BLACKPINKが示したグループの歴史、変化、そして進化 会場中をポジティブなムードで満たした東京ドーム公演を振り返る

 4月9日、約3年ぶりとなるBLACKPINK来日公演2日目の東京ドームの近くでは、開演前からグッズを手に入れようとする人々や、フラッグや告知ディスプレイなどの前で写真を撮るBLINK(ファンの通称)たちによって、まるでお祭りかのような盛り上がりとなっていた。実際、3年という期間がパンデミックの時期と重なっていたことを踏まえると、まさに今日は苦しい時期を乗り越えた私たちが再会を祝うパーティーなのだ。しかも、この日の約1週間前にはJISOO(ジス)の初ソロ作品『ME』がリリースされ、翌週にはアジア人アーティストとして史上初となる『コーチェラ・フェスティバル』でのヘッドライナー公演を控えているという、絶好にも程があるタイミングでの帰還だ。だからこそなのか、あるいは元からなのか、この場に集まった誰もがBLACKPINKに負けないくらい強く、ポジティブなムードを纏っており、開演前の時点で素晴らしい一日になることを確信することができた。

 会場内では開演までの間、これまでに発表してきたMVの数々が上映されており、ファンの多くはそれに合わせてペンライトを振るなどで楽しんでいたが、開演時間が近づくにつれて、その動きがより強く、統率の取れたものになっていく。会場内のざわつきはやがて声援へと変わり、遂に会場が暗転すると、それは凄まじいほどの歓声となった。

 会場中を歓声が埋め尽くす中、幻想的な森林の映像がステージ横のディスプレイに広がっていく。鮮やかな緑と色彩豊かな花々に囲まれた空間を、BLACKPINKのメンバーがまるでその草花とともに生きているかのように優雅に漂う。会場中の期待が最大まで膨れ上がったその時、おびただしい光とともに白を基調としたラグジュアリーな衣装を身に纏ったBLACKPINKが姿を現した。もはや悲鳴にも近いほどの歓声で満ちた会場に、ありったけの花火が盛大に打ち上げられる。そんな凄まじい状況の中で、メンバーはクールな表情とポーズを保ったまま観客の方へと近づく。この日のオープニングを飾ったのは「How You Like That」。会場中に壮絶な「BLACKPINK in your area」の咆哮が響き渡る。誰もがこの瞬間を待っていたのだ。

 今回のライブパフォーマンスは生バンドと、YGX(グループが所属するYG ENTERTAINMENT傘下であるダンスチームの所属事務所ならびにダンスアカデミー)のダンサーたちを交えたフル編成であり、視覚的にも聴覚的にも、音源を遥かに超えるスケールで楽曲が披露されていく。その破壊力は「How You Like That」の時点で存分に発揮されており、一瞬で会場の広さが全く気にならなくなるような感覚に陥るほどだ。その根源にあるのは他ならぬメンバーのパフォーマンススキルであり、美しくキレのある歌声や激しいダンスはもちろんのこと、特に力強いドラムが残す余韻と、フレーズのキメから次のパートの間までの呼吸、さらに激しくも無駄のないダンスが見事にシンクロすることによって生まれるスケール感は凄まじく、さながら強大なモンスターをBLACKPINKの4人が完全に手懐け、こちらに向けて攻撃を仕掛けているかのようだった。クライマックスパートでは激しいドラミングを筆頭とした豪快なバンド演奏と、YGXのダンサーを交えた壮大なダンスも相まって、「ブチ上げ」以外の言葉が思い浮かばないくらいの壮絶な空間が誕生していた。

 冒頭にしてクライマックスと言わんばかりのパフォーマンスに圧倒されるが、あくまでこれはBLACKPINKにとっての“平常運転”であり、そのまま攻撃の手を休めることなく「Pretty Savage」、「WHISTLE」と続いていく。「WHISTLE」では原曲同様に音数をグッと絞り、Aメロ・Bメロではそれぞれのメンバーのパートごとにスポットライトを当てる構図となっていたが、前2曲の「グループ/動」的魅力を叩きつけた上で、しっかりと「ソロ/静」的な魅力を印象づける巧みさに唸らされた。

 圧巻の冒頭3曲を経て、最初のMCパートへ。挨拶こそ丁寧に進んでいくものの、一通りの流れを終えると、一気にリラックスしたムードが会場を包み込む。LISA(リサ)の新しいヘアスタイルについて他のメンバーが話す姿は仲睦まじく(ROSÉ(ロゼ)いわく「ニュー・リサ」)、その後のMCでJENNIE(ジェニ)の新しいヘアスタイルについてメンバー総出で絶賛する様子は、まるで友達同士の会話を見ているかのようだ。この「魅せるところは徹底的に魅せるが、基本的には仲の良い4人組」という感覚は、今や世界的なスターとなったBLACKPINKの魅力を語る上では欠かすことができないものだろう。圧倒的な美しさやスキルを見せつけながらも、あくまで「共感できる存在」であるという絶妙なバランスがそこにはある。

 そのバランス感覚は、MCで一息ついてからの「Don't Know What To Do」、「Lovesick Girls」というBLACKPINKの楽曲群の中でも一、二を争うエモーショナルな楽曲が続く流れにおいて、より顕著に感じられた。冒頭3曲がグループのパブリックイメージ的な自信と力強さに満ちたものであるのに対して、この2曲はともに恋愛に翻弄される、ある種の弱さを描いた楽曲である。パフォーマンスにおいても「Don't Know What To Do」の途中でセンターステージへと移動し、「Lovesick Girls」では観客たちに手を振ったり、一緒に盛り上がろうとする瞬間が数多く見られ、アンセミックなメロディも相まって見事なパーティーが創り上げられていく。最後のサビでは早くも金テープが客席に放出され、もはや大団円と言っても良いムードの中で、メンバーはステージから去っていった。

 オープニングとはうってかわってモノクロの荒廃した世界を舞台とした映像を経て幕を開けた第二セクションでは、「Kill This Love」を皮切りに、黒+ビビッドな色使いが印象的な衣装に着替えたBLACKPINKが再び徹底的に攻めの姿勢を打ち出していく。第一セクションのバランス感覚はここでも踏襲されており、キャリア屈指のアバンギャルドな楽曲を東京ドームという空間に見事に炸裂させた「Crazy Over You」、予想通りステージ上から盛大に炎が噴き上がった「PLAYING WITH FIRE」という流れで観客を徹底的に盛り上げると、リラックスしたMCを経て、センターステージで披露された「Tally」で再び客席へと手を伸ばす。ただ、先ほどとの大きな違いは、〈I say "fuck it" when I feel it〉という象徴的なラインが示す通り、悩むのではなく一緒にFワードを放ちながら連帯するという点にある。

 思えばここまでの楽曲は全て『BORN PINK』以前のものであり、第一セクションは言わばグループの歩んできた過去を表現するようなパートだったと言えるだろう。共に悩み、共に自らを肯定するという流れを経て、遂にBLACKPINKにとっての最新の武器とも言える「Pink Venom」が披露される。グループにとっての定番フォーミュラを受け継いだ同楽曲だが、実際にライブで体感すると、これまで披露されてきたどの楽曲よりも、生のバンド演奏によってエネルギーがブーストしていることに気づかされる。ただ同じことを繰り返すのではなく、世界各国でのライブパフォーマンスを踏まえた上でアップデートした結果がここに表れているのだ。

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