sumika、結成10周年の誇りを胸に立った横浜スタジアム 不在を乗り越え、リスナーと共にバンドを続けていく決意
「さあ、ハマスタ! 始めましょうか」という歌詞替えにもワクワクさせられた「フィクション」。荒井のソロに見惚れた片岡が歌の入りに失敗し、2人で笑い合うという微笑ましい場面もあった「ソーダ」。小川の純度の高い歌声がスタジアムに響いた「enn」~「わすれもの」。さらに、歌詞をスクリーンに表示させながら届けたまっすぐなラブソング「透明」。片岡と小川の二重奏による「溶けた体温、蕩けた魔法」。ステージからバズーカを発射して盛り上がった「絶叫セレナーデ」。ハイライトを挙げればキリがないが、それもそのはず。この日sumikaは40曲を演奏。井嶋啓介(Ba)、George(Syn/Mop of Head)、三浦太郎(Gt/Cho/フレンズ)、岩村乃菜(Cho/Per)、村上基(Trumpet/在日ファンク)、ジェントル久保田(Trombone/在日ファンク)、後関好宏(Sax/Flute)、美央(Violin)、下川美帆(Violin)、舘泉礼一(Viola)、村中俊之(Cello)を迎えたリッチな編成で、sumika史上最長のライブに臨んだ。本編終盤では「やりたい曲が多すぎるからさ、ちょっとずつでもいっぱいやっていいですか!」(片岡)と7曲を一繋ぎにしたメドレーも飛び出す。
新旧様々な楽曲が披露される中、「雨天決行」を筆頭に、sumikaには雨降りの状態を描いた歌詞が多いと気づいた人も少なくないだろう。しかし雨空に俯く曲ばかりではない。例えば「イコール」では、〈雨のち晴れのち雨だって/抱いていた感情/全部持ってゆこう〉と前に進む気持ちを歌っている。「明日晴れるさ」に黒田が遺した言葉たちは3人や私たちが抱える喪失感にも寄り添うとともに、希望の兆しを感じさせてくれる。〈あなたの虹は/きっと綺麗だよ〉と片岡が歌い終えると同時に、ステージから観客の元へ虹色の光が伸びた。
たとえ今が雨降りの季節でも、いつか晴れ間がのぞき、虹がかかると彼らは信じている。というよりかは、彼ら自身もsumikaの音楽から信じる勇気をもらっているのだろう。そしてその勇気を私たちにも分けてくれている。ライブ終盤のMCでは3人がそれぞれの言葉で語った。
「10年かけてどうやらsumikaというバンドのファンになってしまったみたいです。めちゃくちゃつらいことがあった時、歌い続けたいというよりは、sumikaの音楽を聴けなくなるのが嫌だった。悲しい記憶で塗り替えて、大好きなバンドの記憶が途切れてしまうのが嫌だったんです。(中略)だから俺は智くん(荒井)が作った曲を聴くし、おがりん(小川)が作った曲も聴くし、隼之介が作った曲も聴く。俺が作った曲も聴く。その日々をまだ続けていきたい」(片岡)
「目の前にある景色は、奇跡のような現実の宝物です。今のsumikaにとって、今の僕にとって、とてつもないギフトです。(中略)悲しいから泣いてるんじゃない。未来が楽しみで泣いているんです。俺たちはまだまだやれる。sumikaは続いていきます。何があったって続ける選択をしていくと思う。どうかこれからもsumikaを愛してください」(小川)
「本当に悲しい出来事があって、この10年悲しいことばかりだったんじゃないかなって思ったりしてさ。でも時間が経って、少しずつ思い出した。この10年、楽しいことも幸せなこともあったんだよ。みんなでバカみたいに笑ってさ。(中略)俺らは最高に幸せなことも絶望的に悲しいことも味わって、それでも笑っていこうって決めたから。いつでもここで待ってる。また会えることを楽しみにしてる。ここっていうのは、ハマスタでも横浜でもライブでもないよ。俺たちの“sumika=住処”でまた会おうぜ!」(荒井)
本編ラスト「オレンジ」の〈「ただいま」と言える その場所が/スタートになる〉というフレーズを引き継いで、アンコール1曲目は最新曲「Starting Over」。過去や現在を引き連れて未来へ進もうという決意を力強く歌い鳴らすと、盛大な打ち上げ花火がバンドのことを祝福した。「たぶん届くはずだからさ!」(片岡)と天に向かって3万3千人で歌った「「伝言歌」」。スクリーンに映る歌詞は〈あなたに最期に今、投げかける/「伝言歌」よ〉と表記が変更されていた。「雨天決行」をBGMにエンディング映像が始まり、ライブ終演と思いきや、会場が突如暗転。照明によって浮かび上がったセンターステージには、ずぶ濡れになりながら曲の続きを演奏する片岡、荒井、小川の姿があった。自然に観客がシンガロングで加わり、片岡のボーカルと掛け合いを繰り広げる。〈この声が君に届くように〉という観客の歌声に対し、片岡が「届くまで決してやめぬように」「あなたの未来を照らすように」「掴んで二度と離さぬように」「あなたの世界を変えるように」「明日の世界を変えるように」と今のsumikaとして発する言葉を重ねていった。
スクリーンにメンバーが映るが、今度は4分割画面ではなく3分割。姿が見えなくなっても黒田の存在は3人を、そしてsumikaの音楽を形作る一部であり続けるはずだ。バンドを続けることでリスナーとともに人生を生きる道を選んだsumikaの信念、想いの強さが伝わってきたライブだった。彼らの活動をこれからも追っていきたい。
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