佐藤千亜妃、宇多田ヒカルのサンプリングが誘う時間旅行 米津玄師らも取り入れる90~00年代J-POP再解釈のタイムマシーン的効果

佐藤千亜妃、なぜ宇多田ヒカル サンプリング?

 さらに「Automatic」は、恋愛により突き動かされる衝動、コントロールの効かない“Automatic=自動的な”身体を歌った作品だった。それは、〈唇から自然とこぼれおちるメロディ/でも言葉を失った瞬間が一番幸せ〉というラインで、“言葉を失った瞬間=不意の口づけ”により自由を奪われた時こそが幸せであると宣言されていたことからも分かる。実は、このアンコントローラブルな身体性は「タイムマシーン」においても丁寧に踏襲される。〈セブンスターの匂い〉や〈8回目のベル〉など、佐藤千亜妃お得意の嗅覚・聴覚をフックにした表現で宇多田作品へのオマージュを見せながら、それによって生まれた止まらない恋愛の記憶を〈心臓が全身に涙を排出してる〉という極めて操作不能な身体の暴走として描出する。

 いや、「タイムマシーン」だけではない。「melt into YOU feat.a子」では〈電池切れで止まればいい〉〈背反してゆく身体〉と歌い、「CAN’T DANCE」では〈上手く踊れない私達はstay up late〉〈だんだん踊り方思い出してくよ〉と繰り返す。「1DK」はさらに示唆的だ。〈捨てといてと言われた思い出やコードが絡まって解けなくなった〉というラインは、まさに自由自在に可動することのできない身体を浮き彫りにしているーー恋愛感情に突き動かされ自身をコントロールできなくなった「Automatic」のごとく。『TIME LEAP』は、時間旅行を通じて身体の不自由性を描いているのである。

 そもそも佐藤千亜妃の音楽活動そのものが、身体の不自由さに突き動かされてきた表現の積み重ねに思えてならない。スポンテニアスな声の力に迫ったアルバム『KOE』も、”夜の片隅”をテーマにしたEP『NIGHT TAPE』にてラップという初めての試みで紡いでいった「PAPER MOON」も、彼女は常にボーカル表現の広い可能性を探りつつ、同時にJ-POPサウンドの王道を貫いてきた。自由な志向性と型の両立、そこから生まれるある種のいびつさこそが佐藤千亜妃の魅力に他ならないのだ。ゆえに、本作『TIME LEAP』は、時間旅行を通して彼女が自身を批評していくような作品であるとも言える。敬愛してやまない宇多田ヒカルをそういったメタ的な作品でサンプリングしたことは、佐藤千亜妃のキャリアにおいて今後決定的な意味を持つに違いない。

■リリース情報
デジタルEP『TIME LEAP』
配信中
https://asab.lnk.to/timeleap
 
・収録曲
1.「タイムマシーン」
作詞:佐藤千亜妃 / 作曲:宇多田ヒカル、佐藤千亜妃 / 編曲:Chaki Zulu
2.「melt into YOU feat.a 子」 作詞・作曲:佐藤千亜妃 / 編曲:Teppei Kakuda
3.「CAN’ T DANCE」 作詞・作曲:佐藤千亜妃 / 編曲:Chaki Zulu
4.「EYES WIDE SHUT」 作詞・作曲:佐藤千亜妃 / 編曲:Shin Sakiura
5.「1DK」作詞・作曲:佐藤千亜妃 / 編曲:ニューリー

■ライブ情報
TIME LEAP” Release Party「LEAP LEAP LEAP」
2023年2月24日(金)@東京・渋谷WWW
開場19:00
開演19:30

■関連リンク
・オフィシャルサイト:https://chiakisato.com/
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