「綺麗事じゃなくて、クソならクソだって言ってくれる」 元自衛官芸人 やす子が語るヒップホップ/ラップ愛

今作りたいと思うものをパッと出すのがやす子の曲

ーー「多分花粉」はさらに短い時間で作られていますよね。トラックメイクで意識していることやこだわりはありますか?

やす子:自分はギターとかは弾けなくて打ち込みだけなので、トラックで決めているのは4小節ごとに音を足していこうということだけで。「多分花粉」も16小節ぐらいだったので、だんだんと音が重なっていくのを意識しただけです。ラッパーさんみたいに思ったことを溜めてブラッシュアップして作る、というよりは今作りたいと思うものをパッと出すのがやす子的な、やす子の曲かなって思います。「だったらいいのに」なんかは思ったことをメモしたリリックを、キックとスネアだけのトラックに打ち込んで乗せた感じです。あの曲は「山口県に帰りたいな」って思って(笑)。一日に一回くらい「将来自分って死ぬんだな」って考えるんですよ。「今生きてる人、みんな死ぬんか」って思ったら悲しくなっちゃうんですけど、そういうところから衝動的に作りました。

 あとは、1曲ずつ技術が向上するようにしようって。例えば「なんもないアンモナイト」はブクブク音を入れていて。ストローでブクブクってやって音を録ろうと思ったんですけど、ストローがなくてロケット鉛筆があったので、中身をくり抜いてその筒を使って水の中でブクブクして、サンプリングした音を入れました。極力MPCの中に入っている音じゃなくて、自分でサンプリングしてみたいなって。

ーーお笑いのネタを作るのと曲を作るのではどんなところに違いがありますか?

やす子:お笑いもすごく好きなんですけど、オチをつけないといけないからたまに苦しいときもあるんです。でも、音楽のことで苦しくなったことは一度もないですね。ネタを作るときは自分で作ったものを覚えられなくて嫌だ〜! って思うことがありますけど、音楽は何もない。「なんもないアンモナイト」みたいに簡単な世界だったらいいなぁと思います。あの曲はヒップホップ的なフロウって自分に向いてないなって思ったんですけど、ちょっとだけ入れたくて〈エイと貝と熱帯魚〉っていうリリックでやってみました。恥ずかしくて、そこで終わっちゃいましたけど(笑)。

ーー作り手側の立場になってから、音楽を聴く上での変化はありましたか?

やす子:作り手っていうのもおこがましいんですけど、作ってみてわかったのは「みんなすげー」って。MPCプレイヤーで言うとSTUTSさんが武道館でライブをやったじゃないですか。すげーって。Nujabesもローファイヒップホップのルーツを作った人で、その人たちがいなかったら今の自分は音楽を作っていないので、リスペクトしています。あと、今まで普通に聴いていただけなんですけど、分解して聴くようになって。ここで音が増えるんだ、とか、実はみんなちゃんと4小節ごとなんだとか考えるようになりました。呂布カルマさんの「Be-Bop」とか「俺の勝手」という曲は淡々としたビートに淡々とラップしているのかなって思ってたんですけど、曲を作り始めて、実はめちゃめちゃ音が厚くなっていってたり、深みが増していったりしていて、だから最後まで飽きずに聴けるんだ! と、発見がありました。

[PV] 呂布カルマ - 俺の勝手

ーー楽曲制作はこれからも続けていきたいですか?

やす子:ライブとかに出たいとは思わないですけど、曲を作りたいと思った時に作れるように頑張ろうって。作りたい時に作る、それのみです。音楽を作るのは好きなんですけど、ラッパーになりたいわけでもないし、歌いたいわけでもないので、ネタみたいな感じで子どもたちが歌ってくれたらいいなって思います。それと、曲作りはストレス発散になっているかもしれないですね。明るい曲しか出していませんが、実は淡々と気持ちを綴った曲とか負の感情を歌った、バッドバイブスな感じの曲もあったりします。今までうまくいかなくても「はぁー」ってなるだけだったんですけど、音楽を作るとそれを別のエネルギーに変えることができていていいです。今は感覚だけで作っていて、そこに知識が入ったらよりいいものになるだろうなと思うので、ちゃんと勉強しないといけないなって。完成度の高い作品を作りたいですね。

ーーでは最後にやす子さんが思う音楽、そしてヒップホップ/ラップの魅力を教えてください。

やす子:ラップは綺麗事じゃなくて、クソならクソだって言ってくれるところがいいなって思います。リアルだし、スキルに関係なくシンプルな音に淡々と乗せていて聴き心地がいいです。思わず頭が揺れてしまいます。音楽の魅力は〈Medicine,一番はミュージック〉ですね! どんな時もテンションが上がります。

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