佐野元春、GRAPEVINEらのDNAを受け継ぐ王道ロック Kamisado、コロナ禍結成の苦境を経たバンドの今
「“いい演奏をして、いい歌を歌えばそれでいい”というタームではない」(石川)
ーー結成した当初、サウンドのコンセプトはありましたか?
平野:1stデモ『レイトショー』の頃は、完全にThe Strokesを意識していましたね。「和製ストロークス」を目指すつもりでやっていたのですが、自分たちの持ち味やメンバー間のバランスをいい方向へ伸ばしていきたいと思ったとき、そこだけが正解ではないなという気持ちになって。そこからもうちょっとモダンな方向へとシフトしていったところはあります。もちろん、曲によって目指すサウンドや醸し出したい世界観もあるんですけど。
ーー曲作りは、基本的に石川さんと平野さんの2人でやっているのですか?
平野:そうです。基本はそれぞれでデモを作って持ち寄って。アレンジに関しても、方向性は各々が提示していることが多い。8割くらいは決まっていて、そこからバンドとしてのアレンジをどう加えていくかをみんなで考える感じですね。
石川:曲を持ち寄った人がイニシアチブを取り、仕上げていくことが多いですね。平野はギタリストなので、わりとリフを中心とした曲を持ってくるタイプかな。僕はコードとメロディから作っていくので、傾向はかなり違うと思います。
平野:もともと僕は、伊坂幸太郎や村上春樹、三島由紀夫など純文学系の小説を読むのが好きで、大学でも日本文学を専攻していたのもあって、やはりその辺りからの影響が強いかもしれない。あと、Galileo Galileiとかが好きだったので、彼らからの影響もある気がしますね。
石川:僕が書く歌詞の方が、どちらかといえば難解なのかなと思います。それこそ佐野元春や、彼の影響下にあるthe pillowsやGRAPEVINE、ASIAN KUNG-FU GENERATIONなどにインスパイアされて書くことが多いですね。もちろんストレートな歌詞も書きますが、得てして散文っぽい感じになりがちだし体言止めも多いからすんなり入りづらいところがあるのかも。
ーーバンドの中では、神保さんがアートワーク担当なんですよね?
平野:最初は誰もパソコンとかいじれなくて。『レイトショー』のアートワークは、手書きで描いた絵をスキャンしてWordで色を塗っています(笑)。2ndデモ『mischief』の時は、スマホのフリーアプリを使って適当に作ったのですが、さすがにこれじゃヤバイとなったときに神保が「クリエイティブは全部俺がやるわ」と言ってくれて。
最初は予算をケチりたいみたいな気持ちも正直あったんですけど、だんだん彼自身もそこにこだわりややりがいを見出してくれて。自然とこういう、いい感じのバランスになりました。
ーー結成が2019年の終わりで、すぐにコロナ禍が訪れるわけですが、そんな中でのバンド活動は大変だったのでは?
平野:大変でした。曲の作り方も実はそこで大きく変わりましたね。結成したばかりの頃は、リハスタを深夜パックで押さえて、そこでセッションしながら曲を作っていくような感じだったんです。そうやってレパートリーを増やし、ライブも月に2、3回できるようになってきたなと思ったところでコロナ禍になって。スタジオにも入れなくなってしまったために、僕も石川もDAWでのデモ作りをやり始めたんです。
石川:DAWでの曲作りで最初に平野が持ってきた曲が「ハイウェイ」(『our city dawning』収録)でした。アンサンブルも、それまでと比べるとかなり作り込まれているなと思いますね。あの曲の構成は、DAWじゃないとメンバーと共有しづらかったと思う。
平野:ライブで曲を披露する機会がコロナ禍では圧倒的に少なかったので、聴いてくれた人からのフィードバックは得られない代わりに時間だけはたくさんあるという状態だったので、とにかくやりたいことをDAW上でとことん突き詰め、それで音楽性の幅も広がっていったのかなという気はしますね。
ーーようやくコロナ禍も落ち着いてきて、ライブもできるようになってきました。何か手応えみたいなものは感じますか?
石川:「いい演奏をして、いい歌を歌えばそれでいい」というタームではもはやないと思っていて。「何を残して次につなげていくのか?」ということは常に考えていますね。そこがこれからのライブ活動、バンド活動のキーワードになっていくのかなと。コロナ禍が2年前よりも好転してきたからこそ、これからギアを上げていきたいです。
ーー2023年に入り、2月から3カ月連続のシングルリリースを行っていますよね。第1弾シングル「Morning Bell」が2月にリリースされ、3月に「Cheese Cake」そして4月に「Converse」のリリースが予定されています。全体を貫くテーマはありますか?
石川:昨年6月にリリースした1stミニアルバム『our city dawning』のときは、7曲の中でストーリーの流れみたいなものを表現していて。今回それとは対照的に、3作それぞれが違う方向性を持った「短編集」的な内容にしたいと思いました。
平野:「Morning Bell」と「Converse」の歌詞は僕が、「Cheese Cake」の歌詞は石川が書いているのですが、個人的にはどれも暗いムードから始まって最後はポジティブへ向かっていくような、そんな歌詞が揃ったような気がしていますね。
ーーこのたびリリースされる「Cheese Cake」は、どんなふうに作っていったのでしょうか。
石川:曲は2年くらい前からあったんです。その時はもっと簡素なアレンジだったんですけど、今やるなら色々と手を加えたいなと思ってブラッシュアップしたデモをメンバーに聴かせました。その時点でデモの雰囲気から「Cheese Cake」という仮タイトルが付いていたのですが、響きが良かったのでそのまま本タイトルに採用しました。そこから歌詞を考えるのはかなり大変だった記憶があります(笑)。
テーマもどちらかと言えば暗いですし、わかりやすく誰かを「元気づけたい」というメッセージでもなくて。「がんばれ」とか「強く生きて」みたいな言葉って、言うは易しだけど実際それで人は動かないよ? というネガティブな思いがこの曲の主人公にはあるんですよ。とはいえ、「誰かの心に寄り添いたい」みたいなポジティブな側面もあって、常に心が引き裂かれている状況なんです。その部分を描くには、かなり言葉を選ばなければいけなかったし、それをメロディに乗せていくのは今までになく難しかった。最終的には納得のいくリリックになったんじゃないかと思っています。メンバーに見せた時もみんな「いいんじゃない?」と言ってくれたので良かったなと。
平野:アレンジも苦労しましたね。石川から送られてきたデモのニュアンスを保ちつつ、自分流のアレンジを加えようとしたらどんどん深みにハマってしまって(笑)。もともとの曲のムードも、めちゃくちゃパワーがある感じではないし「どうなっていくんだろう……?」みたいな。歌詞の内容も、僕はわりと見慣れているから「ああ、なるほどね」ってなるけど、具体的なのか抽象的なのかわかんないみたいなところがあるので。
石川:確かに、いろんな解釈が生まれそうな歌詞だなと自分でも思います。ただ、曲ってリスナーの手に渡った時点でその人たちのものだと思っているし、それでいいのかなと。そもそも分かりやすければいいわけでもないと思うし、そこは戦いどころかなと思っていますね。
ーー「Converse」はもっと分かりやすい気がしました。
平野:これは僕が書きました。「モラトリアムの終わり」みたいなものをテーマにしています。小さい頃からずっと考えていたことだったので、それをストレートに出そうという気持ちがありましたね。
ーー今後、どんなバンドに成長していきたいと思っているのか、最後に聞かせてもらえますか?
平野:より多くの人にリーチし得るバンドになりたいと思っていて、そのためには曲作りやライブなど一つひとつに真摯に向き合っていくしかないなと思っています。
石川:とにかく今は、種をまいている時期だと思って目の前のことにフォーカスしていますね。
■リリース情報
Kamisado「Cheese Cake」
2023年3月8日(水)
Music Link:https://big-up.style/yqbEzhHnUE
■ライブ情報
3月26日(日)下北沢LIVEHOLIC
3月29日(水)新宿Marble
4月2日(日)下北沢近道
4月5日(水)西永福JAM
4月8日(土)宇都宮HELLO DOLLY
4月16日(日)下北沢サーキット 「KNOCKOUT FES 2023 spring」
You Tube:https://www.youtube.com/@kamisadotokyo_band
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