Tielle、混沌とした世界で歌う未来への希望 最新ミニアルバム『Light in The Dark』に表れた音楽家としての思想
私は自分のことを“筒”だと思っている
ーー海の一番深いところにゆっくり沈んでいっている絵が浮かびます。その後の「CRY」はどんなイメージですか。
Tielle:海の底に太陽の光が差すような、上を見上げて歌う賛美歌のような曲ですね。私の中の代名詞となり得る曲ではないかと思ってます。私が言いたかったことが、一番ちゃんと言えたなっていう感覚があって。
ーーその言いたかったこととは?
Tielle:私は悲しいんだってことに気づけたんですよね。私は歌を通して、憤りを叫ぶことしかできなかったけど、私が求めていたのは歌いながら泣けることなんだなと思って。この曲は、本当に歌いながらずっと泣けるんですよね。それぐらい自分の気持ちが込められている。もともとは、アフリカ系アメリカ人の男性を白人警官が窒息死させた出来事(ジョージ・フロイト事件)がきっかけでできた曲なんですけど。
ーー「Black Lives Matter」のきっかけになった事件ですよね。
Tielle:そうです。事件現場で撮影された動画を見ると、周りにいる人たちは「やめて。彼が死んじゃう」と言っていたけど、警察官はやめなかった。そこには何世紀にも渡って続く根深い人種差別の問題があると思うのですが、深く考える中で事件の本質や自分の感情がわからなくなってしまったんです。私は考えるだけで何もできない。その無力さに、虚しさと不快感を感じました。このもどかしさを昇華するためには、私は曲にして、歌い上げることしかできないなと思ってできた曲です。
ーー絶望に似た“私”の悲しみを一方的に叫ぶだけでなく、“あなた”や“私たち”と一緒に泣いてますよね。
Tielle:私は基本的に「私を見て」というタイプではないんですよ。私は自分のことを“筒”だと思っていて。ある気持ちを通してる、ただの気管で、常に私はいないんですよね。だから、歌詞に“私”が出てこないし、別の人の話というか、客観的にずっと見ていることが多い。だから、この曲でも、私も泣いてるし、あなたも泣いてるし、みんな泣いてるっていう。さっき言ったように、誰の責任でもないよっていう思いをぶつけていますね。
ーー続く英歌詞の「by your side」はラブソングと言っていいですか。
Tielle:想定していたわけではないのですが、私にとって一番のラブソングになりました。インパクトの強い曲の間の緩衝材として、さらっと歌える曲があったらいいなと思っていたんですけど、結果的に一番のお気に入りになりました。アデルが自身の若い頃について歌う「When We Were Young」という曲を聴いているときに、昔を思い出して「あの頃はよかった」「昔に戻りたい」と周りの人は言うけど、時が経っても変わらないものもあるよなと思ったんです。ずっとそばにいてくれる友達やパートナー、関係性が変わったとしても居続けてくれることは究極の愛なのではないかと思った時に、私は今も別に悪くないなと思って。だからこの曲も、写真のアルバムをめくりながら、どんどん現在に近づいていくような感覚で作っていきました。
ーーだから、ずっと過去形を使ってるんですね。
Tielle:そうなんです。最後だけ〈We are ok/Times I forget/I am ok by your side〉となり、今に着地する。「大丈夫、大丈夫」と優しくハグするような。1stフルアルバム『BEYOND』の「CalmTown」のような立ち位置の曲になっていますね。