アニメ『REVENGER』の異国情緒あふれる音楽が生まれるまで Jun Futamata、伝統楽器を駆使した初の劇伴制作を語る

Jun Futamata『REVENGER』劇伴を語る

メインテーマにはブラジル音楽からの影響も

ーーいろんな楽器が使われている中でも、特に印象的なのがメインテーマの冒頭でも使われている三味線でした。

Jun:メインテーマのメロディはアクセントが強い楽器の音が欲しいと考えていました。かき鳴らすような音が浮かんでおり、エッジがあって、響くサウンドの楽器は何だろうと考えた結果、津軽三味線にたどり着きました。今回が「初めまして」だったんですけど、小山豊さんの演奏がとても素晴らしく、楽曲に魂を込めていただけました。

ーー「REVENGER メインテーマ」は三味線で始まり、その後バイオリンに移って、後半では声になる。その展開も非常に印象的です。

Jun:この曲は同じメロディでも前半と後半で印象が変わるようにしたいと思って。コードという背景がついた瞬間にギュッと切なくなる、郷愁を感じさせるような曲にしたいという意図をもって作っていきました。

ーーコードを考えるにあたって、インスピレーション源はありましたか?

Jun:アニメの印象としては重く切ないシーンが多く、でも大きな決意のような前向きな雰囲気もある。その両端を感じられるサウンドにするにはどうすればいいかなと考えた時に、ブラジル音楽の持つサウダージなサウンドに行きついて、ブラジル音楽の中にあるコードワークのスパイスを持ってきて、楽曲にしました。

ーーもともとブラジルの音楽にハマったのはどういう経緯だったのでしょうか?

Jun:グレッチェン・パーラトが「Flor de Lis」という曲をカバーしていて、その曲をきっかけにジャヴァンやミルトン・ナシメント、ドリヴァル・カイミなどを聴いたり掘り下げたりカバーしたりするようになりました。

ーーブラジル音楽を基にしたコード進行に三味線が乗るという組み合わせからして面白いですけど、三味線を演奏した小山豊さんも伝統的な津軽三味線だけじゃなく、いろんなジャンルの方とコラボレーションをされている方なので、やり取りはスムーズだったのかなと。

Jun:そうですね。イメージを瞬時に汲んでくださり想像以上に素敵な曲になりました。「生住異滅(しゃうぢゅういめつ)」は特に三味線をフィーチャーした曲で、リベンジするシーンを想定し、「テンション高く弾いてほしい」というお願いをしました。箏もすごく面白くて。箏奏者の中しまりんさんに弦をはじくノイズっぽい表現をお願いしたところ、「鯨波(げいは)」ではフリーで弾いていただいた演奏がものすごくエッジーで、素晴らしいスパイスになりました。

ーー箏は「四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねずみ)」でも使われていますね。

Jun:鳰が(繰馬)雷蔵を連れて長崎の町を案内するシーンを想定して作った曲です。鳰が雷蔵の反応を楽しみながら町歩きをしているシーンなので 少し滑稽で、でも楽しくなり過ぎないバランス感を 何の楽器なら表現できるかずっと迷っていて、最初は自分でカリンバを入れてみたんですが、それだとかわいらしくなり過ぎてしまって、もうちょっとシリアスな要素を入れたいと思ったときに、筝がいいのではないかと思い、りんさんに弾いていただいたらとても素敵な楽曲になりました。

ーー他に変わった楽器で言うと、「異類異形(いるいいぎょう)」で使われているオンドモも珍しいですよね。オンド・マルトノの簡易版みたいなもの?

Jun:そうですね。この曲は 鳰をイメージして作りました。キャラクターがそれぞれ個性的なので、そのキャラクターから感じ取れるサウンドを意識して楽曲を作りました。鳰が出てくるシーンはかわいらしさと残虐さ、どちらも感じられるような楽器を使いたいと思っていました。オンドモのサウンドは人の声に近く、シームレスな動きをするのが魅力的だと感じていました。メロディの上に本澤さんのオンドモのラインが重なったときの美しさと妖艶さが素敵で、この曲になくてはならない楽器だと感じました。

ーーそれぞれのキャラクターをイメージした音があるわけですか?

Jun:真面目な雷蔵と素直になれない惣二の距離感がだんだんと縮まっていくシーンには、近しい楽器を使いたいと思い、サックスとバリトンサックスをメインにした曲を作りました。(碓水)幽烟が出てくるシーンは、色気やスタイリッシュさを感じられるよう、松原慶史さんにはスパニッシュっぽいギターを弾いてもらいつつ、情熱的というよりは、少し冷静さのあるソロを弾いてもらったりしました。

音楽と視覚芸術をかけ合わせることへのさらなる興味

ーードラマーの石若駿さんが参加している曲もありますね。

Jun:石若さんも初めましてだったんですけど、彼の参加作品はいくつも聴いていて、サウンドもエクスペリメンタルな部分も素敵で、ぜひご一緒したいと思っていました。「澆季末世(ぎょうきまっせ)」は冷静さを失いそうな苦悩や葛藤を描いた曲で、ピアノのリフは淡々と、あまり熱を帯びないように、対してドラムはかき乱されてるような精神状態を表現してほしく、縦のラインを作り過ぎず自由に、荒々しく叩いてほしいとお願いしました。石若さんに参加していただき、とても楽曲が映えたなと思うシーンがいくつもありました。

ーーあとはやはり「声」が印象的に使われている曲も多いですね。

Jun:最初から声を入れようと思ったわけではなく、「ここに何が入ってたらよりグッとくるかな?」と考えて、「声」という選択肢にたどり着いた曲がいくつかありました。ただ、作品のカラーにどうフィットさせるかはすごく悩んで。節のある歌いまわしにしたり、性別や年齢感を感じさせないようピッチを下げたり、そういう工夫はたくさん試しました。

ーー『GRAVITY』が高音のイメージなのに対して、『REVENGER』は中低音なイメージです。

Jun:どうやったら血生臭さとか憎悪感を出せるのかすごく悩みました。自分でもまだ開けたことのない扉を開くきっかけにもなり、結果、今まで自分でも知らなかった側面を見つけることができました。 

ーー曲タイトルもおそらくご自身の作品ではつけないであろうタイトルが並んでいますが、当時の文献をかなり調べたんですか? それとも、もともと歴史がお好きだった?

Jun:調べたりもしたんですけど、もともと日本の古語が好きで、本もいくつか持っていたので、その中から最初は日本古来の色の名前をタイトルにしようと思ったんです。ただ、色の名前は美しい表現が多くて、『REVENGER』にはあまりフィットしなかったんです。「あったかもしれない架空の長崎」をイメージして、自分で作った造語とかも入れて……そうしたら、読めないタイトルばっかりになっちゃいました(笑)。当時描かれていた絵巻とかも探して、そこにどんな動物が描かれているのかを見て、そこからタイトルをつけたりもしていて。その曲は6月に発売されるBlu-rayに収録されているサウンドトラックの続編の中に入っています。

ーー音楽性も含めて非常に個性的で、劇伴作家としての大きな第一歩になったのではないかと思います。最後に、今後の音楽家としての展望を話していただけますか?

Jun:音楽と視覚芸術をかけ合わせることはこれからもずっと追求していきたいと思っています。 また、映画音楽やインスタレーション音楽を手掛けたい気持ちも強いです。ずっとあたためている空間作りも時が来たら開きたいと思っています。

オリジナルアニメ「REVENGER」(リベンジャー)PV第5弾
『TVアニメ「REVENGER」オリジナルサウンドトラック 黎』

■商品情報
『TVアニメ「REVENGER」オリジナルサウンドトラック 黎』
音楽:Jun Futamata
発売日:2023年2月22日(水)
価格:¥3,300(税込) 

<収録内容>
01 REVENGERメインテーマ
02 生住異滅(しゃうぢゅういめつ)
03 異類異形(いるいいぎょう)
04 玻璃糸(はりよま)
05 羅刹(らせつ)
06 澆季末世(ぎょうきまっせ)
07 一六(いちろく)
08 戯合(ざれあう)
09 四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃくねずみ)
10 粗雑(ぞんざい)
11 表長屋と花簪(おもてながやとはなかんざし)
12 悪木(あくぼく)
13 虎落笛(もがりぶえ)
14 沈金(ちんきん)
15 渾沌(こんとん)
16 陰翳(いんえい) 
17 炊臼之夢(すいきゅうのゆめ)
18 附子(ぶす)
19 積屍気(せきしき)
20 明け六つ暮れ六つ(あけむつくれむつ)
21 春霖片陰(しゅんりんかたかげ)
22 鯨波(げいは)
23 怨憎会苦(をんぞうえく)
24 濤声(とうせい)
全作曲・編曲:Jun Futamata / 本澤尚之

公式サイト

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