ZEROTOKYO、斬新なナイトクラブ体験の追求 ステージとフロアに驚きをもたらす演出システムとは

ZEROTOKYO、斬新なナイトクラブ体験の追求

 今年4月に開業した東急歌舞伎町タワーの地下に位置する、新基準のナイトクラブ ZEROTOKYO。ライブハウス Zepp Shinjuku (TOKYO)としての顔も持つ本施設には、単に“良い音を楽しむ”だけにとどまらない幅広い客層の需要に応えるべく、工夫を凝らした演出システムや最先端のスピーカーシステムが導入されている。それは舞台に上がるDJやVJの表現も大きく広げるものであり、より細やかなシミュレーションや圧巻の映像演出が可能となっている。

 そうしたZEROTOKYOを支えるハード面の仕組みについて、ZEROTOKYO総支配人 兼 事業統括グループ長の内田実氏、ZEROTOKYO企画制作グループ 兼 PRコラボレーション推進グループ プロデューサーの江南俊希氏、リワイアー株式会社取締役の石井亮一氏、COSMIC LABの高良和泉氏に話を聞いた。(編集部)

「お客さんがどこにいても心地よい場所を見つけられる音環境」(石井)

ーーZEROTOKYOの音響、照明、映像演出のシステムはどういった体験を提供することを考えて構築されているのでしょうか?

内田実(以下、内田):元々はライブホールとして事業を展開する計画で進めていましたが、途中から深夜帯にナイトクラブとしても展開していくことが決定しました。その際にやはりライブホールとして必要な音響や照明、映像といった機能を提供していくことは当然のことでした。しかし、ナイトクラブとしても展開するのであれば、アジアNo.1を目指してやりたいということで、音響、照明、映像演出に関しても最高のものを提供したいと考えました。

ーーZEROTOKYOでは、Adamson Systems Engineering(以下、Adamson)が導入されているとお聞きしていますが、数ある音響機器の中でこのブランドの製品の導入の決め手になったポイントを教えてもらえますか?

内田:ZEROTOKYOではライブホールとナイトクラブの両方でしっかりと機能することを前提に音響システムを設計する必要があったため、そのふたつの形態にしっかりと対応できるという点でAdamsonのスピーカーを導入しました。

 Adamsonのスピーカーは、ナイトクラブ業界では、イビサ島で人気のクラブ・Ushuaïaなど世界的に有名な大型ナイトクラブでも使用されているブランドです。またEDMシーンで名高いマーティン・ギャリックスをはじめ、著名アーティストが好んでツアーで使う機材としても知られていますが、国内のナイトクラブでAdamsonのスピーカーを導入するのはZEROTOKYOが初となります。

ーーライブホールとナイトクラブでは、音響システムの設定も異なると思いますが、異なる営業形態に対し、同一の音響システムを使用するZEROTOKYOでは、音をお客さんに楽しんでもらうためにどのような工夫をされているのでしょうか?

石井亮一(以下、石井):ライブホールの場合、基本的にお客さんは、アーティスト目当てでやってくることがほとんどだと思います。なので、音響システムを組む側としては、普通だと聴こえないであろう小さい音でも確実に出して聴こえるようにするということが求められます。だから僕らとしては、わざわざチケットを買って足を運んでくれるお客さんに対しては、とにかく全てのフロア、エリアに音を届けるという責務があるんです。

 一方で、ナイトクラブの場合も音をお客さんに確実に届けるということ自体には変わりはありません。ただ、ナイトクラブでは、もちろんアーティスト目当てで遊びにきてくれる方もいますが、それ以外にも踊りに来ることを目的に足を運んでくれる方もいます。あとはお酒を飲むために来られる方もいたり、ライブホールに比べてナイトクラブの方が客層としては広がっています。そういったナイトクラブならではの面に音響でアプローチするためにも、まず音響スタッフの先にいるアーティストが自由に組める柔軟性のある音響システムを構築する必要がありました。

 また音質面では、迫力のある良い音を聴かせたいという思いは当然ありますが、プライオリティとしては、フロアで踊りたい人には大音量で音を楽しんでもらいつつ、フロアの後ろで会話を楽しみたい人やVIPエリアでお酒や雰囲気を楽しみたい人には、それに見合った音量で音を届けるといった、エリアごとに異なる音量レベルを設定しています。なので、ZEROTOKYOでは、“100人のお客さんがいたとしたら、そのうちの99人のお客さんが楽しめる音響”をコンセプトに、決して音響チームのひとりよがりにならない音環境を届けることを意識しています。

石井亮一

ーーでは、具体的にZEROTOKYOでは、どういったものを良い音環境として定義されているのでしょうか?

石井:良い音環境の定義は人それぞれですので、なかなか一言では表しづらいのですが、個人的に良いと思う音環境の定義はもちろんあります。ZEROTOKYOでいうと、Adamsonの一番大きいキャビネットとサブウーファーが入ったメインフロアですね。そのサブウーファーでは他のメーカーのものよりもすごく低い音域の音を出せるのですが、その音域を支えることで高音域を下げられるんです。これによって全体の音量は下げつつも低音域で迫力ある音が出せるので、大きな音が鳴っている中でも会話がしやすくなります。

 あと、フロアの音量があまりに大音量すぎるといづらさを感じて、長くいられないという人もおられると思います。でも、僕らとしてはせっかくフロアに来てくれたら30分でも長くそこにいてほしいんです。そうなれば、その時間の分だけお客さんも楽しいと思いますし、お酒も1杯くらいは飲んでもらえると思うので、そういう意味では音響の良し悪しは店舗の営業利益にも関わってきます。そういったことも踏まえるとやはり音響的にできるアプローチは、とにかく“居やすい音環境を作る”ということです。だから、ZEROTOKYOでは、クラブ全体でお客さんがどこにいても心地よい場所を見つけられる環境を構築するための仕込みをしています。

ーーZEROTOKYOは音響だけでなく、メインホールを取り囲むような360度LEDスクリーンによる映像や照明の演出も話題になっていますね。

内田:アジアNo.1かつ国内最大のナイトクラブを目指す我々としては、当然その部分でのクオリティもすごく大事になると考えました。そのために元々導入を予定していたメインホール正面の大きなスクリーンをはじめとした360度LEDスクリーンや照明機器を効果的に活用し、ダイナミックな演出を行うことを考えていたところ、COSMIC LABさんから映像と照明が同期するメディアサーバーというシステムをご提案いただき、導入することを決めました。ただ、仕組み的なことだけでなく、コスト面などさまざまなこともその決定を下す上での判断材料になっています。

内田実

「国内では類を見ない映像と照明が一体化した空間」(高良)

ーーメディアサーバーの導入を始め、映像など視覚演出をCOSMIC LABが担当することになった経緯を教えてもらえますか?

内田:ZEROTOKYOでは、例えば、動きのある照明機器などを使った視覚演出には力を入れており、数多くの演出機器の導入が決定していました。ただ、それだけだとそこで終わってしまいます。COSMIC LABさんにご提案いただいたメディアサーバーは、そのシステムを使って映像や照明を連動させることができ、それによって、これまであまり体感したことのない演出を可能にしています。数多くの演出機器を有しているZEROTOKYOだからこそ、それらを連動させることで効果的な演出が可能になると考えました。また、我々としては、今後の拡張性の面も含めて、お客さんによりさまざまな演出を楽しんでいただくツールとして、メディアサーバーはベストなものだと考えています。

高良和泉(以下、高良):COSMIC LABはVJ / アーティストとして、クラブやホール、古墳、世界遺産、バーチャル空間など、様々な現場において、リアルタイムで映像をプレイしてきました。また、映像コンテンツだけではなく、照明や音楽などと同期した空間演出を可能とする、独自のライブシステムの開発も続けています。VJ/アーティストのクリエイティビティの土壌と成りえる、機能面の拡張性を評価していただいたのかと考えています。

 実際、視覚演出においては、巨大LEDスクリーンをはじめとした演出設備のポテンシャルを発揮すべく、映像と照明による視覚体験のシームレスな統合が重要になると思っています。そしてシステム面においても、演出設備のオペレーション環境をいかに構築するのかが課題でした。

ーーでは、課題解決のためにどういったオペレーションを構築されたのでしょうか?

高良:複数に分かれていた演出照明と映像オペレーションをシンプルにして、統合性のある制御システムを計画しました。その時はそれが組み上がることで、本当に国内では類を見ない映像と照明が一体化した空間ができ上がるという思いでやっていましたね。あとはこのシステムを使用することで表現を拡張していく可能性を持たせることも重要視していました。

ーーメインホールでの映像と照明の同期はどういった仕組みで行われているのでしょうか?

高良:ZEROTOKYOの視覚演出システムで特徴的なのは、バーチャル映像による照明とフィジカルのライトによる照明がシームレスに同期して変化して制御されていく点です。つまり、会場に設置されたムービングライトとラインライトが、バーチャル上でも映像の中に登場し、リアル/バーチャル両方の照明を照明オペレーターがコントロールできるシステムを作り上げています。

 画面の奥に現実空間とシームレスに繋がったバーチャル空間を作ることで、この同期演出を可能にしているのですが、これに関しては、実際にご自身の目で確認していただけると、よりよく理解してもらえるのではと思います。

高良和泉

ーーCOSMIC LABはリアルのライブだけでなく、コロナ禍ではバーチャルのライブ演出でも話題になりました。その時の経験はZEROTOKYOでの視覚演出に活かされているのでしょうか?

高良:やはりコロナ禍ではリアルの現場がストップしたことで、必然的にバーチャルに移行した時期がありました。ただ、その中でも2021年にフジロック(『FUJI ROCK FESTIVAL』)に出演した際の「FINALBY( ファイナルビーエンプティ/EY∃ (BOREDOMS)、COSMIC LAB、NIIMI TAIKI、HORIO KANTA、MASUKO SHINJIによるプロジェクト)」というパフォーマンスは、コロナ禍だからこその時代性を孕んだ新しい表現ができたと思っています(※1)。

 また、NHKの番組でJO1の演出を担当したことがあり、その時に実装したXR演出システムを通じてひらめいたアイデアが、実はZEROTOKYOにインストールした映像と照明の同期システムに繋がっています。そういう意味ではリアルの現場主義だった我々がコロナ禍で思わぬ方向に舵を切ったことで、新しい技術や表現を作品に導入することが可能になったのですが、それをもう一度フィジカルの現場に持ちこむという、ポストXR的な視覚演出技術をZEROTOKYOに採用していただきました。

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