ゴスペラーズ、30周年イヤーを目前にした“現在地” ジャンルレスな若手アーティストからの提供曲を歌う意義

 ゴスペラーズの新作EP『HERE & NOW』には、日本を代表するビートボックスクルー SARUKANI、6人組ツイン“リード”ボーカル・バンド Penthouseより浪岡真太郎と大島真帆、King & PrinceやSnow Manへの楽曲提供でも知られるYUUKI SANO、高校生ボカロPの晴いちばんが楽曲を提供。そして2020年に行った企画「アカペラ楽曲の一般公募」で最終候補に残った楽曲を収録。ゴスペラーズを愛し、ゴスペラーズとゆかりのある若手アーティストが集結した作品。積み上げてきたキャリアに安穏とすることなく進化を続けるゴスペラーズ。年末からの30周年イヤーを目前にした彼らの“現在地”は、一体どこにあるのか?(榑林史章)

今回の制作は“輸血してもらった”というイメージ

――今作『HERE & NOW』は若手アーティストとのコラボ作品です。皆さんは今やベテランにも関わらずチャレンジを怠らない、そのバイタリティはすごいです。

北山陽一

北山陽一(以下、北山):不安なんですよ。逆にバイタリティの不足を感じて、外からの補充を試みたという感じです(笑)。昨年セルフカバーアルバム『The Gospellers Works 2』を作った時、一歩引いたところでいろんな方と作品作りをできたのがすごく楽しくて。じゃあ今度は逆に、我々に提供してもらう形で若くて勢いのある人たちを指名したら面白いんじゃないかと。

――若い才能と一緒に制作をすることは、やはりとても有意義ですよね。

黒沢 薫(以下、黒沢):刺激をたくさんもらいました。長年やっていると自分たちのルーティーンができていて、その中でいいものが作れるという自負はあっても、「そういうやり方があるのか!」と目から鱗というか、気づきがたくさんあって。例えばハーモニーの積み方にしても、「こういう響きも面白い」という発見もありましたし、かなりインプットさせてもらった感じです。やってみたら「なるほど、かっこいいじゃん!」と思った歌い方もあったし。

安岡 優(以下、安岡):基本的には皆さん作りたいサウンドがしっかりあって、そこはすごいなと思いました。選択を迫られた時に「こっちがいいです」と即答できていて、「どっちでもいいです」という答えは一つもなくて。作りたい音がしっかりデザインされていて迷いがない。僕らは28年やってきた中でようやくいろんな引き出しができたけど、自分たちの若い頃は、彼らのように即答はできなかったかもしれないです。

村上てつや

村上てつや(以下、村上):みんな物怖じがなかったよね。僕らは以前、郷ひろみさんに「五時までに」(2001年リリース)という曲を提供したんだけど、郷さんは僕らより15歳くらい上で、「こうしてほしい」と言うのは結構勇気のいることでした。今思えば郷さんはとても胸を開いてくださっていたんだと分かるけれど、当時は大スターを前に僕らはカチカチだった。でも今作で楽曲を提供してくれた晴いちばんくんなんかは僕らと35歳以上離れていて。Penthouseの浪岡真太郎くんとかYUUKI SANOくんが30歳くらいだけど、それでも20歳違うから。そういう部分では、僕ら自身がオープンマインドでいなければこの作品を企画した意味がないし、今の子は良くも悪くも物怖じがなくて、変に僕らのことをベテラン扱いしないし、でも敬意を払うところは払ってくれて。

――参加した皆さんは、自分たちがアーティストとして確立している自負があり、求められているものもはっきり分かっているからでしょうね。

村上:お互いそういうスタンスでできたことが、すごく大きかったです。

黒沢:ただ若い人に作ってもらったというだけではないというね。

村上:アーティストとアーティスト、ミュージシャンとミュージシャンという関係性で作れたことで、わずか5曲なんだけど、フルアルバムとまでは言わないまでも、ずっしりくるものになったし、制作過程においても身の詰まったものが作れたなという感覚はあります。

酒井雄二(以下、酒井):まあ今回の制作は、言うなれば輸血してもらったみたいなイメージです。音楽ジャンルの違いを血液型に例えるなら、自分たちとすぐ馴染むアイデアも自分たちとは遠いアイデアも、いろいろな血液型を輸血してもらって元気になったというか。実際には違う血液型を輸血することはできないですが(笑)。

――そんなEPは、1曲目の「XvoiceZ feat. SARUKANI」からとてもかっこよくて、興奮しました。

北山:僕からSARUKANIのみんなはどうかとメンバーに提案して、彼らにラブコールを送った形です。ゴスペラーズでも酒井さんがビートボックスをやったりルーパーを使ったり、新しいアカペラの形を模索している中で、個人的にビートボックスの動画を観ることが趣味になっていて。今では競技として世界中で大会が開かれるようになったことで、ビートボックスのチームがいくつも生まれていて、世界戦で注目して追いかけていたのがSARUKANIでした。

――SARUKANIはどういう反応を?

北山:すごく驚いていましたよ。「な、何ですか?」って(笑)。SARUKANIはまだ楽曲提供をしたことがなかったのに、ライブ共演とかではなく、いきなり曲を作ってほしいというオファーでしたから。どういうやり方で曲を作るのかと思ったら、いつもタイトルから考えていると言うんです。

酒井:それで、僕ら5人とSARUKANI4人の9人でミーティングしてタイトルを決めて。

村上:確かに最初にバンッて何か決めておかないと、ビートボックスの世界だけだと取り留めがなくなりますよね。でもビートボックスという、言葉からは一番遠いところにいる彼らが、タイトルという言葉から作るというのがクリエイティブの面白いところで、「なるほどな」って腑に落ちた部分がありました。

――この曲は全部口から出る音だけで作られているというので、素人みたいな感想ですけど、“すごい”ですね。

北山:そういう感想になるのは、よく分かります。僕らも最初にデモを聴いた時は、疑いましたもん(笑)。実際にレコーディングしている様子を見て、多少はエフェクトをかけていますけど、「こんな音が口から出るんだ!」って驚愕しました。

黒沢:正直どういう曲があがってくるのか全く想像がつきませんでした。バラードにはならないだろう、くらいの予想しか立てられなくて。

北山:第一稿が上がって来て、そこに僕らが声を入れて返したら、第二稿ではまるきり違う曲になって返って来たんです。

――どういうことですか?

北山:声を入れて返したら、「なるほど、分かりました。こうですね」って返って来たのが、今回の曲です。初めてのことだし、どこまでやっていいかとか迷ったみたいで。声と声で殴り合ったことで、分かり合えたような曲です。

――ゴスペラーズもビートボックス的な音を出したりしたのですか?

酒井雄二

酒井:今回はやっていないです。僕がビートボックスを入れることもできるんですけど、彼らの領域にしゃしゃり出ないほうがいいなと。そのほうが、“こっち対あっち感”がより出ると思ったし。そもそもタイトル決めの時に、X世代とかZ世代というワードを出させていただいたことでこういうタイトルになったので、X世代のゴスペラーズ対Z世代のSARUKANIという、VS感が見えたほうがいいなと。

――最後の村上さんのロングトーンは迫力がありました。

黒沢:ライブでお馴染みの“すごいだろう芸”です(笑)。

村上:あれをやったのは、スタジオレコーディングの最後の局面だったかな。

北山:そうそう。生で聴いて、SARUKANIのKoheyくんもビビってました(笑)。

黒沢:でも冷静に位置をズラすというね。「こっちのほうがかっこいいから」って。その遠慮のなさもZ世代らしくて良かったな。

北山:アカペラの新しい形ができたらいいなと思って始まった制作でしたけど、自分が思っていた以上に「これがアカペラなんだ!」というところまで持っていけたのは良かったです。

――一般の人はゴスペラーズと言えば「ひとり」や「永遠(とわ)に」のバラードイメージが強い人も多い。そういう人にゴスペラーズの“現在地”(『HERENOW & NOWHERE』)を知ってほしいですね。

村上:聴いて「分からない」って言う人ももちろんいると思うんだけど、「僕らは今こういう感じでやっています」ということを聴き手に投げるという意味で、結果的にインパクトのある楽曲になったなと。

――かと言って、従来のファンを置いてけぼりにはしていない。2曲目の「Summer Breeze」は、作詞はPenthouseの浪岡さん、大島さん、作曲・編曲は浪岡さんが手がけ、爽やかさ溢れるソウルミュージックに仕上がっています。

黒沢 薫

黒沢:Penthouseには『The Gospellers Works 2』に収録の「Keep It Goin' On feat. Penthouse」(黒沢と宇佐美秀文が作曲)で編曲と演奏をしてもらったので、今度は彼らに曲を作ってもらおうと、割と早い段階に決まりました。浪岡くんはその時から曲を作りたいと言ってくれていたので、「じゃあゴスペラーズに作ってください」と。Penthouseっぽくてもいいし、バラードでもいいし、自由に作ってほしいと。それでデモが2曲届いて、1曲はソフトロックっぽくて、結果的にこっちのブルーアイドソウルっぽいものを選んだ感じです。めちゃくちゃ浪岡節がすごくて、テンポが速かったから、デモより少し遅くしてもらったんです。バックトラックの手数もすごく多くて、それを生に差し替えることで緩和して、ゴスペラーズにちょっと寄せた感じですね。

ーーラスサビのピアノとハーモニーがすごく胸に響きます。

北山:ああいうところの緩急のつけ方が上手いですよね。

黒沢:曲の中にフックがいっぱいあって。何度も聴きたくなるような場所をいくつも作って、それだけで1曲を構成しているみたいな。しかも彼の作る曲は展開が速くて、たっぷりあるように聴こえるけど短いんです。今回は3分30秒くらいなんですけど、彼の中では長い方らしいです。自分たちで作るとどうしても長くなっちゃって。こういう短くても満腹感がある曲というのは、今のアーティストの特徴だなって思いますね。

ゴスペラーズ『Summer Breeze』Music Video

――3曲目の「Mi Amorcito」は、ラテンの感じとトラップっぽい味つけもあって、今の洋楽のトラックという感じがしました。

黒沢:そうですね。作ってくれたYUUKI SANOくんは、2019年にリリースされた僕らのトリビュートアルバム『BOYS meet HARMONY』に参加してくれたUNIONEというボーカルグループのメンバーで。UNIONEは活動休止中なんだけど、気がついたらYUUKIくんはアイドルの曲を手がけるヒットメイカーになっていて。前から「いつかゴスペラーズさんに曲を書きたい」と言っていたから、「じゃあ今でしょ!」と思って、SNSのDMで「曲を書いてくれませんか?」と送ったらすぐ返事が来て。

――こういうラテン調にしてほしいという、指定をしたんですか?

村上:「アップテンポでイケイケなゴスペラーズはどう?」と提案したら、親御さんが僕らのファンだというだけあって、YUUKIくん自身もゴスペラーズの二面性みたいなものをよく理解してくれていて。ファンはこういった洋楽志向の熱い曲も待ってくれていることを分かっていて、そのアップデート版みたいなものを用意してくれたという。

黒沢:そうね。今の音ではあるんだけど、昔からのゴスペラーズのワイルドサイドを知っている人が、すごく満足してくれるだろう曲を書いてくれました。

村上:こういう言い方はあれだけど、今の『American Top 40』に入っているような曲を意識しながら作ってくれて。

酒井:ゴスペラーズもヒット曲を出した当時、その頃の『American Top 40』を横目に見ながら作ったという経緯があって、洋楽志向という文脈を理解して作ってくれていると僕は思いました。

北山:うれしかったのは、コライト相手として「ゴスペラーズに曲を書くと言ったら喜んでくれそうな先輩」をチョイスして、野口大志さん、佐伯youthKさんの3人で作ってくれたことです。お二人ともゴスペラーズ好きを公言してくれていて、何ならゴスペラーズを肴に飲み明かせるというチームを組んでくれたことがすごくうれしくて。長くやっていると、こういううれしいことがあるんだなって。

――ゴスペラーズというものを分かっている人が集まって、ゴスペラーズをネタに遊んでいる感じですね。

安岡 優

安岡:だからレコーディングも、いい意味でオタク気質に録ってくれました。「ここは安岡さんの声で一声入れてほしい」って。メンバーの個々の声やキャラクター性もすごく理解してくれていて、「安岡さんならこう歌ってくれますよね」みたいなのがあって、それはすごいなって思いました。そういう部分でも、ファン目線ですごく刺さる曲になったんじゃないかなと思います。

村上:面白かったのは、レコーディングの最後の方でYUUKIくんが「完成させたくないです」って言い始めて(笑)。

黒沢:何度もダメ出しをしながら、ダメ出ししたテイクを聴いて「本当はさっきからずっとOKなんですけどね」って(笑)。

安岡:まだ終わりたくない、みたいな意味でね。ファン目線で、気持ちが乙女なんです(笑)。

村上:ちなみに頭の〈(Uno,dos,tres!)〉という声はYUUKIくんの声です。

安岡:デモに彼の声で入っていて、彼は僕らの誰かに吹き替えてもらう予定だったらしいけど、デモのテイクがいいからこのままいこうって。

北山:すごく喜んでいたよね。「え! マジ?」って絶句しちゃって。

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