V系/バンド好きライターが『ヒプノシスマイク』のライブにハマった理由 ステージを通じてキャラクターが動き出す瞬間も
過去開催してきたヒプマイのオールディビジョンライブでは、常にライバルと共にステージに立ち、熱いバトルを繰り広げてきたが、今回の単独ライブは同ディビジョンの仲間3人のみ。キャストはライバルを意識することなく100%観客と向き合いながらライブを繰り広げる。バトルというハイライトがない分、ライブそのものの真価を問われる公演だったとも言えるが、先述した通りのパフォーマンス力で、物足りなさなど感じさせない満足度の高いステージを見せてくれた。
また、ライブを通して自分の中にあるキャラクター像が動きだす瞬間が何度もあった。たとえば、アフロが「革命」のラストで「Never Never Never Never Give up、俺もそう思うよ、十四!」と、四十物十四のソロ曲「月光陰 -Moonlight Shadow-」の歌詞になぞらえて呼びかけたとき、十四はどんな反応をしたのか。美しさだけでない家族との関係性を描いた「ネクター」を聴く空却や天国獄はどんな表情を浮かべていたのか。これまでにない熱量で「開眼」をやりきったあと、3人は何を思ったのか。互いにどんな言葉をかけあったのか。そんな風に彼らの様子や心中をとめどなく想像してしまったのは、きっと筆者だけではないだろう。ライブを観ながらキャラクターのストーリーが自然と心の中に広がっていく感覚は2次元コンテンツのライブならではの面白さだった。
楽曲やドラマトラック、ゲーム、アニメ、コミックスなど様々なメディアで展開されているヒプマイにおいて、ライブもそのうちの一つだが、全員が同じ時間を共有して同じ光景を見るという体験は有観客のリアルライブならでは。目の前で繰り広げられるパフォーマンスを観て、観客は「まさにキャラがここに居る」「こんな一面もあったのか」「これは自分のイメージと違う」と、自然と頭の中にあるキャラクター像と照らし合わせ、それぞれの思いを巡らせる。それは、生身のアーティストによる自己表現を受け、拳を突き上げたり飛び跳ねたりして楽しむという本能的なライブの楽しみ方とは真逆で、頭をフル回転させながら味わう、ある意味複雑で高度な楽しみ方のようにも思えた。もちろん今回のナゴヤ・ディビジョン公演に限らず、ヒプマイにおける全てのライブ、ひいてはキャラクターを介する2次元コンテンツのライブ全体に言えることだろう。
ヒプマイは、ディビジョンごとのラップバトルを主軸にしたコンテンツとしてスタートしたが、2021年に2ndバトルを終えてからは少しずつ流れが変わりつつある。5周年を迎えた2022年6月には『CROSS A LINE』と名づけたアルバムをリリースし、ディビジョンオールメンバーが穏やかな日常を歌う新曲や、ディビジョンをシャッフルして組んだ即席チームによる新たなエピソードを描いたドラマトラックを展開。9月には今回取り上げた初のディビジョン別単独ライブ『CONNECT THE LINE』をスタートさせた。これまでは過去の因縁や争いで結びついていた18人のキャラクターたちは、CROSS(越える、交差する)、CONNECT(繋がる)をキーワードに、いま新たなステージへと進み始めている。
そして2023年4月には、次なるライブ『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle- 9th LIVE ≪ZERO OUT≫』が、オールディビジョンメンバーによって開催される。音楽ライブにおける本質的な素晴らしさや、キャラクターを介するライブならではの魅力を単独ライブで発揮してきた彼らが再び集結したとき、どんなステージになるのか。ライブの新たな楽しみ方を教えてくれた彼らを、これからも追いかけていきたい。
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