X Anime 第1弾『さみしいあなた』参加クリエイター座談会 吐息&世津田スン&仝&MINA、ホラーアニメと主題歌を通じた手応え
ネットクリエイターを基軸にした地上波TVアニメプロジェクト「X Anime」。その第一弾として、1話完結型の短編ホラーアニメ『さみしいあなた』(CBCテレビ)が放送中だ。
プロジェクトの最大の特色は、ネットを主戦場とするクリエイターたちの力が結集していること。同タイトルの主題歌の作詞曲をボカロPの吐息が手掛けているほか、キャラクターデザイン・アニメは“歌ってみた”のMVなどを多く手掛ける世津田スンが担当し、各話の原案は小説やイラストの投稿プラットフォーム「monogatary.com」上で募集された。
さらに主題歌を歌うシンガー2人は、クリエイター同士のコラボワークを促進するサービス「MECRE」と、2カ月半に及ぶCHETオーディションでそれぞれ選ばれた。MECRE枠は今回初めて募集に参加したという歌い手の仝(どう)、オーディション枠はかねてよりアニメ主題歌担当を目標にしていたMINAが勝ち取った。
今回、吐息、世津田スン、仝、MINAによるインタビューが実現。『さみしいあなた』へのそれぞれの参加経緯や、オンエア時の心境などについて振り返ってもらった。(ヒガキユウカ)
僕が思う「怖さ」をそのまま表現した
――今回地上波のホラーアニメということで、最初にお話があったときの第一印象はいかがでしたか?
吐息:やっぱり、制作した曲が地上波アニメで流れることに対する衝撃が大きかったです。アーティストさんへの楽曲提供の経験はありましたが、みんなが知っているテレビで流れるという経験は、想像もしていなかったので。
ジャンルがホラーであることは、僕としても「ぜひ」という感じでした。個人的にも明るい作品より暗い方がつくりやすいので、いいポテンシャルで挑めたんじゃないかなと思います。
世津田スン:僕も元々アニメオタクな部分がありましたし、地上波で、しかも自分の絵が流れることのインパクトが大きかったです。というのもイラストレーターとして描かせていただく絵は、基本的に何かを引き立たせるための存在として用いられるんですよね。そのことにフラストレーションというか、「もっと自分の絵が主体となって表現ができたらいいのに」と思っていました。だから僕は「イラストレーター」ではなく、「作家」を名乗って活動していたんです。
今回のお仕事はオーディションに僕のイラストを使っていただいて、物語も僕のイラストをもとにつくっていただくということで、かなり僕の絵が主体である部分が大きい。だからすごく心が動いて、すぐにOKのお返事をさせていただきました。
――歌い手のお二人にも伺いたいと思います。仝さんはMECRE、MINAさんはCHETオーディションで見事主題歌のシンガーに選ばれましたが、起用が決定したときの心境はいかがでしたか?
仝:もちろんすごくうれしかったですが、最初はまったく実感が湧かなかったです。いざ音源をもらったときに、「マジで私の声が流れてる!」って驚いたぐらいで。なかなか経験できることではないし、すごい機会をいただいたんだなって、音源を聴いて初めて実感がわきました。
普段“歌ってみた”動画をつくるときによく借りているスタジオがあって、「さみしいあなた」のレコーディングもそこでやらせていただきました。環境こそいつもと同じだったんですけど、めちゃくちゃ緊張しましたね。
MINA:オーディションの最終結果はLINEでいただいたんです。結果が届いたとき、ちょうど日頃から応援してくれている何人かの方と一緒にいたんですけど、「すごいじゃないですか!」って盛り上がってくれて。それで「あ、本当に受かったんだ」と実感が少し湧きました。それでも、まだどこか夢のような感覚で。その後SNSなどでファンの方がMINA以上に喜んでくれているのを見て、段々実感が強まっていきました。
――MINAさんはアニメの主題歌を担当することを、目標として公言されていたそうですね。
MINA:はい。普段から「この夢を叶えるために日々の活動を応援してほしい」と言っていたので、オーディション期間中からファンの方の熱量も高かったです。だから、一緒に頑張って一緒に喜べたという感じでした。
――「さみしいあなた」という曲について、歌ってみて難しかったところはありましたか?
MINA:まずキーがとても高くて、ひいひい言いながら歌いました(笑)。また、当時はホラー作品だと知らない段階で歌ったので、手がかりになるのが楽曲の印象だけだったんです。「いろんな感情が入り混じったとても難しい楽曲だな」と思って、どんなふうに表現しようかと試行錯誤しました。
仝:私が最初にこの曲を聴いたときは、すでにオーディションでMINAさんが決まっていて、かなり最終の段階でした。スンさんが描いたメインビジュアルがあって、ホラーアニメになることもわかっていて、その主題歌になるんだと思いながら曲を聴いたので、いろんな感動がありましたね。あとはMINAさんも仰っていましたが、「ボカロ特有の高音域だな」と思いながら、私もひいひい頑張って歌いました(笑)。
――お二人に歌ってもらって、吐息さんはいかがでしたか?
吐息:そうですね、まず思うのはもうちょっとキーを下げればよかったかなということと……(笑)。
仝・MINA:(笑)。
吐息:仝さんは、いくつか歌を聴かせてもらったんですけど中性的な声ですよね。良い意味ですごくネットシーンらしいというか。今回先んじてボカロ版が出ていたんですが、v flowerと歌愛ユキを使っているんです。特にv flowerは音の圧が強くて、僕はよく、力強い声で歌う曲のときに使っています。そこに仝さんの、力強いながらもホラーならではのおどろおどろしい雰囲気にもなじめる中性的な声がぴったりだと思いました。
MINAさんは、仝さんと良い意味で対照的だと思います。それこそ歌い手系ではあまり見ない、まっすぐ響く歌声ですよね。今回は地上波アニメの主題歌でもあって、時間帯こそ遅いものの、いろんな方に見てもらえる機会です。そこにMINAさんの声が加わることで、歌い手・ボカロカルチャーのファンに留まらず広い層に届くんじゃないかなと思いました。
――楽曲制作はどんなふうに進めていきましたか?
吐息:すでにスンさんのメインビジュアルが公開されていたので、それを見てから着手しました。「よく考えたら怖い系」じゃなく、純粋なホラーであることが一目でわかるイラストだったので、曲も回りくどいことはせずに僕が思う「怖さ」をそのまま表現しています。あとは1話完結のアニメなので、歌詞やタイトルではあまり「主人公感」を際立たせず、一歩俯瞰したようなものを目指しました。
世津田スン:ちょうど1話か2話の制作途中のときに、楽曲を共有いただいて聴きました。背景チームに海月いまりさんと栞音さんの2人がいるんですけど、みんな興奮してましたね。今回の企画のコンセプトに「ボカロMVをアニメに派生させる」という意図もあったようなので、本当にボカロ曲という感じの、ぴったりな曲だなと思いました。
――スンさんは、メインビジュアルをどんなふうにつくっていったんでしょうか?
世津田スン:僕はもともと心理学を使って、ネガティブな要素とポジティブな要素を組み合わせる形で絵を描いているんです。「ホラーアニメをお願いしたい」と言われたときも違和感はなく、むしろ親和性がありそうだなと思いました。
僕のイラストを主体として原案の作品を募集するとのことだったので、意識したのは「要素をたくさん入れること」です。たとえばペンダントを入れてみたり、背中から幽霊を生やしたり、頭を抱えさせたり……そうすることで、ペンダントからお話をつくる人もいれば、幽霊を主体にしてつくるなど、いろんな使い方をしてもらえればと思っていました。