THE SLUT BANKS、ロックバンドらしく暴走し続ける 2年ぶりアルバム『Lucky & Rock』に散りばめた音楽の原体験

俺たちみたいに好きにやってるバンドがいたと残すことが重要(TUSK)

——GODさんのドラムがいい感じでバンドの起爆剤になっていますよね。「SWEET GIRL」の暴れ具合なんてスリリングで最高です。

戸城:あれは最初、ライブではおとなしく叩く場面もあったけど、それは許さんぞって。Aメロだろうがなんだろうが、とにかく「全力で叩け!」と伝えて。

坂下:最初から最後まで、全部がドラムソロだって。

GOD:ありがちですね。最初に曲ができて、割とシンプルに叩きがちのところを「もっと増やせ、もっと増やせ」って、どんどんパートや手数が増えていくっていう。その最たるものですね、「SWEET GIRL」は。いちばん死にそうになる曲。

戸城:でもたかが3分だからね。頑張れよ、若いんだから!

GOD:っていうことを言ってくるんですよ(笑)! 若くたってつらいものはつらい。この必死感はTHE SLUT BANKSじゃないとやれないです。

——それがバンドの活力となり、サウンドにも表れていますよね。打って変わって、キャッチーでポップさ全開の「ラッキーROCK」も新鮮でした。

戸城:これこそ、まさに子供の頃に聴いてたポップス。俺、The Supremesとか、モータウンみたいなのも好きだから。

——アルバムタイトルにもなっていますけど「Lucky」といった、明るいストレートな言葉がTUSKさんから出てくるのが意外だなと思ったんですよ。

TUSK:確かにね! 言われてみればそうかもしれない。これはズバ抜けてキャッチーな曲だったんで。本当は可愛く歌いたかったですけどね。そうもいかなくてギリギリのラインでしたけど、元気に歌おうと思って。だから「Lucky」とか「Rock」とかわかりやすいワードを入れたんですよ。

——女声コーラスのハマり具合も最高です。

戸城:あれは狙って、ああいう女声コーラスを可愛く入れて、とことんポップにしてやろうと。曲はポップなんだけど、ドスの利いたおっさんが歌ってるから(笑)。でもコーラスが可愛く入るとポップになって、よくできたなと思う。

——THE SLUT BANKSにこういう手法もありなんだと思いました。

戸城:なんでもありだからね。

——とはいえ、イメージもあったり、実際やるとなったら難しかったりもしませんか?

TUSK:厳密にいえばね。だからTHE SLUT BANKSがこうやって好きなことやって、<キングレコード>からアルバムを出してもらえてるのはラッキーなことでさ。日本のロックはどこから始まったのか……。(忌野)清志郎さんかもしれないし、鮎川誠さんかもしれないし、もっと前からか、はたまた今の人かもしれない、もしかしたらこれからかもわからない。だけど、そういう中で、俺たちみたいに好きにやってるバンドがいたと残すことが重要だと思うんだよ。

戸城:なんか、テーマがデカくなってきたな!

言葉を乗せるだけじゃなくて、意思も乗せたい(TUSK)

——しっかり爪痕を残すと。続く「RAIN CAT」の色気のある感じもこれまでなかったですよね。

戸城:そうそう、ないよね。歌謡曲チックなのが好きだから。なんか絵が浮かぶでしょ、ネオン管のさ(笑)。俺、この「ラッキーROCK」からの流れが好きなんだよね、よくできてるなって。

——シタールがまたいい感じに響いてますね。

坂下:そう、まさにシタール。あのフレーズの最後の音が不思議な感じで止まっていて、淫靡な感じを盛り上げてます。

——それで「JUMPIN’ TRIPPIN’」のドラマチックなイントロに流れていく。

戸城:あれはリッチー・ブラックモア(笑)。イントロだけRainbow。

——ああ、言われてみれば! そういう古き良き要素を散りばめても、ちゃんTHE SLUT BANKSらしい軸がしっかりあるからこそブレないですよね。哀愁漂うメロディであったり。

戸城:メロディがはっきりしていて、拭いきれない日本らしさというのかな、それが好きだから。ハードロックとか、パンクロックとか、そういうジャンルじゃないもんね、このアルバムは。よくわからない。でもそれでいいと思う。

——メロディでいえば、TUSKさんならでは言葉選びがあって、語感やアクセントが与える影響は大きいと思うんですけど、メロディに対する言葉のハマりってどう考えてらっしゃるんですか?

TUSK:慣れちゃってるといえば慣れちゃってるし。でも忠実にそのメロディに文句を言わせないフレーズをぶっ込んでると思いますけどね。戸城さん、変えると案外うるさいですから。いいと思っても、ギターのコードとのコンビーネーションがあるんだとか、意外と奥深いんで。

坂下:そうなんだよね。ギターのカウンターフレーズのコードを弾いた時にメロとハモってるとか、すごく緻密にできてるんですよ。

TUSK:そういう中でも、言葉を乗せるだけじゃなくて、意思も乗せたい。言葉選びも慎重にはなるよね。なんでもいいというわけでもないし、メッセージというほどじゃないにしろ、リアリティとか時代というものは反映したいしさ。まぁ、どうしてもという時には強引に。だから歌入れは戸城さんがいない時にやるんだけど(笑)。これで文句のひとつも言わせないくらいの想いを込めてでやりますね。

——「カミカゼドローン」のクラシカルなピアノもいいフックになってますよね。

戸城:今回そういうのが多いんだけど、これはABBAを意識したんだよ。

TUSK:「ダンシング・クイーン」的な。

戸城:子供の頃に聴いた、ピアノといえばこんな感じっていうのが出てきてさ。あの頃に聴いてた音楽はジャンルなんて関係ないんだよね。リッチー・ブラックモアも、ABBAも、オリビア・ニュートン・ジョンもそうだし。そういうぐしゃぐしゃに混ざった感じ。もちろんロックバンドが大好きだから、KISSやAerosmithに夢中になったりもしたけど、子供の頃はロックもポップスも全部一緒に聴いてたんですよね。そういう頃を思い出して作ったというわけではないけど、影響はされてるかな。逆に新しく聴いて取り入れたものはひとつもない。だから、らしくていいのかなとは思う。

——いろんなことをやってきた今だからこそ、自分の音楽の原体験的なものに向き合えたこともありますか?

戸城:今、そういうアイコンになれるようなバンドがいないからね、NirvanaとかGUNS N' ROSESみたいな。だから原体験的なものになっちゃったかな。俺も長い歴史があるから、LAメタルが流行ったからそれに乗って、グランジが流行ればグランジやるか、みたいな時代を生きてきたからさ。

坂下:プログレもやったしね。

戸城:そういう流行に乗っちゃえ、みたいなのはもう散々やってきて。この歳になって、もうそういうのはなくなった。だからもう、死ぬ直前の走馬灯みたいなアルバムだな。

一同:(大笑)。

——坂下さんは、そういったロックもポップスも、という楽曲におけるギタリストのあり方、位置みたいなところはどう考えましたか?

坂下:それはもちろん。曲を活かすのがいちばんだから、そこでしゃしゃり出て「ここで俺はこのフレーズを入れるんだ!」って無理やり入れても、OKなんて出ないし。

戸城:俺とやるようになって、ソロとか事前に考えてくるようになったと思う。

坂下:アハハハハ!

戸城:昔は絶対やってねえなコイツって思った。「ハモとか入れたことない」とか言ってて、どんなギター弾いてきたんだ!? って(笑)。

坂下:そうだね、その場の勢いだったからね。

戸城:キャッチーで歌えるソロじゃないと、俺は許さないから。ソロも曲の一部になってるのが好きで、メロディを歌えるのと一緒でギターソロも歌えるというのが俺のリクエスト。

坂下:清春くんとかからそういうこと言われたことないもんな。だからTHE SLUT BANKSは今でも一緒にやるのが新鮮なんだよね。毎回ためになるんだよ。なんか合宿所で勉強してる感じはある。レコーディングで実験して、みたいな。TUSKのすごい歌詞が出てくるし、やっぱりこの人たちすごいなって、何回やっても毎回思うね。

あえてルーツを探らずに自分の解釈でやるのが楽しかったりする(GOD)

——刺激にもなっていると。ギターソロ含めて、印象的なフレーズが多いですよね。

戸城:「カミカゼドローン」のソロとかいいよね。まぁ、ソロというか曲の一部になっちゃってるけどね。

坂下:でも個人的にもそういうほうが好きかな。ギターソロらしいギターソロは技術的にも得意じゃないし、それよりも曲を盛り上げるのが好きです。

戸城:俺は譜面を埋めるようなピロピロとしたソロよりも、KISSの「Detroit Rock City」のギターソロがいちばん好き。あの中学生でもできそうなのがいっちばん好きだから。

坂下:でも、そういうのがいちばん難しい。ちゃんと考えてないとできない。

——そういった古いロックやポップスの散りばめ方を、20代のGODさんはどう捉えてますか?

後藤:出来上がったものを聴くと「いいな」と思うんですけど、その辺の裏話に関しては「そうなんだー」ってなることが大半です。これは自分が不勉強なところもあると思いますけど、好きなプレイヤーができたとして、じゃあ、その人が好きだったルーツを探ろうとか、そういうことをあまり積極的にやっている人間ではないので。

TUSK:そこは我々と一致する必要はないしね。いいと思う、バランスだから。

GOD:ちょっと前までは、そういうのはよくないんじゃないかというコンプレックスに思ってた時期もあったんですけど、なんか「それでもよくね?」と思えるようになってきたというか。

坂下:自分は自分だからね。

GOD:有名なプレイとか聴き齧りはするんですよ。でもそこで「これはすげえ、もっと聴こう」ってならないんだったらそれでいいじゃんって、素直になってきた。それでやりとりを聞きながら「ああそうなんだ」ってなって。実際に音を聴いて、「じゃあ、こういけばいいかな」って、あえてルーツを探らずに自分の解釈でやるのが楽しかったりするし、それでいいんじゃないかなって思います。

——我が道を行ってるわけですね。でもそうでなくてはTHE SLUT BANKSのドラムは務まらないと思います。そういえばGODさんのYouTubeチャンネル、「叩いてみた」動画を拝見しましたけど、アニメ好きなんですね!

GOD:そうです。

戸城:ミスターオタクです!

坂下:ガチです! 彼はガチです!

GOD:「叩いてみた」動画に関しては自分が好きな曲をやっているだけなんで。『鬼滅の刃』が世間的に流行った時も、自分は『鬼滅の刃』を見てなかったからやらなかったし。多分これが「叩いてみた」で名を馳せてやろうという人だったら、絶対やったと思うんですよ。

——そういう人がTHE SLUT BANKSで叩いているのが面白いなぁって。

戸城:そういうのを隠さないしね、今の子だな〜って思う(笑)。

——でも、バンドの状態はすごくいいですね。20代と60代のミュージシャンが和気藹々と一緒にやれている。ロックバンドにおけるひとつの理想形だと思います。

TUSK:そうだね。おじさんたちが若い子に「Led ZeppelinもMötley Crüeも知らないのかよ!」って言ったところで、「逆に今流行ってるバンド知らねえだろ!」って言われたら、「あ、知らないです……」ってなるからさ。お互いさまだよね。

——確かにそうですね。そして、リード曲は「ラッキーROCK」と「ワンカップ」、2曲あります。

戸城:「リード曲を何にしますか?」って聞かれた時に、迷ったんだよ。捨て曲がなくて。「ラッキーROCK」はタイトルだし、これにしとこうって。「ワンカップ」はTUSKの歌詞がいいよね。だってワンカップだよ(笑)?

——“TUSK節”全開ですね(笑)。ちなみにTUSKさんって喉のケアとかされるんですか?

TUSK:するわけないじゃないですか(笑)。潰してナンボだと思ってます。日本のバンド界隈もこの先10年、20年で面白くなるのか、どうなるのか。街のはみ出し者がバンドやってる感じがなくなっちゃったよね。それは本当はいいことなんだけど。

戸城:女のケツ追いかけてるようなバンドがいないもの。

TUSK:だからといって、己の道は諦めないですけど。

戸城:パワー感あるドラムと歪ませたギターとベースで、ポップなことやってるロックバンドらしいロックバンドっていないじゃん。“THE SLUT BANKSは最後のロックバンド”って書いておいてよ!

TUSK:ダメダメ、“しぶとくやってるロックバンド”で(笑)!

THE SLUT BANKS『Lucky & Rock』

■リリース情報
THE SLUT BANKS『Lucky & Rock』
12月14日(水)リリース
3300円(税別)
<収録曲>
01.ぐにゃり
02.SWEET GIRL
03.いびつな飛行船
04.ラッキーROCK
05.RAIN CAT
06.JUMPIN' TRIPPIN’
07.カミカゼドローン
08.ガイライヤマイ
09.ワンカップ
10.血流あげろ
11.どうにもならねぇよ
12.殺るのか殺られるのか

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