海上自衛隊の歌姫 三宅由佳莉、コロナ禍経て音楽で届ける平和への願い 岡本知高との「祈り」、『マクロスF』楽曲などへの挑戦

 三宅由佳莉(海上自衛隊東京音楽隊所属)が6年ぶりの新作アルバム『Departure~新たな船出』をリリースした。

 2013年に発表された海上自衛隊東京音楽隊による楽曲「祈り~未来への歌声」のボーカルが話題を集め、そこから“海上自衛隊の歌姫”という呼び名で人気を博してきた三宅。『Departure~新たな船出』には、ソプラニスタ・岡本知高とのデュエットで再録した「祈り~a prayer」のほか、コロナ禍で発信した「瑠璃色の地球」(松田聖子)、中川麻梨子とのデュエットしたアニメ『マクロスF』の楽曲「ライオン」(May'n / 中島 愛)など、多岐に渡る楽曲が収録されている。

 コロナ禍という苦境を経て、全ての人が新たな船出を迎えつつある今、三宅由佳莉が歌手として、自衛官として目指す道を語ってもらった。(編集部)

岡本知高さんと一緒に歌えるなんて思ってもみなかった

ーー6年ぶりの新作リリースおめでとうございます。現在の心境はいかがですか。

三宅由佳莉(以下、三宅):充実した収録でしたので、あっという間にリリース日が来てしまいましたね。前回とはメンバーも隊長も変わっていますし、心機一転のワクワクした気持ちで録音に臨めました。

ーーアルバムの内容に触れる前に、コロナ禍を含んだ6年間について聞かせてください。2017年にリリースした、前作『シング・ジャパン ―心の歌―』の頃よりも、歌手の隊員が増えたと聞いています。現在は、陸上自衛隊2名、海上自衛隊3名、航空自衛隊1名とのこと。こちらについては?

三宅:スキルの高い歌手たちが入隊してくれて、自衛隊としても活動の幅が広がりました。それぞれ何度か共演したことがあるのですが、私の歌を聴いて入ることを決めたという人も多いんですよ。とても嬉しく、励みになっています。ほとんどの隊員が入隊して5年以上経ち、堂々と歌ってくれますが、新作に参加した橋本晃作2等海曹はまだ緊張感があってフレッシュな感じですかね(笑)。

ーーまた三宅さん自身も2019年には横須賀音楽隊に転属、遠洋練習航海への初参加など忙しい日々を送られていたと。

三宅:東京音楽隊に10年間勤務して、11年目に横須賀へ配属されたんです。慣れ親しんだ場所を離れるのは心細い面もありましたが、横須賀音楽隊のメンバーも温かく迎えてくれて、楽しく過ごせました。

 転属後の最初の1年目には、遠洋練習航海に参加しました。全国から選抜された音楽隊の一員として、各寄港地で歌わせていただきました。練習も艦内で波に揺られながら(笑)。それが終わってからはコロナ禍になり、横須賀音楽隊の一員として歌を披露することは残念ながら少なかったです。

ーーコロナ禍ではコンサートがなかなかできない状況だったと思いますが、音楽隊の雰囲気はいかがでしたか。

三宅:当初は、全容がよくわからない不安と考え方の違いもあり、音楽をする以前のところから、合奏をするべきか/しないべきかと議論しました。それからコンサートの準備をしても、前日か当日に中止になることが続きましたね。以前は当然のように演奏の機会があったけれど、コロナの影響で、国民の皆様の前で演奏ができなくなってしまいました。でも、そんな時こそ、遠い海の向こうで日々自らの任務を果たしている海上自衛隊員たちの気持ちに思いを馳せることができました。

 国民の皆さまに会えないという状況が音楽隊にとっては珍しいこと。自衛隊のなかでも一番近い存在であるにも関わらず、会えない期間が2年以上続いたので、「会いたい、気持ちを届けたい」という想いでYouTubeから発信していました。その内の1曲が新作にも収録した、松田聖子さんの「瑠璃色の地球」なんです。

ーー三宅さん個人としては、その期間どのように過ごしていたのでしょう?

三宅:私自身は人々の前で歌を披露できることを信じつつ、自分のスキルを見つめ直して練習する期間だと考えていました。横須賀時代は個人で練習して、時々プレイヤーの人に聴いてもらう日々だったと思います。それぞれ注意して聴いている部分が異なり、色々なアドバイスがもらえるので勉強になりました。

【音楽】~未来を信じて~瑠璃色の地球/松田聖子(カヴァー・歌と吹奏楽・歌詞付き)瑠璃色の地球

ーーそんななかで、実際に演奏できた時のことは覚えていますか?

三宅:覚えています。2021年10月に1年ぶりに演奏会ができたのは感無量でした。それまで無観客での生配信コンサートもしたのですが、やっぱりお客さまがいることで音色が変わるんですね。やっぱり「届けたい心」が自分たちにあるんだなと。そこに誰かがいて、顔を見て、目が合う状況が、音楽隊の音を変えることに改めて気付いて胸がいっぱいでした。

ーーそれから、東京音楽隊に復帰して『Departure~新たな船出』に繋がっていくのですね。改めまして本作のコンセプトをお聞かせください。

三宅:タイトルの通り、「新たな船出」ということでコロナ禍を乗り越えて、またみんなで前を向いていこうという気持ちを込めました。特にソプラニスタ・岡本知高さんを交えて「祈り~a prayer 2023」を新たに収録したのが一番の目玉です。彼の持つ力強さや勇気が増し加わったバージョンとなっています。

ーー制作のきっかけも昨年末、デュエットを果たした岡本知高さんのライブ会場の裏側だったとか。

三宅:忘れられないコンサートでした。岡本さんの「この街で」という曲で涙が止まらなくなってしまって……。女性でも男性でもない、性別も年齢も超えた異次元の声が、お母さんが歌っているようにもお父さんが歌っているようにも聴こえたんですよ。頭のなかで自分の大切な人たちが同時に話しかけてくるような感覚になり、この歌声は本当に唯一無二だなと。

 それから本番後に楽屋で直接お話させていただきました。そこで彼が「三宅さんと歌を始めたきっかけが似ている」と言ってくれたんです。岡本さんは特別支援学校に通う高知県・宿毛から高知までの片道3時間の車中で童謡などを歌っていたこと、私は岡山出身でおばあちゃんと歌集を一緒に歌って好きになったことがルーツでした。そんな共鳴があり、リリース10周年の節目に「祈り~a prayer」をデュエットする、というところからアルバムの制作へと話が展開していったんです。まさか岡本さんと一緒に歌えるなんて思ってもみなかったですし、同じ領域にいてはいけないと感じていたので恐れ多い(笑)。

ーーアレンジはどのようにされたのでしょう?

三宅:元隊長で作曲者である河邊一彦さんが、岡本さんと私の歌い分けを考えてくださいました。レコーディング現場にも来て「ふたりの歌声がこんなに合うとは思わなかった」と言ってくれたのは嬉しかったですね。私としては、岡本さんの歌に包まれているような感じだったのですが……。同じ歌でも歌う人が変わるとこんなに変わるんだなと。

ーーリハーサルやレコ―ディング時のことについても教えてください。

三宅:リハーサルへの登場時からオーラがすごくて、「本物だ!」という空気が漂っていました。メンバーそれぞれの目もキラキラしていて、歌からパワーをもらっているような感覚です。できたら実際に公演もご一緒できたら嬉しいですね。海上自衛隊の演奏で、護衛艦の前で岡本さんに「宇宙戦艦ヤマト」を歌ってほしい(笑)。

ーー10年前とは歌い方や歌詞の解釈が変わったところもあるのではないでしょうか。

三宅:最初は東日本大震災からの復興を願って作られた曲だったのですが、コロナ禍を始めとした「色々な人を勇気付ける曲」に成長していきました。今なら「平和への祈り」という側面もある気がします。歌う側としては、10年前と同じ世界観なのですが、そこに登場する人物は変わっているようなイメージ。励ましたい相手が変わってきてはいますね。

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