『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』、ゲームBGMが壮大な映画音楽に 秀逸な既存ポップスのセレクトも

 アメリカの議会図書館では、「文化的・歴史的・芸術的に重要」と思われる録音を毎年25作品選び、永久保存楽曲として収蔵している。2023年はジョン・レノン「Imagine」、マドンナ「Like a Virgin」、マライア・キャリー「All I Want for Christmas Is You」といった有名ナンバーと共に、ゲーム『スーパーマリオブラザーズ』のテーマ曲が選ばれた(※1)。「テレッテテレッテ〜♩」というあの心躍るBGMは、もはやワールドスタンダードな楽曲として認知されているのである。

 筆者はファミコン直撃世代で、貴重な少年時代を『スーパーマリオブラザーズ』に捧げたものだ。いやマジで、寝る間も惜しんでやり続けていた。我が青春に一片の悔いなし。そんなわけで、映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』であのテーマ曲が流れたときは、シンプルに感動してしまった。完全に、任天堂の手のひらでコロコロと転がされている観客の一人である。

Mario (voiced by Chris Pratt) in The Super Mario Bros. Movie, from Nintendo and Illumination.

 この映画は、非常に面白いアプローチで音楽が制作されている。オリジナルを作曲した任天堂の近藤浩治が、膨大なアーカイブの中から映画向きと思われる音源をピックアップ(テーマ曲はもちろん、効果音に到るまで!)。完成した楽曲リストが、『ワイルド・スピード』シリーズなどで知られる作曲家 ブライアン・タイラーに手渡され、ハーモニーやリズムをアレンジ。8ビットのピコピコサウンドが、壮大でエモーショナルな映画音楽へと生まれ変わった。

 もともと映画音楽の世界では、特定の人物や状況に主題をつけるライトモチーフという手法が用いられることが多い。オリジナルの音源をどんな状況のライトモチーフとして使っているかが、サウンドトラックの聴きどころなのだ。例えば、マリオとルイージがマンホールから下水道へと迷い込むシーン。これはサントラのM-7「The Warp Pipe」で聴くことができ、地下ステージに入るときの「デデ・デデ・デデ」というBGMがモチーフになっている。

 ピーチ姫が用意した特訓コースにマリオが挑戦するシーンは、M-14「Platforming Princess」。最初は失敗ばかりでも何度もチャレンジすることで経験値が溜まり、遂には成功に至るというプロセスは、まさにゲームそのもの。マリオが特訓コースをクリアしたとき、それを祝福するように流れる音楽は、ゲームクリア時のBGMだ。

 そして、マリオとルイージがブルックリンの街でクッパと最終対決するシーン。圧倒的な戦闘力の差を見せつけられるものの、無敵アイテムのスーパースターを手に入れることで形勢逆転。M-34「Superstars」のモチーフになっているのは、もちろん無敵モードになったときのあの軽快なBGMである。

関連記事