゃあそれをやろうよ」ってなって、JUGEMと一緒に「Palette」のデモを作りました。それをスタッフの皆さんにも聴かせたら「ヤバいじゃん」「お前、6カ月待たせた甲斐があるな」みたいなことを言われて、「すみません」みたいな(笑)。

 「Palette」の音源制作が始まって、僕の気持ちも次第に回復しつつあったんですけど、とはいえまだ気持ちが定まっていない状態が続いていて。9月にリリースした「Way Back Home」も同じくらいの時期に作っていたんですけど、ある日、その新しい2曲をトラックダウンしたんですね。深夜1時ぐらいに自宅に帰った時、たまたま「ちょっと聴いてみよう」ってイヤホンを挿してみたんですけど、大袈裟でも何でもなく、制作現場以外で自発的に音楽を聴いたのは、その時が6カ月ぶりだったんですよ。それまで気持ちが落ちていた時期は音楽を全く聴いてなくて。その状態で、新しく自分が作った曲を聴いてみたら……ちょっと、「Way Back Home」についても話していいですか?

――もちろんです。

SG:あの曲は、もともと僕がSHAUN「Way Back Home」をカバーしていたら、銀太くん(DJ GINTA/Repezen Foxx)も同じ時期にSHAUN「Way Back Home」を別の解釈でカバーされてて、それが運命的に出会って一つの新しい曲として完成した経緯があるんですけど、その巡り合いに改めてめちゃくちゃ感動したんですよ。トラックダウンしたばかりの「Way Back Home」を聴きながら、本質的な意味で、これこそが人生なんじゃないかなって思って。それまでの僕は、何か大きい目標を叶えるために進んでいかなきゃっていうふうに思っていたんですけど、今回の「Palette」は「『Palette』を作ろう」って思っていたらきっと作れなかったし、それは「Way Back Home」における銀太くんとのコラボも同じで。それぞれがお互いの人生を歩んで、それがたまたま運命的に重なったからこそ生まれた曲なんです。そのことに気づけた時に、これからの人生観がガラリと変わって、本当に新しく生まれ変わったみたいな感じでしたね。

Way Back Home - SG & DJ GINTA (Official Music Video)

――その新しい人生観を、改めて言葉で説明するとしたらどうでしょう。

SG:俺は、目標をなくす。目的地がないから、まあ自由っていうことですよね。目的地がない航海ってすごくしんどかったりもするんですけど、きっと仲間がいたら楽しいじゃないですか。一つひとつの経由地に行くたびに新しい思い出ができたり、新しいドラマが生まれていく。

――一つのゴールに到達することではなくて、そのプロセス自体に意味があるということですよね。

SG:そのプロセスをこれから楽しんでいければ、変に崩れることはねえな。俺、これから最強じゃんって。

――以前、SGさんは「世界一自由なアーティストになりたい」と言っていて(※1)、今のお話はその時の発言と重なるなと思いました。

SG:前までは、「世界一自由なアーティストになりたい」は、僕の中で目標だったと思うんですよ。けど、世界一自由って、プロセスのことじゃんって思えたんですよね。そう思えるようになってから、可能性が広がったというか、視界が広がって見えてくるものが増えた。そういう気持ちを込めた楽曲が、今回の「Palette」になります。

 パレットの上には、いろいろな色の絵の具があるじゃないですか。僕がこれまでリリースしてきた一つひとつの作品のジャケットもすごく色とりどりなんですよ。僕の人生の良かった部分、ダメだった部分、それら全部を一つひとつの絵の具にして、ここから先の次の人生を描いていく。これからどのような絵を描いていくかに関しては、本当に自由なんです。

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