なとり、「Overdose」がストリーミング総再生2億回突破 Spotify CMソング「フライデー・ナイト」に感じるリアルな勢い

なとり「フライデー・ナイト」に感じる勢い

 「フライデー・ナイト」は、“ボーカリスト・なとり”の真骨頂が堪能できる1曲だ。リズムやメロと語感のマッチングで聴かせた部分も大きい「Overdose」や「猿芝居」と比べ、なとりの歌が前面に出ている。レコードの針の音、その後にカセットテープの録音ボタンを押す音……と、粋な演出で幕を上げる「フライデー・ナイト」は、ジャズのグルーヴを斬新に取り入れたトラックのメリハリ、物憂げなメロディ、ベースを軸にしたグルーヴなど、なとりの得意技も満載だが、間奏のボーカルアドリブ、楽曲の構成など新技もある。 “フライデー・ナイト”に、スリリングな逢瀬を楽しむ2人のストーリーが、後半のビックバンドのようなアレンジと相まって、じつにドラマティックな展開を見せる曲だが、最後はなとりの吐息のようなアカペラで終わる。このアカペラ部分の、力を抜いた、霞んで消えるようなニュアンスは、なとりの声質があってこそ生きるアプローチだ。例えばAメロでのオクターブユニゾンのようなハモリ、フレーズ終わりの一音にほんの一瞬リバーブをかけその音と重ねて歌い出すなど、ラップトップミュージックならではの面白さも随所に見られるが、一聴してそう感じさせないところに、ボーカリストとしての地力を感じる。なとりのボーカルは、ジャストより少し前から音を出し始め少しひきずるように一音目を出し、トップを音譜のジャストに持ってくるのがわかりやすい特徴だ。この手法が「フライデー・ナイト」では、グルーヴに大きく作用している。憂いあるメロディラインで、言葉をあまり詰め込まず、ロングトーンも「Overdose」よりも多めながら、湿度が高くなくどこか軽やかな印象があるのは、楽曲そのもののグルーヴがディレイしていないからだろう。つまり、なとりは、音符の後ろではなく前に余韻を持たせることで、メロディラインを生かしながら、楽曲全体に心地よいグルーヴを出しているのだ。これは、ボーカリスト・なとりの個性であり、天性のリズム感を感じる。

 ちなみに「フライデー・ナイト」は、なとりが音楽活動を始めて2カ月で作った曲である。「Overdose」「猿芝居」同様、待望のフルバージョンがリリースされたわけだが、ひとつ異なるところがある。「フライデー・ナイト」が、SpotifyのCMソングに起用されたのだ。Spotifyが毎年セレクトしている今年の躍進が期待されるアーティスト「RADAR:Early Noise 2023」に、「Overdose」1曲のみのリリースで選出されたことも、このタイミングでのCMソングへの起用も快挙だと思うが、どこか納得だ。

 快挙さえも納得させてしまう。それがなとりの楽曲のクオリティで、なとりの“今”である。そろそろ“知らない”ではすませられなくなってきた。これが、なとりというアーティストのリアルな勢いだ。

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■リリース情報
なとり 「フライデー・ナイト」
2023年3月31日 Release
Streaming & Download:https://natori.lnk.to/3lpzdNAW

■関連リンク
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