aimi×JASMINE「日本でもR&Bは死んでいない」 シーンへの愛と反骨心を剥き出しにした初コラボ作『Risk It All』を大いに語る
今年5月にEMI MARIAとの3曲入りコラボシングル『How's The Weather?』をリリースしたR&Bシンガーのaimiが、今度はJASMINEとタッグを組み、2曲入りシングル『Risk It All』を作りあげた。表題曲はヒップホップフレイバーを取り入れた楽曲で、タイトでクリスピーな感じと二人のエレガントなハーモニーが溶け合う良曲。もうひとつの「My Girl」はY2Kリバイバルを意識した楽曲で、ビートはもちろん、コーラスワークの細かい部分にも2000年代R&Bへのオマージュが光る。二人の反骨心を剥き出しにした表題曲が生まれた背景や、お互いのR&Bに対する姿勢、さらに共通項など、たっぷり話してもらった。(猪又孝)
R&Bをこの時代に続けていくのは茨の道
――まずは、お二人が繋がったきっかけから教えてください。
aimi:JASMINEさんが私をInstagramで発見してくれたのがきっかけです。
JASMINE:ギタリストの上條頌さんがコロナ禍の時期にやっていた配信ライブに出たんですけど、違う回にaimiちゃんも出ていたんです。そこで初めて観て「この人、いい声してるなぁ」と思って、他の曲も聴いてみたいなと思ってインスタをフォローしました。
aimi:そのあと、私がblock.fmでやっていたラジオ番組『Vibe-In Radio』に、去年、JASMINEさんがゲストで出てくれたんです。顔を合わせたのはそれが初めて。そのあと飲みに行こうという流れになって、そこでJASMINEさんが「曲を作りたい!」と言ってくれて「私もです!」と即答しましたね。
――実作業は、どのように始まったんですか?
aimi:今年の2月に北九州のOthree Plusというクラブで、私たち二人がゲストで呼ばれたイベントがあったんです。せっかくだから、そこに向けて曲を作ろうという話になって。だから今回の場合は披露する場所が先に決まっていて、「Risk It All」を作りました。
――「Risk It All」はModesty Beatsがビートを手がけています。お二人から曲調のリクエストをしたんですか?
JASMINE:一応したけど、この感じはなかった(笑)。
aimi:そう(笑)。こんな曲をやってみたいっていうプレイリストの中にはないタイプのもので。リクエストには最近の新譜のR&Bを入れていたんですけど、Modesty Beatsが私とJASMINEさんがコラボするんだったら、これくらい攻めたものがいいんじゃないかと送ってきてくれたのがこの曲のビートです。まんまと気に入りました(笑)。
――このビートに決めたお気に入りポイントは?
JASMINE:音の鳴りがダントツでブリブリしてた。
aimi:JASMINEさんとだったら、こういうトラップ的なものもやってみたいなと。
――「Risk It All」にはお二人ともラップ調の歌い方をするパートがあります。JASMINEさんは過去にラッパーともコラボしているのでヒップホップと親密な印象がありますが、aimiさんにはあまりそれがないので今回のアプローチは意外でした。
aimi:実はラップをやりたいと言ったのは私だったんです。この曲で二人で歌ってラップもしたらめちゃくちゃ熱いんじゃないかと思って、むしろ私がふっかけた。JASMIMEさんはヒップホップやラップへのリスペクトがあるし、最初やることに躊躇してましたよね?
JASMINE:歌った方が上手いしね(笑)。
aimi:だけど、それじゃサプライズがないなと。私はラップというより、H.E.R.とかに近い、スポークンワードがビートに乗ってる感じで英語の部分を書いて。JASMINEさんは完全にラップのスタイルでやってくれて、個人的にはワクワクしてました。
――「Risk It All」の歌詞はどんなテーマで書いたんですか?
aimi:トラックのイントロにサンプリングで〈Are You crazy?〉の部分が入ってたんです。それに対して私が〈Am I crazy? I want crazy〉と返す仮歌詞を書いていて。そこにもう少し肉づけをして、どうクレイジーなのか書いていきたいとJASMINEさんが提案してくれたんです。そこからJASMINEさんがウチに来てくれて、自分たちが感じている苦悩とか、今までの活動で抱えていた葛藤とか、そういったものをぶつけ合った結果、リスクを負ってでも夢を見続けるというテーマにたどり着いた感じです。
――積もりに積もった悩みを吐き出すことから始めたんですね。
JASMINE:やっぱりR&Bをこの時代にやっていこうという時点でお悩みですよね(笑)。
aimi:あはは! 好きなことに変わりはないのでやり続けるけど、それなりに茨の道だなという感覚はありますね。
JASMINE:私の場合は悩んでるというより、悩んでたに近いんですよね。R&Bをやりたいけどやらせてもらえないことがあったので。EDMをやったりとか、そういう時期もあったから。それが私は辛かったので。
――周りのスタッフに助言されて作るものの……。
JASMINE:誰かに何かを言われて作るというのは、自分の意見が100ではないわけじゃないですか。関わる人数が多ければ多いほど自分の100ではなくなっていく。そういう作り方にはもちろん良い面もあるんだけど、悪い面もあったなと思っていて。今は、ほぼほぼ、誰からも何も言われない環境で音楽を作っているんです。そのぶん制作費とかプロモーションとか、金銭面も負担しながらやっている。それはリスクのひとつだなと思うんです。
――そんな思いがJASMINEさんのヴァースにまんま書かれているんですね。
JASMINE:そうです。
――一方のaimiさんにはR&Bを盛り上げたいという思いが強くあります。そのぶん苦労することもありますか?
aimi:「Risk It All」の源泉にある感情は怒りなんです。「一緒にR&Bを盛り上げたいです」と言いながら「盛り上げる気ないやん」って肩すかしを食らうような出来事が立て続いた時期だったんですよ。
――はぐらかされたりとか?
aimi:そう。思いが強いぶん、私の中では「どうして?」って謎だったんですよね。なにか一つのムーブメントをつくるには手を取り合うことが大事だと思うんです。そのときにリスクを考えてしまって挑戦できないのは良くないから、じゃあ、せめてみんなで痛み分けして全体で上がって行ければいいんじゃないかと。だけど、そうじゃないんだって突きつけられることがあって、それで書けたヴァースです。
――怒りと悔しさが今回の歌詞を生み出したんですね。
aimi:悔しさが大きいですね。それが悲しみにもなったし。このままだと自分が錆びてしまうなと思ったので、自分を奮い立たせたくて書いた曲なんです。
――思いが熱いぶん、悔しさもハンパないですよね。
aimi:そう。〈I need my people/who can dream as big(私には仲間が必要なの/ビッグドリームを描ける仲間)〉というフレーズは本心から。一緒に死んでくださいとまで言ってるわけじゃないんですよ。一緒に夢を見てほしいんだよねって言ってるだけ。私にそのチャンスをくださいっていう気持ちなんです。それが伝わらないむしゃくしゃがそのまま出ました(笑)。
JASMINE:私はその話を隣で聞いていて、これはああだよね、こうだよねってそのときに言わないようにしたんです。今の怒りを曲にぶつけてよ、って。
――おぉ、見事なプロデュースじゃないですか!
JASMINE:私、そういうタイプだから(笑)。
aimi:本当そう。
――今もライブで歌ってると、そのときの悔しさが蘇ってくる?
aimi:全然ありますね。ほぼほぼ悔しさです。
JASMINE:けど、あった方がいいんですよ、悔しい気持ちは。
aimi:最初、この曲のテーマは「反抗心」だと考えてたんです。でも「反骨心」だなって。なぜかというと、権威のあるものに対してひれ伏すつもりはないっていうハングリー精神的な部分も入っているから。これは反抗心じゃなくて反骨心だなって思ったんです。
――反骨心はモチベーションに変わりますしね。
JASMINE:そう。
aimi:aimiを始めた2020年ってコロナ禍まっただ中で、誰もが動きづらい時期で、「いっせーの」でみんながスタートラインに引き戻されて横並びになった感覚があったんです。みんな不安で、みんな仕事がなくて、みんなお金がなくてっていう。そこで私は音楽を作る楽しみに再会したんです。音楽を作るのはこんなに楽しいんだ、R&Bやっぱり好きだわって。その頃は音楽を作ることがとにかく楽しかった。だけど、本気でやればやるほど反骨心が生まれてくることに気づきましたし、自分が本当に意を決してやってきたものを「R&B? うまくいくといいですねー」って他人事のように言われたり、「盛り上げたいです」って言いながら自分は痛い目に遭わないように気をつけていたり、そういう人を見てずるいなって。そういう反骨心が今でもあります。
5分しか時間がないときにR&Bを選択してくれる人をどれくらい増やせるか
――JASMINEさんは来年でデビュー15周年です。15年やってきた中でモチベーションに繋がっていた感情は?
JASMINE:私は人生を歌ってる人なので。日常の人間関係から歌詞を書くことが多いんです。友達との喧嘩とか恋人とのすれ違いとか、そういうものが音楽に繋がっていく。反骨心でいうと、わりと最初から出ちゃってるというか(笑)。ベースに反骨心があって、そこに色づけしていくタイプだと思います。
――確かにデビュー曲「sad to say」の時点で、〈ちくしょう〉〈クソくらえ〉と、悔しさと反骨心を出してました。
JASMINE:結局、人間関係における悩みがいちばん深いと思う。対人関係、人とのコミュニケーションで摩擦が起きる。だから、それこそコロナ禍のときは、家で曲を作っているぶんには摩擦が起きず、私も幸せだったんです。
aimi:曲作りという面では幸せだったよね。
JASMINE:すごいスピードで曲が書けちゃうみたいなことが起きてたんですけど、外に出るとストレス、ハンパないなって。でも、それって誰もが大なり小なり感じていることだから、そこを突き詰めるようにして「この気持ちになってる本当の感情は何だろう?」と探りながら歌詞に落とし込んでいくんですよね。
――R&Bを広めるため、盛り上げるために、JASMINEさんはどのような行動を意識していますか?
JASMINE:シンプルに「R&Bはいいものだから聴きなよ」っていう感じ。単純に、今、R&Bは流行ってないだけというか。たとえば電車の移動時間とか、5分しか時間がないときに、たぶんみんな日本語ラップとかK-POPとかを聴くんですよ。そういうときにR&Bを選択してくれる人をどれくらい増やせるかなって考えたときに、もっとナチュラルに聴けるようになってほしいなと思って。まずは自分がリスナーの心に残る存在にならなきゃいけないし、自分のSNSでもBGMにR&Bをつけるようにしてるんです。そうすれば「この曲いいな」と思ってサブスクで聴く人が出てくるかもしれないし、「これと似た曲をもっと聴きたいな」って他の曲に入っていくかもしれない。そういうきっかけを増やしていきたいなって思ってます。
――JASMINEさんは「R&B is not dead」をスローガンにしていますよね。
JASMINE:そうです。私の中でR&Bは死んでないので。
aimi:私もそう思っています。イベントをやり始めたときに私が一番思っていたのはその言葉でした。「R&B is not dead」は、メアリー・J. ブライジが言ってたり、最近だとH.E.R.が言ってたりするけど、海外ではちょっと前まで死んだと思われていた。でも、死んでないってことが明らかになってきてるのが今の海外の情勢なんです。だけど、日本では「死んだ」ということで終了している。
――過去のものになっているというか……。
aimi:でも違うんですよって。進化を遂げただけで死んだんじゃないんだっていうことを私は伝えたい。新しいR&Bは聴きやすくてめちゃめちゃ良い曲がいっぱいあるよと。私たちがこうして最新サウンドを取り入れた作品を出すことも、それを伝える一歩だと思うし、古びたR&Bのイメージを払拭したいという気持ちが強いかもしれないです。
JASMINE:「Risk It All」は、そもそも私たちがカッコいいっていうことを証明した曲ですから。そうじゃないと先に広まらないと思うし。