稲葉浩志、ソロで繰り広げる実験的かつ内省的な音楽活動 新曲「BANTAM」リリースや7年ぶりソロコンサートに向けて

稲葉浩志のソロとB’zでの表現の違いとは

稲葉浩志 / BANTAM

 ソロの作風として最大の魅力であり、またB’zと異なる点として挙げられるのは「センチメンタリズム」である。

 B’zはスタジアム級のユニットとして、演奏面だけではなく楽曲の世界観も非常にダイナミックである。たとえば「ギリギリchop」(1999年)、「ultra soul」(2001年)は間違いなくソロでは成立しないだろう。B’zの楽曲は、タイトルや歌詞のワードセンス、そしてサビに向かって突っ走っていくメロディと沸き立ち方など、すべてにおいてスケールが大きい。観客が大勢であればあるほど盛り上がれるように作られている。そしてなによりカタルシスに満ちあふれている。

 一方で稲葉のソロ楽曲は内面的な部分が濃く感じられる。それはシンプルに、B’zでは作曲をギタリストの松本孝弘がつとめていることに対し、ソロではサウンド面も稲葉が手がけていたり、アレンジを担当しているからだろう。楽曲の方向性などトータルで「稲葉浩志ワーク」であることが要因として考えられる。

 デビュー曲「遠くまで」は、リリース当時から稲葉の内面があらわれた曲として語られている。同曲で歌われたのは、誰だって人生には浮き沈みがあること。特に見事だったのが〈車についた小さなすりキズを 気にしてオロオロ生きていくんだろうか これからずっと〉という一節。たとえちょっとしたことであっても、人間は悩んだり、苦しんだり、時には人生という大きな流れにまで影響を及ぼすものである。クヨクヨしてしまうものだ、と。そしてそれは自分だって同じことであると稲葉は伝えた。ビッグアーティストである稲葉が、私たちと変わらないナイーブな一面を持っていることをそこで知れた気がした。

 新曲「BANTAM」でも〈無理に自分をデカく見せるのは つい最近やめたところですわ〉〈自分だって代わりの効かない 存在だと思われたいじゃない〉など、自分に素直に生きることの尊さを歌い上げている。稲葉のソロ曲にはそうやって、誰しも抱えている気持ちが赤裸々に投影されている。だからこそ「生きることとは、どういうことなのか」という人間の根源的な部分に触れた問いかけを、曲から感じることができるのだ。

 大きな規模で開催される『Koshi Inaba LIVE 2023 〜en3.5〜』は、繊細な曲がたくさんそろっている分、1本の映画を観たようなドラマ性あふれる内容になるはず。B’zで感じられるカタルシスではなく、もしかするとライブ鑑賞後はいろいろと考えさせられるものがあるかもしれない。ちなみに公演タイトルの“en”とは、ソロプロジェクトにおいて稲葉自身が大切にしている言葉。表現の「演」、人と人とをつなぐ「縁」、ひとつになる「円」といった意味がこめられているという。人と密接に関わることが推奨されなかったコロナ禍。離れてしまったそれぞれの距離を引き戻すようなメッセージが放たれるのではないか。

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