佐野元春、GRAPEVINEらのDNAを受け継ぐ王道ロック Kamisado、コロナ禍結成の苦境を経たバンドの今

 2019年12月に結成され現在はサポートドラマーを加えた4人編成で活動中のKamisadoが、今年に入って3カ月連続でシングルをリリース中だ。1990年代~2000年代のローファイやパワーポップ、ロックリバイバルなどに影響を受けた洋楽テイストのバンドアンサンブルと、J-POPにも通じるようなポップ性を兼ね備えたボーカル&メロディが有機的に混じり合ったその音楽性は、「バンド不遇」と言われるストリーミング時代のいま、非常に稀有な存在だ。

Kamisado / Cheese Cake (Music Video)

 結成直後にコロナ禍が訪れ、バンドとして思うような活動ができない中で彼らはどのように試行錯誤を繰り返し、苦境を乗り越えてきたのか。最新シングルの制作エピソードを含め、石川颯人(Vo/Gt)と平野雄大(Gt)にじっくりと話を聞いた。(黒田隆憲)

佐野元春、GRAPEVINE、the pillows……Kamisadoのルーツ音楽

ーーそもそもお二人が音楽に目覚めたのはどんなきっかけだったのですか?

石川:母親は大学時代にバンドサークルに入っていましたし、父親はフォークギターで弾き語りをやっていたので、気づけば音楽が身近にある環境でした。家には父親が学生時代によく聴いていたCD、例えば尾崎豊や浜田省吾、スピッツなどのアルバムなどが置いてあって、僕もそれを聴いていました。小学生の頃には「自分は歌手になる」って言っていたみたいですね(笑)。ギターのコードとか父親に習っていたのですが、そのうち僕の方が詳しくなって教える側に回っていました。中学に入ると軽音楽部に入部して、それからは高校も大学もずっとバンドサークルに所属していますね。

ーー佐野元春が好きだったんですよね?

石川:父親が持っていたCDの中でも特に好きだったのが佐野さんでした。「佐野元春らしさ」みたいなものにとらわれず、それでいてどんなスタイルの音楽を作っても佐野さんらしさが滲み出るところが魅力的だし、自分が音楽を作る側になったときによりそのすごさを実感しています。

ーー佐野元春のアルバムで特に好きなのは?

石川:1992年にリリースされた『Sweet16』が今年リイシューされる予定ですが(『SWEET16 30th Anniversary Edition』)、そのアルバムを含め80年代後半から90年代前半くらいが特に好きです。当時のビジュアルとかもかっこいいんですよね、短髪で(笑)。10代後半くらいになってthe pillowsやGRAPEVINEを好きになるのですが、彼らの音楽的ルーツの一つは間違いなく佐野元春なので、自分の中で「繋がったな」と思いました。

ーーとはいえ石川さんのボーカルスタイルは、佐野さんとはかなり違いますよね?

石川:「Kamisadoの石川颯人」としてのボーカルスタイルは、田中和将さん(GRAPEVINE)とチバユウスケさんからの影響が特に大きいと思っています。技術的な部分と表現的な部分をバランスよく出せたらいいなと、レコーディング現場でもステージでも思っていますね。

ーーでは、平野さんが音楽を始めたきっかけは?

平野:僕も最初は親の影響が大きかったですね。父親は、その世代の典型的なリスナー遍歴だと思うんですが、まずハードロックとヘビメタにハマり、そこからAORやディスコミュージックまで手を伸ばして。かと思えばサザンオールスターズや大瀧詠一も愛聴しているという。僕も、漠然とそのあたりの音楽を聴いていました。

 子供の頃は、父親に連れられてよくレンタルCDショップへ行って、そこで『NARUTO』の主題歌を担当していたASIAN KUNG-FU GENERATIONを知って激ハマりしました。そこからいろいろ掘っていきましたね。例えば洋楽だったらOasisやWeezer、日本だとくるりとか。

ーーなるほど。

平野:あと、小学校高学年の時に通っていた塾の講師からTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTを教えてもらって、それきっかけで周辺の音楽も聴くようになりました。最初にギターを弾きたいと思ったのは中学生の頃で、お年玉で安いギターを買って練習したのですが、すぐに挫折しました(笑)。高校に入ってもう一度チャレンジして今に至ります。

平野雄大

ーーギターを弾こうと思った理由は?

平野:小学校低学年の頃、マイケル・シェンカーが在籍していたUFOというバンドの「Rock Bottom」を聴いたときに「ギターってかっこいい!」と衝撃を受けたことを、いまだにはっきりと覚えています。もちろん、例えばSonic YouthやDinosaur Jr.あたりのUSオルタナも大好きですし、現在フェンダーのJaguarを使っているのもその影響です。ただ、「このスタイルに憧れてずっとやってきた」と思う人が実はそんなにいなくて。かっこいいと思うのはノエル・ギャラガー、ジョン・フルシアンテ、アルバート・ハモンド・Jr.の3人。日本だとやっぱりthe pillowsの真鍋吉明さんです。

ーーKamisadoの結成は、大学の音楽サークル内だったそうですね。

平野:3年生の時に今のメンバーでThe StrokesやBECK、ナンバーガールなどを演奏していたんですけど、そのうち「自分たちのオリジナルでもやってみる?」みたいな流れになりました。

石川:大学を卒業して就職するのではなく、このまま音楽を続けたいという気持ちがそれぞれあったので一緒にやることになりました。ほぼなりゆきですね(笑)。というのも、それまでも自分でオリジナル曲を作ってたまにバンド編成で披露していたんです。ただ、その人たちとそのまま音楽を続けていく気もなかったし、そのころの環境に飽きていた自分もいたので思い切り刷新したかったんです。そういう意味では、絶妙なタイミングだったと思いますね。

ーー平野さんと出会えたことが、石川さんにとってはターニングポイントだったわけですね。

石川:こういう機会だから言わせてもらうと、心強いですよやっぱり。僕よりも音楽を幅広く聴いていますし、顔も広くて交友関係も幅広い。曲も書けるし機材にも詳しくて、まるで「ドクター」みたいな存在でしたね(笑)。僕だけだったら、とてもここまでバンドが進んではいなかったと。

平野:ありがたいです(笑)。僕からすると、周りで一番歌がうまかったのが石川だったんです。共通言語になる音楽もたくさんあって、「どういうバンドになっていくか?」みたいなビジョンも明確に描けたし共有できたのも大きかったですね。石川と組んでいなかったら、また全然違う展開になっていたと思っています。

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