「生成AIと音楽の著作権問題」をJASRACに聞く クリエイターの創作環境を守るために必要なこと

 そういった“フリーライド”の問題に加えてクリエイターが懸念しているのは、生成AIに楽曲を学習させることでボーカル・作詞・作曲・アレンジなどの特徴を反映させた自身の作風に似た楽曲を許可なく生成することも可能になってしまう点だ。インターネット上にはすでに、著名なアーティストの声を用いて生成AIが作った「オリジナル曲」が散見されるようになってきている。現時点ではそのようにして生成された楽曲の著作権は、生成AI側に寄与する、あるいは著作権の所在が不明であることがほとんどだ。JASRACは生成AIと著作権の問題について今後どのように取り組んでいくのだろうか。

「これまでも著作権法上の課題の検討の際には、文化審議会でヒアリングを受ける機会があり、意見を述べてきています。また、政府や行政に対する取り組みは日常的に行っていて、クリエイターファーストの立場から、著作権保護のあり方や適正な対価還元などについての提言や要求を行っています。今後の文化審議会での議論の推移を見ながら必要な施策や制度設計について提言をしていきたいと考えています。

 また、クリエイターの中には、AIを使ってある作家の作風に似た生成物を大量に作った人が、その作家本人の新作が出たときに、自作に似ており著作権侵害ではないかと主張する懸念があるというような声もあります。これまでにも、創作的寄与の程度や類似性・依拠性の判断など、著作権法の適用に関する当事者間のトラブルは、生成AIか否かにかかわらず生じてきました。生成AIの発達によりこのようなトラブルが増大して社会に大きな影響が生じないよう、官民による枠組み作りが求められると考えています」

 生成AIがこれからの音楽文化にとって大きな影響を及ぼすものになることは間違いない。産業としてスケールしていくスピードに合わせて仕組みを整えていくことは容易ではないが、音楽の未来のためにも、クリエイターと共存することができ、相互作用を与えられるものとして受け入れられるような体制づくりが求められる。

「AIで鑑賞に堪えるものが生成されるようになり仕事が減れば、プロのクリエイターを目指す人も減ると思われる、といった声もクリエイターから届いています。そのような事態は、これから才能を伸ばそうという人たちにとって有益なのでしょうか。また、音楽愛好家にとってもそのような状況は幸せなのでしょうか。もちろんクリエイターの中でも様々な意見があります。懸念する声が寄せられている一方で、AIを音楽制作に取り入れて役立たせることができるのではないかという声もあります。歴史上、音楽は技術とともに発展してきました。AIについても音楽の発展につながってほしいという思いがあります。生成AIと著作権保護のあり方については、「透明性の確保」「適正な対価還元」などの意見がありますが、いかなる方法であってもクリエイターの意思を尊重し、クリエイターが安心して創作に専念できるよう、創造のサイクルとの調和を取ることが必要だと考えています」

※1:https://www.musicman.co.jp/business/564997
※2:https://realsound.jp/tech/2023/09/post-1432940.html

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